「急成長」を求めすぎる組織は疲弊する~和歌山での越境学習(#ダム際ワーキング #キャリア教育ワーケーション)を通じて改めて考えたこと
急成長ばかりを追い求め、短期的な成果のみに走る組織は人を疲弊させる
上記は2024年2月16日(金)に和歌山で開催された #ダム際ワーキング #キャリア教育ワーケーション (※)での越境学習を通じて、僕が得た学びの一つです。今回はこのイベントでの参加者との対話で、僕なりに感じたこと、考えたことをイベントの様子の写真を交えながら綴ります。
※和歌山 Well-being Month(和歌山県と一般社団法人日本ウェルビーイング推進協議会の共催企画。今年で2年目)の一環で田辺高校(田辺市)、島ノ瀬ダム(みなべ町))が開催されたイベント。全国の企業や行政ではたらくビジネスパーソンと田辺高校の1年生が参加。僕たちあまねキャリアは講演者・ファシリテータとして参画しました
上記は僕が最近、企業に勤める若手や中堅社員(ときに管理職)から良く聞くフレーズです。企業のタイプはさまざま。日系大企業も外資系企業も。最近では、「伸び盛り」と言われる拡大基調の新興企業の人たちからのお悩み相談が特に「伸び盛り」です。
今回の和歌山でのイベントでも、参加者とのグループディスカッションや懇親会などでの対話を通じてそんなリアルな本音も聞くことが出来ました。
(会社では言いにくいことを、普段と景色を変えた場所、普段とは異なる社外の人たちとだからこそ言いやすく、相談しやすくなるのも越境学習のメリットの一つです)
企業組織である以上、成長を追求するのは何ら悪いことではありません。
上場企業であれば、株主や投資家に対する成長責任もある。会社組織の持続的な成長は必然であり健全です。
とはいえ短期的な数字ばかりを追い求め、近視眼的な成果だけを評価し余白や余裕を認めない。
いつの間にか、前年度比○%の成長率だけが自己目的化し暴走する。そこに関わるメンバーの意思や感情、その他のコンディションは置いてきぼり……
そのような組織が果たして健全と言えるでしょうか。継続的に成長し続けられるでしょうか。
実際に僕の周りでも、持続的な成長、毎年前年度を上回る成長を掲げる企業において、管理職や社員の燃え尽き、メンタル不調による休職・退職が目立ってきています。
この状況を放置すると、人を入れは辞め、入れては辞めのいわゆる「出血が止まらない状態」が常態化します。なにより、心を病んでしまった人たちの中にはそれから先のキャリアや人生にハンデを負う人も。きわめて由々しき状況です。
ところでちょうど僕がこのブログを綴っているタイミングで、こんなニュース記事が目に留まりました。
日本人の、会社への貢献意欲の低さを示す記事。
僕は「そりゃそうでしょう」と思いました。
だって組織が自己目的化し、人々の気持ちを置いてきぼり〜一部の経営陣や株主や投資家または管理屋しかハッピーにならない「悪の化身」になるんですもの。 そりゃ、組織へのエンゲージメント下がりますわ。
「仕事は好きだけれども、組織が嫌い」
こう言う人も少なくないです。
そろそろ本気でなんとかしましょう、ジャパニーズカンパニーズ(あ、国や行政機関もね)。いい組織を本気で創りましょう。
僕はこう思うのです。
「急成長し続けたければ、社長と創業メンバーだけでやればいい」
「組織を大きくしたいのなら、ブレーキを踏むことも必要」
この考え方を欠いている(あるいは、いつの間にかどこかに置き忘れてしまっている)経営者や経営陣が、いまの世の中にあまりに多いような気がしてなりません。
断言します。組織は規模やフェーズに応じて、マネジメントの仕方を変えて行く必要がある。
なんて言うかさ、
「いいから一旦落ち着こう。深呼吸しよう」
クルマの運転を例に考えてみましょう。
二車線道路の信号機のある交差点で、軽自動車とバスが並んで停まっているとします。信号機の色が青に変わった瞬間、軽自動車がスタートダッシュでぐんぐん加速しバスを追い抜いていく。そのようなシーンを、あなたも見かけたことがあるでしょう。
創業まもない企業(または立ち上げ間もない小所帯の部署)は、いわば軽自動車です。社長一人、または数人の創業メンバーでがむしゃらに目の前の仕事に全力投球し、ぐんぐんと加速し成長していく。
ところがバスはどうか? 定員4名程度の軽自動車のようにはいきません。車体も大きければ乗客の数も多い。ゆるやかに加速し、スピードを出しすぎず、なおかつ適度に休憩を取りながら走っていく必要があります。急加速や急ブレーキは、車体にとっても乗客にとっても危険。大きな事故を引き起こします。
なおかつ、バスの乗客の顔ぶれはさまざまです。
座っている人もいれば立っている人もいる。酔いやすい人もいる。途中の停留所から乗ってきた人もいるでしょう。
軽自動車のような加速やスピードでは、体調を崩す人、怪我をする人も出てきて当然です。
社員数を増やし、規模が大きくなり始めた組織は例えるならバスです。
バスにはバスなりの運転、すなわちマネジメントが求められます。
にもかかわらず、さも軽自動車を運転するかの如く急加速をし続け、スピードを緩めようとしないドライバー(経営者や部門長)がなんと多いことか……
軽自動車のノリでバスを運転し続ける……車体(組織)も乗客(中間管理職や社員)も疲弊して当然です。
組織の人数規模やフェーズに応じて、運転の仕方、すなわちマネジメントの仕方を変える。
乗客や道路の様子や変化を観察し、相互理解をし、急成長のスピードを少し緩める。または一旦エンジンブレーキをかける。
(たとえば、一旦目先の仕事から離れて学習したり、自分たちのマネジメントや仕事の仕方を客観視してアップデートするのも「エンジンブレーキ」です)
それが出来ない組織は、人を増やすべきではないと僕は考えます。なぜなら、関わる人たちを不幸にするから。僕たちが組織開発の重要性を主張している背景の一つは、そこにあります。
今回の島ノ瀬ダムでの講演で、僕は「越境」と「体験資産」なるキーワードを強調しました。越境とは、普段とは異なる人と垣根を超えて仕事や学習や対話をしたり、普段とは異なる関係性で物事に取り組む所作、またはワーケーションや #ダム際ワーキング のように普段とは異なる景色のもとで思考や行動をすることを言います。
外に触れる機会に乏しい、内向きな人たちほど悪気なくモーレツかつ独り善がりになりがちです。こうして、いつの間にか社会性を欠いた行動をし、ガバナンスが崩壊する企業も最近は少なくありません。
自分たちのやり方が間違っていないか? 悪気なく世間ズレしたり、メンバーを置いてきぼりにしていないか? 足りない能力や経験は何か? そろそろマネジメントの仕方や体制を変えるべき時ではないか?
そのような自問自答とアップデートが必須です。
とはいえ同じ組織の中の人たちだけでは、上下関係などが作用して本音も言いにくい。悪気なく、自分たちの今までのやり方が正しいと思い込んでしまう(そのやり方しか知らないことも)。自組織の良いところも、改善点も見えにくい。その意味でも越境が必要なのです。
(とりわけ、経営陣の越境はmust(マスト))
この #ダム際ワーキング と #キャリア教育ワーケーション でも越境による、各々の参加者の自問自答と振り返りが多数おこなわれました。
組織の規模や現状に応じ、マネジメントの仕方を変化させていく。組織開発をしていく。それが出来ないなら組織を大きくすべきではないし、急成長の連続をメンバーに押し付るべきではないでしょう。
「どうぞ社長あなた一人、または創業メンバーだけで急成長し続けてください」
「他の人たちを巻き込むなら、ブレーキを踏む発想も持ってください」
僕はそう申し上げたいし、これからも言い続けます。
「早く行きたければ一人で行け、遠くへ行きたければ皆で行け」
そんな格言があります。僕もその通りだと思います。
急成長し続けたければ、社長が一人(または創業メンバー数名だけで)で行けばよい。誰も止めません。しかし遠くへ行きたいのなら、メンバーの様子も気にしながら、そして世の中の様子も見ながら、スピードを調節し時に休憩しながら進む必要がある。
急ぎすぎないマネジメント。それこそが、皆で持続的に成長するために最も求められているものではないでしょうか。
「目先のことばかりに追われて、余裕がない」
これは社会人(ビジネスパーソン)だけの悩みではありません。今回の田辺高校での #キャリア教育ワーケーション (越境学習授業)で、複数の生徒の皆さんからもそのような声を聞くことが出来ました。
何て言いましょうか。日本全体(いや世界全体)が、近視眼的になりすぎている。目先の成果ばかりを追い求め、余裕と余白を失っている。なんとも切ない話です。
余裕なき環境では、自分や相手に対する思いやりも優しさも生まれません。
余白なき社会で、クリエイティビティが高まる訳がない。
目に見える短期の成果しか評価しない。そのような組織や地域はゆとりもなく、控えめに言って文化度が低い。そして、文化度の低い組織や地域に意欲的な人が集まるでしょうか。
余裕と余白を生むためにどうしたらよいか? そのための良いディスカッションが今回の越境学習でも繰り広げられました。
「やめることを決める」などのセルフマネジメントも重要ですが、近視眼的かつ私たちを疲弊させ続けるカルチャーを変えるために、何より大事なのは対話だと僕は思います。
今回の #キャリア教育ワーケーション パートのテーマも「対話」にしました。島田由香さんと沢渡あまねがそれぞれ「対話」についての講演をし、その後は高校生と社会人参加者合同のグループディスカッション。それ自体が立場を超えた人同士で対話をする体験です。
対話とは自己開示であり他者理解です。
同じ組織やコミュニティの中で、立場を超えて対話をする。時に、組織やコミュニティの外の人たちとのフラットに対話をする。
その積み重ねが、相手に対する想像力と自分自身に対する内省を促し、課題解決力や価値創造力を高める。他人と自分に対する思いやりや優しさを育む。
そのためにもさまざまな体験をしたり、さまざまな人たちと越境して対話を重ねる。その行動とトレーニング(能力開発)が、私たちに求められているのではないでしょうか。
さまざまな体験を通じて、新たな視点や考え方を自分(たち)に仕入れる。
さまざなな人とのフラットな対話を通じて、さまざまな立場や境遇の人のペイン(痛み)や制約条件、思いや可能性を知る(または疑似体験する)。
それはいずれも個(あなた)および組織にとっての資産です。
僕はこれ体験資産と呼んでいて、日本全国の組織に広めていきたいと決意しました。体験資産については、以下のブログ記事を是非参照してください。
体験資産を増やすためには、良質な越境と共創、および他者理解を通じた疑似体験が必要で、そのためにも対話(能力・習慣ともに)は不可欠。
越境、対話、体験資産。中長期視点、課題解決、価値創造、思いやりと優しさ。これらのキーワードは、同一線上にあるものなのです。
さて、#ダム際ワーキング と #キャリア教育ワーケーションの2つの越境学習体験を終えた後、僕たち(社会人参加者と運営メンバーのみ)は田辺駅近くの居酒屋さんで懇親会をしました。
そこで、20代の若手の参加者(以降、Aさんと称します)がこんな話をしてくれました。
「私の所属している会社も急成長のために猛進している。自分の能力不足のせいで、会社に期待に応えられていないのではないか。管理職も疲弊気味で、申し訳ない……」
Aさんのこの言葉に、僕は切なくなりました。
断言します。Aさんは僕もお仕事をご一緒している人で、そのお仕事ぶりは僕も良く知っています。そして能力不足なんてことは断じてありません。常に努力をなさっていて、かつ大変優秀な方で僕も尊敬しています。
その優秀な若手が自分を責めてしまう。
その責任感の強さに敬意を表しつつ、僕は「自分を責める必要はないですよ」「組織側のマネジメントと能力の問題です」とお伝えしました。
(僕の組織変革、社会変革への思いと覚悟がますます強くなりました。Aさんのような真面目な若手に心労や心配かけちゃあかんよ。しっかりせえよ、日本の組織!)
と同時に僕は思いました。
「Aさんはそんな激務の中、こうして頑張って余白を創り、和歌山に足を運んで僕たちと同じ景色を見てくれたんだな。越境して新たな体験をしてくれたんだな」
と。それ自体が僕の貴重な学びであり体験資産になりました。そして、Aさんの思いや日頃の苦労を知ることが出来、これからさらに良い関係でAさんとお仕事をご一緒出来ると確信しました。Aさん、ありがとうございます!
以上、今回の越境学習プログラムでの対話を通じて僕なりに感じたこと、考えたことを綴りました。参加者それぞれの学び、気づき、意識と行動の変容があったことでしょう。
近視眼的かつモーレツな組織風土は人々を疲弊させ、長い目で見て組織の成長を妨げる。その仮説が、確信に変わりました。確信して満足するのではなく、僕たち自身もこれからの組織変革やカルチャー変革の活動にフルに活かしていこうと思います。
また、今回のような「景色を変える」体験を増やし、新たなカルチャーやカラーを日本の組織や地域に創っていきたい。そう思います、いや、行動します。
景色が変われば、組織は変わる。
日本の景色、ここから変えて行きましょう!
以下は僕たちが発信・展開している、越境・共創関連の書籍とプログラムです。是非、覗いてみてください!