受験生の方へ。高校受験を思い出してみた
もうすぐ3月だ。
受験シーズン到来ということになるのだろうか。
これから受験を控えている人も多いと思い、
高校受験の話を書いてみる。
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私は中学生になるタイミングで
自分の意思で学習塾に入った。
学習塾と言っても
大手が経営している様なところではない。
1学年につき12人程度の超少人数制の塾。
京都大学卒のかなり曲者の塾長が運営している
と評判のスパルタ塾だった。
塾長の身なりも曲者具合を物語っていた。
夏はジーパンに白T、
冬はジーパンにチェックシャツ、
大きめの銀縁メガネ、
靴は黒のサンダル、
ヘビースモーカー。
思春期真っ只中の中学生を目の前にして、
煙草の匂いをプンプンさせていた。
とても教育者とは思えない風貌である。
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そのスパルタ具合から、
地元の評判は最悪なのか最高なのか
『あの塾に入ると成績が上がるらしい。
でも、厳しすぎて辞める人が続出らしい。
でも、優秀な高校には行けるらしい。
学年の成績の上位10パーセントには
みんな入っているらしい。』
そんな噂が立つような塾。
立地も悪かった。
地元のさびれたスーパーの近く、
製造系の工場の2階。
2部屋あるものの、仕切りはドアではなく、
和室の扉のような作りで
6畳くらいの広さ。
各部屋毎に学習机が12個と小さな教卓が一つ
無理矢理並べられているだけの簡素な部屋。
2階への階段を誰かが上がるたびに
教室全体が揺れる。
耐震強度は最悪だし、
トイレは外にある和式1つのみで
女子にはつらい。
だらだらと書いてみたけれど、
とにかく環境は最悪の塾だった。
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噂話は本当だった。
塾長は過去問を丸めたハリセンを持っていた。
頑張っていない人や、
前回習ったことができていない
言われた宿題をやっていない人に
そのハリセンで容赦なく頭や肩などを叩いた。
過去問が薄い時はいいが、
分厚い時は最悪だった。本当に痛い。
ハリセンが手元にない時は
なまのゲンコツが頭上に降りてくる。
怒鳴られている怖さと痛さで
泣かない人はいないと思う。
中学生の男の子でさえも、
みんなの前で何度もベソをたれた。
教室には頻繁に大声で怒られたり、
叩かれたりが頻発するため
1つの教室にティッシュ箱が3箱程度、
常に常備されていた。
泣いてしまった子がいたら、
近くにいる人や
バイトの先生がテッシュ箱を渡すのが恒例。
女子には多少の手加減はあるものの、
それは人によるらしい。
私のようなお調子者には、
これでもかというくらいに叩いた。
私も何度ティッシュにお世話になったか分からない。
結局、耐え切れずに
私の学年は12人中3~4人程度が
途中で辞めてしまった。
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私は中学校の3年間、
その塾に通いきった。
正確には何とかギリギリ通いきれた。
中学3年生の頃のメンタルはボロボロだった。
食事中に思わず両親の前で、塾が辛いと涙を流すことも多くなった。
両親もそんなに辛いのならすぐにやめればいいと言ってくれた。
でも、私は自分で塾に入ると決めたのだから、
最後までやり通し、
志望校の憧れのブレザーを着たいと思った。
だから、踏ん張っていた。
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そんな無茶苦茶の塾だったけれど
今では本当に感謝している。
今思えば、1人ひとりの性格も良くみていて
その人に応じて怒り方を変えていた。
私の地頭の悪さや、お調子者の性格、
うまくできないくせに
負けず嫌いな性格を
塾長はよく理解していた。
すごく悔しかったけど、塾長の言っていることは正しかった。
“要領も悪いなら、人よりももっと必死になれよ!”
“変わりたいと本気で思わないなら、ずっとそのままで変わらんぞ。”
そんな風に大の大人に、
面と向かって怒られたのは初めての経験だった。
でも、塾長はただ怒るだけではなかった。
頑張って努力をしたら必ずそこも見ていてくれて、評価してくれた。
『要領はよくないけど、本当によく頑張るな。』
そう言って褒めてくれた時は本当に嬉しかった。
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中学2年生のお正月、塾長から年賀状が届いた。
その手紙には筆ペンで一文こうあった。
『今年1年が納得できるように過ごせたのなら
結果はどうであれ、合格だと思います。』
え?あんなに厳しいのに結果はいいの?
その時はその年賀状に突っ込みを入れた。
そうして、1年後、念願のブレザーを着て
第一志望校に入学をした。
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あれから約10年、
塾長以外に
本気で向き合って怒ってくれた大人は他にいない。
塾での3年間は高校受験というものを通して
人生を生きていく力の基礎を身につけられたと思う。
塾長はよく言っていた。
『お前達は、あとにも先にもこんなに勉強することはないと思う。
今必死になって勉強していることは何の役にもたたないと思う。
でも、この辛かった、苦しかった、を乗り越えた経験が
今後の人生に役に立つ。』と。
今ならこの言葉の意味が良く分かる。
塾長のおかげで精神的にも強くもなったし、
色々な辛いことがあっても、
たびたび中学生の私が背中を押してくれた。
中学時代、あんなに頑張れたから大丈夫だよ、と。
それに、13歳ながらにして『自分は人よりも頑張らないと!』と
気付けたことは本当に感謝している。
そう気づけているからプライドもないし、
前提として人よりできないのは当たり前。
追いつけるように頑張ろう!という前向きなスタンスでいられる。
これは今の私の大切にしている基本スタンスだ。
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全くもって偉そうなことを
言えるような人間ではないけれど、
だかはこそらこれだけは伝えたい。
今、もし受験で頑張っている人には
結果はどうであれ、
自分が納得できるような
毎日を過ごしてほしい。
そんな今を乗り越えた自分が
きっと将来、背中を精一杯押してくれるから。
そして、耳が痛くなる様な話を
本気で向き合って怒ってくれる
大人の意見は大事にした方がいい。
今後の人生を
とてもとても、応援しています📣