ソケリッサ!と踊ったあの夜
昨年のクリスマスからビッグイシューを買っている。きっかけはほんの些細な出来事だったけど、気づけば毎月販売者さんたちに会いに行くようになった。単に販売者さんたちと話すのが楽しいのと、ビッグイシューの内容が勉強になるから買い続けている。
ある日、販売者の方から「実は踊りをはじめたんだ」という話を聞いた。「新人Hソケリッサ!東京近郊路上ダンス『日々荒野』ツアー#12」なるもので、シンガーソングライターで文筆家でもある寺尾紗穂さんという方とコラボするという。(ソケリッサ!についてはこちらから)
「踊りといっても簡単なんだけどな」と照れたように笑っていたけど、それがどんな踊りなのか気になったので見に行くことにした。
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3月9日(金)、場所は南千住駅から歩いて10分ほどにある玉姫公園。会場までは怪しげな街並みでちょっとびっくり。心なしか街灯も暗い。
まるで異国の夜を歩くような気分で向かっていくと、美しい歌声が聴こえてくる。
30〜40名ほどだろうか。会場にはすでに人が集まっていて、若い女性もいれば会社員、学生らしき人もいる。大勢いるはずなのに不思議と寺尾さんの声だけが響く静かな空間だった。誰にも邪魔できない優しい歌声にみんなが耳を傾けているようだった。
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寺尾さんが数曲歌い上げると、ソケリッサのメンバーたちによるパフォーマンスが始まる。いわゆるコンテンポラリーダンスというのだろう。体の動きを捉えるので精一杯で、正直一度見ただけでは何を表現したいのか考えるのが難しい。
それでも私がとにかく感心したのは、彼らの生命力と精神力だ。
気づけば立ち見が出るほど大勢の観客が集まり、中には私のようにカメラを構える人もいる。吐く息さえ白い小雨が降る状況で、照れもせず堂々と、かつ繊細に体を動かす。
ダンスというのはおそらく、体さえ動かせられれば誰でも始められるだろうけど、こうして人前でやろうとする・できる人がどれだけいるだろうか。もし自分が同じ立場なら、凍える寒さの中、たくさんの目に囲まれて、一心不乱に踊ることができるのだろうか。
肉体と精神の強さがかっこいい。プロだと思った。
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一度パフォーマンスが終わったところで自分の体が冷え切っていることに気づく。
休憩しようとテントへ向かうと、温かいコーヒーやお味噌汁、おにぎりといった炊き出し、そしてカイロがなんと無料で配布されていた。コーヒーとカイロを頂いた時のありがたさといったら...本当に身に染みた。ありがとうございました。
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そして後半は、寺尾さんとソケリッサのメンバーが個々でコラボすることに。自分が好きな寺尾さんの曲を選んで踊るというものだったが、選曲からはなんとなくお一人お一人の人柄が見えた気がした。
ここで印象的だったのは、スポットライトを遮らないように観客らが意識的に席をどいていたことだろう。勘違いかもしれないけど、誰もが表現を邪魔しないように会場の雰囲気を作っていたように思う。
それから寺尾さんの優しさも垣間見た。一曲終わるごとに一人ずつと会話していたのだが、相手の良いところを引き出すような聞き方があまりにも優しいので女神かと思った。
寺尾さんに「また見たいです」なんて言われたら、絶対頑張っちゃう頑張れちゃう。そんな心地よいトークだった。
一方で、この光景を見ながら自分が感じた矛盾は、「これがもしホームレスという状態の人々のパフォーマンスでなくても自分は魅力を感じられたのだろうか」ということ。
この点についてはまだ説明できないので、「その状況を存分に活かすのもパフォーマンスとしてあり」という結論にとどめておく。
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そんな小難しいことを考えていたら、「最後の曲です」と寺尾さんが歌い始める。『アジアの汗』という曲らしい。スキップしたくなる可愛らしいリズムに合わせ、ソケリッサの皆さんが踊り始めた。
体を揺らす観客たち。ソケリッサに飛び入り参加するおじさま。あたたかい笑い声。そして私たちに向かって手招きするソケリッサのメンバー。
気づくと私にも「一緒に踊りましょう」と手が差し伸べられた。
「え、まじで」と驚きつつ、足を上げ、シャッターを切り、後ろも振り向かず、思い切って輪の中へ走った。
手を差し伸べられたことの嬉しさ
踊っていたい
写真が撮りたい
残しておきたい
見てもらいたい
そんな感情が溢れ、身分も人格もわからない、見た目も国籍もばらばらの人間が集まって体を動かすダンスとは、なんて自由で平等な表現なのかと感動していた。
踊る側の目線。こんなに人がいたのかと驚く反面、一緒に踊っている人がいる安心感から緊張せずに踊りきることができた。(といっても私は撮るのに夢中で途中から踊っていなかったような気がする...)
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すべてのパフォーマンスが終わり、代表のアオキさんが挨拶すると会は終了。観客は払いたいだけ支払う"投げ銭式"でメンバーにお金を渡す。
私は音響の良い映画館で作品を一本観たつもりで支払った。
雨の中、見送ってくださったソケリッサの皆様。深々とお辞儀する方も。
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数日経った今でも最後にみんなで踊ったことが忘れられない。あの瞬間に名前をつけるなら、まさしく『人類の祝祭』だろう。(最近見た映画「グレイテスト・ショーマン」がとっても好きな作品だったので台詞をお借りした)
ちなみに、私に「踊りを始めたんだ」と誘ってくださった張本人は欠席だった。理由はわからないけど、またやりたくなったら踊ればいい。限界を迎えてしまった人を除いて、人は誰でもきっとどんな状況になっても伝えたいものだから、言葉にしづらいことの代わりに何かで表現して発散してほしいと思う。
その方が踊るところを見てみたいし、今回は寒さのせいで満足いく撮影ができなかったのも悔しいし、またソケリッサを見に行こう。
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