【海と山の境目】 第7話 コンセントの曲がり角
まぶたの裏の模様を描くように、奥行きを創造する流れに沿った曲線を描きたかった。その絵の具に手を伸ばし、触れることなく肌にのせたかった。その方法ばかりを考えていた時期があった。
若い人たちに絵を描くことを教える立場にあった隆志は、教え子に描くという技術を教える。しかしながら、それが上の空になってしまうほど、考えるにつれて途方もなく暗闇に転がり込む、触れずに肌で感じとるという到達点は、どこにあるのかということを考えあぐねていた。
一流と二流の差は、判断する速さなのか。深さなのか。一流は、自分の捜し求めている方法を、すでに知っているのだろうか。ただ、ひとつだけ明らかだと感じられたことは、物事を冷ややかに観ている者は、三流にもなれないことだった。
感覚的に出来上がる隆志の絵は、その絵の解釈を求められたとしても、後付けの説明しかできないはずだった。仮に、自分の描いた輪郭や線のウネリを、違う角度から解釈されてしまうのであれば、孤独に陥ることは間違いない。筆の流れの中にある奥行きを視てもらえなければ、どうでもいい角度に感心されてしまう。そこには、自分自身でも解釈できないことを、誰かに定義されるとしたら、そこには虚しさだけが遺ったはずだ。
アトリエ工房の帰宅途中にある公園の古池に、大きな石を投げる。カタマリが、水を押しつぶして、沈んだ濁りが噴射した。
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