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【海と山の境目】 第4話 灰色の銃
暗闇に怯えながら帰宅する途中、くしゃくしゃに踏まれたブーケがあった。気づかれぬままでヨレヨレになり、言葉を持たずに横たわっている物の本心を知る術はない。雑踏のなかで目に止まった、そんな光景を、冷静に見られる隆志がいた。冴えない喫茶店から外に出る瞬間に包まれる、ふっと軽くなる身体の爽快感と共に。
二つしかないはずの道に、言葉だけが迷い込んでいく。真ん中に灰色の道があったのか。機関銃で撃ち抜いてでも
【海と山の境目】 第3話 傘と裏路地
雨が降り始めた。裏路地にあった昔ながらのたたずまいのBar。傘を閉じて、試しに入ってみれば、一見さんお断りの雰囲気。店に入ったときの縄張りに入ってしまったような乾燥した空気とともにドアを開く。そういえば、あの金網越しの護送車の終着点は、内側から鍵が開かない場所だった。この店を出る時は、どんな気持ちになるのだろう。
冴えない常連だらけの輪の中に入れない。凍った空気の中にいる自分。テーブルに映る影。
【海と山の境目】 第2話 背後にあるサンドノイズ
笑うことを酷く嫌う。笑いが起こる所には、必ず誰かの犠牲がある。ややもすると、自虐で存在をアピールし、自分への注目を乞うだけだと。正反対には、微笑みがある。ほほ笑むことだけに専念する。ほほ笑みは、相手を征服したことだと決め込んでいた。
性に関して多感になる歳頃、隆志は、ふとした事故から、致命傷を負った。怪我からは回復するも、顔面の傷跡だけは消えることはなかった。思春期の彼には、心にも大きな傷となっ