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海沿いの町で人々と不思議な猫に癒される物語(植原翠:『おまわりさんと招き猫』1)

植原すいさんのライト文芸作品『おまわりさんと招き猫』(ことのは文庫)の第1巻を読みました!

作者の植原さんが静岡出身とのこともあり、本屋で見かけるたびに凄く気になっていたシリーズです。最近あまりファンタジーっぽい作品を読んでないな…と思ったのを機に手にしてみました。

物語は海沿いの町「かつぶし町」を舞台に、人の言葉を話す猫・おもちさんと町の人々の温かくてちょっと不思議な日常が描かれます。個人的にかつぶし町の雰囲気は、年明けに家族と行った沼津の風景を連想しました。

ゆったりと時間が流れているような物語で、とても居心地の良い作品でした。「あやかし」や「神様」という存在が町の人々にすんなり受け入れられているという世界観も凄く素敵。私もこんな町で暮らしてみたくなりました。でも百鬼夜行は見たら眠れなくなりそうですが。

かつぶし町とおもちさんの魅力が存分に楽しめるエピソードが多い中、私が今作で好きだったエピソードは、「大騒ぎはお断り」「わだつみの石」の2つです。

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まず「大騒ぎはお断り」は、おもちさんが「人の言葉を話す猫」としてテレビ番組で紹介されるという出来事を描いたお話でした。

テレビで紹介されるということは、おもちさんだけでなく、かつぶし町に興味を持ってくれる人が増えることでもある。でもそれがメリットばかりかというと、実はそうでもなかったりする。

主人公・小槇こまきくんと地元のおばあさんとの会話の中で、こんな言葉がありました。

「もっと賑やかに栄えてほしい気持ちもあるけれど、それで町が忙しなくなってしまったらちょっと寂しいわね。いつまでもこうであってほしいと思ってしまうのは、わがままかしら」
「わがままなんかじゃないですよ。僕も、この穏やかな情緒が、かつぶし町の魅力だと思います」

p116

私も2人が話していたことには大変共感しました。時代によって発展する地域・賑わう地域がある一方で、昔ながらの雰囲気を守り続ける地域もいつまでもあってほしいなと思います。

確かにおばあさんが言うように賑わうことでメリットもあると思うけど、観光地化してしまうことでかつぶし町本来の良さが奪われてしまったらやっぱり寂しくなります。昔から町を見守っているおもちさんもきっとみんなと同じ気持ちだったのではないでしょうか。

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「わだつみの石」はファンタジーっぽさもあり、日々においても大切なことを教えてくれる話でもあって、非常に「あやかし系」のライト文芸作品らしいエピソードでした。

かつぶし町には、昔から人々に大切にされている「わだつみの石」という岩があります。町を守る神様であるわだつみの石を、山村くんという少年が汚してしまいます。山村くんはわだつみの石の力を信じていませんでしたが、後日彼に起きた災難によって、わだつみの石がどれほど町にとって大切な存在だったのかを実感します。

善い行いには優しさが返ってきて、いじわるをしたらそれなりの報いがある。おもちさんからのお言葉もあり、山村くんは神様に謝ることを決意しました。おもちさんが言ったことは神様だけでなく、人間が相手だとしても絶対に忘れてはならない考えだと思います。

かつぶし町にいつも穏やかな空気が流れている秘密がなんとなくわかっただけでなく、いい行いを積極的にすればいつか返ってくること、悪いことをしてしまったらしっかり謝ることの大切さを改めて感じたエピソードでもありました。

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今回の感想で触れたエピソード以外にも、癒されるお話やちょっと不思議な世界にいるような感覚になれるお話が盛りだくさんでした。ひとつひとつのエピソードもそれほど長くないので、少しずつ読むにもちょうど良かったです。猫好きの人や、本を読んでゆったりしたい人には凄くおすすめしたい作品です。

続編も少し前に出たそうなので、今度読んでみます。次は小槇くんとおもちさんのどんな物語と出会えるのでしょうか。最近現実逃避できるような小説に出会いたかったので、今の気持ちにぴったりの1冊に出会えて嬉しかったです!

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