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【連載小説】恋愛ファンタジー小説:最後の眠り姫(75)

前話

「助かったわー」
 カロリーネお姉様がいの一番にクルト言った。婚約者のシュテファン様と一緒だ。シュテファン様はヴァルターがファーストネームだけどいかつい響きなので私たちはミドルネームのシュテファン様とお呼びしていた。ヴィルヘルムもフリーデを強引に連れてくる。
「ヴィルヘルム様。仕事が」
「これが仕事。ほら、お仕えするエミーリエ姉上もいるじゃないか」
「それはそうですが……」
 フリーデが珍しく不機嫌だ。ついじっと見てしまう。
「何か?」
 私に対しては笑顔全開。何があったのかしら。二人の間で。
「余計な詮索はやめておいた方がいいよ」
 クルトが耳打ちする。
「わかってます!」
 ツン、とそっぽを向くと視線を感じる。全員の視線が集まっていた。
「へー。姉上、そうやって兄上に甘えるんだ」
「ヴィー!」
「怒ったってこわくないもーん。姉上が本気で怒るなんてよほどのことだもの」
「もう。ケーキあげないからね」
 ケーキ大好き第二王子ヴィルヘルムがひるむ。
「姉上。それだけは。ここのケーキは絶品なのに」
「それは日ごろ倹約に励む私たちへのご褒美なの。ヴィルヘルムが大好きだと思うから残してたけれどぜーんぶ食べちゃうものねー」
「あねうえ~」
 ヴィルヘルムの情けない声にフリーデが笑う。
「フリーデが笑った!」
 ん? 喧嘩中だったのかしら。
「倦怠期みたいね」
 カロリーネお姉様が指摘する。
「長い春だものねー」
「か、カロリーネ様!」
 フリーデがあたふたする。
「あなた達は運命の恋人よ。長い春を楽しみなさい」
 珍しく、カロリーネお姉様が真摯な声とまなざしで言う。
「何をも越える愛は神聖なもの。大事になさい」
 そう言うカロリーネお姉様の瞳はなぜか哀しげだった。あの方を思い出したのかもしれない。愛に光を見いだせず亡くなったあの方を……。
「エミーリエ……」
 クルトがそっと私の手を包む。
「で。呼び出した理由は?」
 無頓着にカロリーネお姉様がいい雰囲気をぶち壊す。お姉様らしいわ。クルトと顔を見合わせて微笑みあうとお姉様を見る。クルトは手紙を差し出した。
「ルフト王国の印……かしら?」
「あたり。アリーナ姫の娘クリスタ王女の末裔の一族だよ」
「アリーナ叔母様の? クリスタ王女は従妹だわ。どうしてそれを……。お母様は系譜を全部ご存じなの?」
「王妃としてのたしなみでね……。私も教えられたけれど忘れちゃったわ。だって、エミーリエがもういてくれるのだもの。覚える必要もないわ」
 ばっさりとカロリーネお姉様は言い切ってくれる。
「じゃ、幻の血筋じゃないじゃない。たくさん、おじい様の血筋は残ってるんじゃ……」
「そうとも言える。だけど、原始の海の言葉を聞いているのは俺とエミーリエだけ。あの方と魔皇帝が言った存在の経書者は俺たちなんだよ。魔皇帝なんてなりたくないけど」
「それは兄上。この時代ならではの外交という手段があるではないですか。兄上は得意分野でしょ?」
 ヴィルヘルムの言葉にクルトは顔をしかめる。
「お前はいいよな。第二王子の上に子供なんだから」
「僕子供~」
「ちょっと、ヴィー、あの剣と水晶は返すのよ。魔皇帝を自で行ってるのはあなたでしょ。東にも行ってもらうからね」
「え? そうなのですか? 新婚旅行に行かれるところでは」
「どーやって、あれを知らない土地に返すの。ヴィーが案内するの。それに婚礼前にいかないと東が文句を言いだすわ。仮の婚礼を挙げた意味もないし」
 すっとぼけているんだから。ぷりぷりする私をみんなが不思議そうに見る。
「エミーリエってそんなに感情豊かだったかしら?」
 みんなを代表してお姉様が言う。
「餌のいらない猫を飼っていたんです。キアラもいるのでやんちゃな私に戻っただけです」
「そうなの」
 へー、とクルト以外珍しそうに見る。
「それより! ルフト国と東、どちらを先に? いつ行くの?」
 私が言うと皆、うーんと首をひねりだした。かなり、難しい問題のよう。
「クルト?」
「同盟を結びたいと言っているんだ。東に抵抗できる。だけど、この国は東とも仲良くしていかないといけない。どっちも優先順位を上げられないんだ」
「微妙な情勢なのね」
「エミーリエは聡明だね。すぐわかってくれる。そんなところが素敵だよ」
「クルトこそ……」
 私とクルトはみんなが首をひねっている間思いっきり恋人の時間を楽しむ。だけど、みんな、悩みすぎている。
「お姉様の新婚旅行に東に行って、私とクルトは婚前旅行というか目通りを東に通して、その後、魔皇帝の墓参りの理由で、ヴィーに案内してもらって、剣と水晶を収める。ルフト王国に行くのは新婚旅行でいいんじゃないの? 同盟を結びたいという国はもっとあると思うんだけど」
 これは地獄の返信書きで得た感覚だった。
「なるほどねー」
 クルトがふむふむという。
「墓参りの名目はいいね」
「でしょ?」
「さすがは俺のエミーリエだね」
 クルトが頬にちゅーといってキスする。久しぶりにちゅーを聞いた。けらけら私は笑いだす。
「姉上が狂った」
 ヴィルヘルムが言う。
「狂ったとは失礼ね。ちゅーなんて言ってキスする人がいるもんですか」
「いる。ここに」
「はいはい。話は終わり。お茶会にするわよ。ヴィー、手伝って。ケーキみっつで手を打つから」
「わーい。フリーデもいこうー」
「ヴィルヘルム様!」
 私は頭が単純なのか深くも考えず、案を出すとお茶会の準備にいそしんだ。


あとがき
今日はATMを行ったり来たりしてばったり倒れていたのですが、夜十時になると目がぱちぱち。何かしたいーとなってやはり、定番のこれを更新しに。他のアカにも置くものもあるし、全部一通りしたいところですが、執筆途中のものがこちらは多いので、ついついこっち優先に。まぁ、「探偵さんとお嬢さんシリーズ」も執筆しないといけないんですが。どう恋愛に絡めようかと悩み中。500字でシリーズなので。そしてメンバーシップ特典記事も執筆しないと。題字もつけて見出し画像を立派にする必要が。あー。考え出すと山のような仕事が溜まってる。保険の資料取り寄せとか口座開設の本人書類とかそういう現実面の仕事も残ってる。年内に片付けねば。ワクチンはもう無理かな。冬版なので年明けにあるかどうか。予約ネット見ないと。現実面が溜まりすぎて疲れる。漢検の勉強時間も捻出できない。三十分あればいいのに。明日、意地でもしよう。ひみつひみつのアカウントの創作物確認しておきます。名前は変えてないので字を変えて検索ください。

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