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目に見えない価値にお金を出させる/出す所作がなぜ不可欠か(特に地方創生の意味において)

目に見えない価値を、付加価値としてお金に変える(「お金を出す」も含む)所作。それを怠ると、企業組織が衰退するのみならず都市そのものが痩せ細る。今回はそんな見解を綴ってみたい。


1.「気配り」「おもてなし」をマネタイズしてこなかった負の側面

昨今の日本を見ていて、以下の負の連鎖を僕は感じている。

「気配り」「おもてなし」を価値としてお金に変えるマインドや発想の欠如

顧客に安売りして or 買い叩かれ

(提供者側の)続けるモチベーションが下がり、カット

サービスの陳腐化 and 顧客の体験価値低下

顧客離れ

「気配り」「おもてなし」をマネタイズしない問題地図

SNSを見ていても、宿泊施設や飲食店などのサービスに対して「以前はやってくれたのに、気を利かせてくれない」「過去が特別。いまはできない」などの、顧客とサービス提供者の応酬をよく目にする。

どちらの言い分ももっともだと思いつつ、その背景には上記の構図があるのではないかと感じる。
過去は当たり前のように提供できていた付加価値も、今ではそうはいかない。一方で、付加価値部分の対価をもらってさえいればやめずに続けられたのではないかと思うと、なんとももったいない

これはいわゆる、サービスデザインサービスマネジメントの問題である。

2.とはいえオプション料金を細かに設定すれば良いというものでもない

では、「気配り」「おもてなし」部分を追加オプションで料金設定して顧客から徴収すればよいかというと、そう単純なものでもない

サービス提供者側はいちいちオプションの内容や金額の説明をする手間が面倒。顧客も、都度説明を受けて追加料金を支払う手間も面倒なのである。
(法人の顔でサービスを受ける場合、領収書が無駄に増えるのもお互い(ほんとうに)面倒くさい
なにより、そのようなオペレーションを挟むと場が白ける。そのデメリットは計り知れない。

個別の付加価値サービス単体でお金を払ってもらう必要は必ずしもない。
トータルで儲かっているから、個別のサービスを無償(というより追加料金ナシ)で提供できている世界もあろう。

無駄なオペレーションを挟まず、顧客に心地よくお金を落としてもらうために……

・あらかじめ付加価値分を含んだ料金設定にしておく
・会員制サービスにして、会員料金で付加価値分をカバーしておく
・別の顧客接点で儲かる仕組みにしておく

オプション料金を設定せず付加価値サービスを提供するための例

などが考えられる。

そのようなデザインをして運用できるかどうか。および、サービスの受け手がその価値やメリットを理解できるかどうか。

これまたサービスマネジメントサービスデザインであり、顧客のサービスリテラシーが試されているとも言えよう。

3.ひさびさに新幹線を利用して感じたサービスデザイン

少し話は変わるが、僕が先日ひさびさに新幹線を利用して感じたことを綴る(僕は基本的にクルマ移動で、新幹線を利用したのは半年以上ぶりだった)。

豊橋~名古屋乗り換え~新山口を移動したのだが、同じ車両でも新大阪を境に、東(東海道新幹線区間)と西(山陽新幹線区間)でサービスのコンセプトも付加価値に対するマネタイズの仕方も大きく異なると実感した。

・東(東海道新幹線)はビジネスモード
・西(山陽新幹線)は旅情モード

なのである。その大きな差を、車内販売サービスのあり方に見出した。

新大阪から東、すなわち東海道新幹線区間では車内販売はスマートフォンを起動してアプリケーションからオーダーし座席に届けてもらう仕組み。一方、新大阪からの西の山陽新幹線区間では、昔ながらのワゴンサービス(通りがかった販売スタッフを乗客が呼び止めて商品を買う仕組み)が提供されている。

いずれも合理性があろう。
東ではビジネス客に特化し、なるべくスマートかつ静粛性を保った付加価値サービスを提供する。西は旅の楽しみを重視し、旅情をかきたてるヒューマンなサービスを残している。要はサービスポリシーの違いである。

しかしサービスポリシーおよびサービスデザインの違いは、顧客のお金の出し方をも変える。僕はその実体験をした。コーヒーを購入する行為を通じて。

行き(名古屋→新山口)の新幹線で、僕は乗ってまもなくコーヒーを注文した。東海道新幹線区間なので、モバイルオーダーでの注文である。
この時の僕の経済行動の動機は、ただ単にコーヒーが飲みたかっただけである。

帰り(新山口→名古屋)の新幹線では、僕は乗ったときはコーヒーを飲みたいとは思っていなかった。乗る前に、山口市内のカフェでコーヒーを飲んだばかりだったからである。

ところが、間もなく僕はワゴンサービスでコーヒーを買った。車内販売スタッフの呼び声に反応してしまったのである。

「コーヒー、アイスクリーム、おつまみにお弁当はいかがでしょうか?」

この声はなんとも言えない旅情をかきたてる。つい「ください!」と声をあげたくなってしまうのである。見渡すと、周りにもそのようなお客が僕の他にもいた。

感情なる見えないものが作用し、利用者の心地よい消費行動を促す。これぞサービスデザイン、サービスマネジメントと言えるのではないか。
これは効率性や機能性だけでは語れない

ついで、「コーヒー、お弁当はいかがでしょうか?」「ください!」のやりとりに、僕は別の世界観を見出した。

「そうか。これは、セッションなんだ!」

音楽ライブのセッションで、演奏者と観客が一緒に演奏や合唱をするかのように、「いかがでしょうか?」「ください!」のやり取りが販売スタッフと乗客との間で一定のリズムとテンポで行われる。

それはいわば旅の場づくりでもあり、その場づくりに乗客が参画している所作を意味する。だから、帰り道の僕のように別にコーヒーを飲みたくなくても、ついコーヒーを買ってしまう。
「ください!」の声を挙げることで、旅の景色を一緒に創りつつ、移動空間の場づくりに積極的に参画したくなってしまったのだ。

1杯400円前後のホットコーヒー。
商品そのものの価値も値段も変わらないが、行きと帰りでお金を出した意味はまるで異なる。

僕は行き(東海道新幹線区間)は機能にお金を払い、帰り(山陽新幹線区間)は体験にお金を払ったのだ。

体験価値にお金を出させる。感動を価値に変える。

その意味を僕は自分の行動で身をもって知った。大変いい勉強になった。

4.地方都市の人たちこそ多様な体験とサービスデザインを

サービスデザインおよびマネタイズがうまくなくて、(良い)サービスが提供できず誰もが不幸せに。僕は衰退していく地方都市を見ていても、その傾向を感じる。その様は以下に示す通りである。

高くてもいいから良いサービスを受けたいのに、ない(存在しない) or 下品なインバウンド客に荒らされるだけ

お金を払ってでも付加価値を得たい人が遠ざかる

地域経済がシュリンクする

スタッフの待遇も良くならない

スタッフのモチベーションも下がり

ますますサービスの質が下がる and/or あたりまえ品質のサービスさえも提供できず終了

衰退する地方都市の問題地図

僕が都市の文化度向上を最近強く訴えているのは、この悲しき現状をなんとかしたい思いもある(もちろん、それだけではないが)。僕自身も高付加価値なサービスを受けたいし、その都市を訪れる人たちにも良い体験をした欲しい。

文化度については以下の過去記事も参照されたい。かつ新刊『組織の体質を現場から変える100の方法』で具体的な着眼点と打ち手を綴ったので是非とも手に取っていただきたい。

ある地方の政令指定都市で、僕はたいへん切ない経験をした。
僕の呼びかけで、他都市の大企業が当地に赴き社内イベントを開催してくれることになった。グループ会社を含む、20名以上のエグゼクティブと社員の皆さんが当地に来てくれた。現地にたくさんお金も落としてくれた。

ところが、現地のホテルのスタッフもバスドライバーもいわゆる「塩対応」。何も特別な要求をしたわけでもなく、聞かれたことにもぶっきらぼうな受け答えしかせず、挙句お客さんに文句を言う始末。

幸い、このお客さんたちはオトナな人たちだったため、「いやー、久々にこんな冷たい対応されました」と苦笑いしてはくれたものの……なんとも申し訳ない。
市は関係人口を増やしたいと言っていて、僕たちも頑張ってはいるものの、これでは他都市のゲストの市のイメージ台無し

しかし、僕はこのスタッフやバスドライバーを責めるつもりはない

彼ら/彼女たちはおそらく、決して良いとは言えない待遇で、毎日仕事をこなしている
それでは心に余裕も埋まれなくなり、視野も狭まる。「決められたオペレーションだけをこなせばよい」マインドが強くなっていく。そうなってしまっても当然であろう。

これは事業者側の経営およびサービスマネジメントの問題なのである。

安くて良いものを地域に提供し続けてきた。事業者のその誇りも分からないではない。

しかし、その自負だけではもはや地域住民も訪問者も幸せにならないのである。現実に、上記のような負の連鎖が起こり始めているのだ。

顧客に気持ちよくお金を払ってもらい、自分たち(提供者)も良い待遇で潤う。その好循環を生むためには、見えない価値にお金を出させる。そのマインドシフトとサービスマネジメントが不可欠であろう。

高付加価値サービスを展開し、喜んで高いお金を払ってくれる顧客を獲得し、その原資で従来のサービス「も」健全に維持する。なおかつ、スタッフには良い待遇で報いる。

そして、そのためには僕は地域のサービス事業者こそ、越境(外を見る、管理職も社員も多様な体験のインプットをし、多様な人たちと共創で良い体験をデザインする)する必要があると強く思っている。

インプットの多様性なき組織に、人を感動させる良いサービスなどデザインできる筈がない。結果として、良き経済循環も遠ざけてしまうのである。

見えない価値にお金を出してもらう。そのためには、自らが見えない価値にお金を出す体験をしなければならない。

サービスデザイン、サービスマネジメント、ダイバーシティ(ここではインプットや体験の多様性)、越境思考、共創、体験資産経営、ブランドマネジメント……いずれも地域活性に不可欠なエッセンスであり、それらへの投資をシブって(ケチって)はならない。

頑張れ地方!(僕たちも頑張る)

5.関連書籍など

以下、サービスデザインに関連する書籍、および地域の文化度向上のための新刊をいくつか。是非ご一読を↓

僕たち(あまねキャリア)のサイトです。地方を事業拠点に頑張っています↓