何も起こらない日常が1番幸せ(鳩見すた:『種もしかけもない暮らし』)
鳩見すたさんの『種もしかけもない暮らし』(メディアワークス文庫)という作品を読みました!
今作は、マジシャン姉妹のいずみさんとちずさんの日常での些細な出来事を描いた物語となっていました。姉妹がなんでもない話をしたり、美味しい物を食べたりする(そしてカロリーを気にする)だけの話ですが、これはこれで凄く面白い!
姉妹にも仕事や恋愛で辛い時もあるそうですが、それでもちょっとした幸せを見つけては、楽しく日々を過ごす2人の姿に微笑ましくなりました。
「幸せ」と聞くと、私は仲良く話せる友達や恋人に恵まれている、結婚をしているなど主に人間関係の面に目を向けてしまいがちです。だけど今作を読むと、幸せって予想以上に身近にあることに気付かされます。
大きな幸せに目を向けるだけでなく、家族と会話をする、自分だけの時間を楽しむ、美味しい物を食べるなどといった「小さい幸せ」を日々大切にして毎日を過ごしていきたい!と読んで思いました。
また、「豆苗」の視点で姉妹の日常が描かれるのにも作品の個性を感じました。豆苗ってスーパーの野菜売り場にあるあれです。1回食べてからも根っこを水につければまた生えてくるあれです。
鳩見すたさんの既刊もかなり個性的な作品(ペンギンがホテルやっている話など)が多いですが、まさか豆苗視点の物語が誕生するとは驚きです。カメラのように姉妹の日常をとらえ、彼女たちのやりとりを温かく見守る豆苗も、姉妹同様すっかりお気に入りのキャラクターになりました。豆苗のわりと博識なところもシュールで良き。
それから、ひとつひとつのエピソードが短時間で読めてしまうところもポイント高かったです。作品全体の雰囲気が超ゆったりしているので、今作は一気読みには向かないかと。毎日のご褒美感覚で1、2話程度のペースでのんびり読み進めるのがおすすめです。
基本的にはシュールな展開が多めですが、時にはミステリー風味の話とか姉妹の恋愛を描いた話とか異なる雰囲気のエピソードもあって、最後まで飽きずに楽しめました。
ライト文芸作品でも珍しいタイプの小説だと思ったので、もうちょっと豆苗と一緒に姉妹の生活を見ることができたらいいな…と続編に期待です。