安蘭純史

文章を書くことは祈りに似ています。 期待や恐れが波のように心に訪れては去り、肥大した自我と抑圧された自我がせめぎ合い、紡ぎ出された言葉が繋がっていく様は、創造主になったような全能感と無能を暴かれたような絶望を感じさせてくれます。 ただこの業の輪廻から抜け出す事は出来なさそうです。

安蘭純史

文章を書くことは祈りに似ています。 期待や恐れが波のように心に訪れては去り、肥大した自我と抑圧された自我がせめぎ合い、紡ぎ出された言葉が繋がっていく様は、創造主になったような全能感と無能を暴かれたような絶望を感じさせてくれます。 ただこの業の輪廻から抜け出す事は出来なさそうです。

マガジン

  • 【小説】ケータイを変換で軽体(鬱)

    もう15年以上前に書いた代物なので、公開するのに後悔しそう(韻を踏む)なのですが、当時流行った一連の携帯小説の違和感に一石を投じたくて、同じようなシチュエーションを使用しつつ、どこか間の抜けた感じに仕上げたかったのです。 ここで誰かに読まれることで、やっと成仏できそうです。

  • 【小説】カレイドスコープ

    ツグミは知らない男から殺されかけた事件をきっかけに、失踪して死んだはずの兄が、生前様々な事件に関わっていたことを知る。 その過去を辿っていく過程で、兄が或る男に関わった事から全てが始まった事が分かり始める。

  • 短編小説(習作時代の作品群)

    その昔、某サイトに載せてたり某サイトに応募してたりしていた日の目を見ていない作品群や新たに書き下ろした短編を、SDGsの時代に合わせてリサイクルする事にしました。(強引) でも当時の拙い文章や青臭い表現は決して嫌いではなく、一周回って愛しくなってきているのも事実です。

最近の記事

【小説】ケータイを変換で軽体(鬱) 第10話

 成美が小学6年生の或る日、いつものように尚人を連れて友達の家に行こうとしたら、尚人から頭が痛いと言われて断られた。  折角の自慢の弟をお披露目するいい機会だったから、少々強引ではあるが連れて行こうとしたが頑なに拒否する尚人の様子に結局諦め、一人で友達の家に行った。  成美は友達との会話の中においても何かしらこじつけて弟の自慢をしたのであるが、友達の一人である佳美が何か言いたそうな雰囲気だったので話の水を向けると、そこから思いもよらない話が出てきたのですぐには信じられなか

    • 【小説】ケータイを変換で軽体(鬱) 第9話

       成美はわざと過激な発言をして父が動揺するのを期待したが、予想外に反応は薄く拍子抜けした。  父の意外な理解力の深さに感心しそうになった時、単に成美が返事をしている瞬間に父はテレビに夢中になっているだけだった事が分かり、脱力感が去来してまだ帰りが遅くて咎められた方が張り合いがあるなと感じた。  昔から父はそうなのだ。  全ての行動に悪意は無く根っからの家族思いであるのであるが、こまかい事への配慮に掛けていて、きっと思春期に多感な感情を経験してないんじゃないかと思えるくら

      • 【小説】カレイドスコープ 第15話 泰人

         前回  最初に目に入ったパンチングが施された正方形の板の集合体が、天井の細工だと分かるまでに30秒近くかかった。  そして自分が寝そべっていて上を向いている事を理解するまでにも、更に30秒ほどの時間を擁している。  左腕には点滴の針が刺さっていて、まだ点滴液は半分程度も残っているようであった。  重力が倍近くあるくらいに自分の体を動かすのが難しく、体のあちこちは打撲のような痛みでヒリヒリし、現状把握にはまだ不十分であったが、泰人はそのまま体の力を抜き、再び目を閉じて

        • 【小説】ケータイを変換で軽体(鬱) 第8話

           「ただいまーっ」  なるべく抑揚の少ない声で玄関を開けてから言うと、母が玄関まで一人で来るととりあえず怒っているポーズを取る為か眉間に皺を寄せ、「ちょっと最近遅い事が多いんじゃない?」と注意をした。  「はーい、ごめんなさい」  成美は一応は遅くなった事に対しての言い訳を帰り道で考えてはいたが、この様子だったら別に言わなくてもやり過ごせそうな雰囲気だったので、馴れ合いの状況を作って靴を脱いだ。 「パパにはボランティアの痴漢撃退講習を受けて遅くなったって説明してるから

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        • 【小説】ケータイを変換で軽体(鬱)
          10本
        • 【小説】カレイドスコープ
          15本
        • 短編小説(習作時代の作品群)
          6本

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          【小説】ケータイを変換で軽体(鬱) 第7話

           Re:k@へのメールを打ち返して帰路を急いでいると、目前の文房具店から眼鏡を掛けて化粧っ毛の無い女子高生が出てきたのに気が付いた。  両手に画材を抱え込んでいるその子は、成美の立ち位地からは逆光で見えにくかったが、中学時代の同級生の川口美智子である事がすぐ分かり、虚を付かれたようにすぐに反応が出来なかった。  美智子も成美の存在に気が付いたのか一瞬笑顔を向けたが、すぐによそよそしい態度になり足早に去って行った。  成美の嫌そうな表情が、きっとあからさまに美智子にも分か

          【小説】ケータイを変換で軽体(鬱) 第7話

          【小説】ケータイを変換で軽体(鬱) 第6話

           Re:k@からのメールは同年代にしてはとても子供っぽい印象を与えたものである。  今時の高校生にしてはデコメを多用したものではないのであるが、記号を使って顔文字を使ったものや、漢字の当て文字を本来の漢字に代わって使用したものを駆使し、それは某巨大掲示板で一度成美が見たものに似ており、彼女がかなりのオタクである事が分かった。  今回のメールの内容は先月にTV放送され始めたアニメに対しての感想だった。  そのアニメはマニア向けの為か深夜枠で放送されており、成美のクラスにも

          【小説】ケータイを変換で軽体(鬱) 第6話

          【小説】ケータイを変換で軽体(鬱) 第5話

           ファーストフード店を出てその店先で解散する事になり、馴れ合いの簡単な挨拶を交わしてその場から各々の帰路に着いた。  帰宅途中に成美の携帯にメール着信の短いバイブ音が鳴ったので、ディスプレイを開くとメル友のRe:k@からメールが届いていた。  Re:k@は或るサイトの掲示板で知り合った女の子で、お互いの趣味が一致したのを理由に盛り上がり、アドレスを交換して近況のやり取りをしている友人だ。  学校での生活のほとんどは澤口達と過ごしており、表面上は一番の友達と言う事になって

          【小説】ケータイを変換で軽体(鬱) 第5話

          【小説】ケータイを変換で軽体(鬱) 第4話

           やっと店を出た頃はすっかり辺りが暗くなってきており、携帯で時刻を確認すると8時過ぎになっていた。  成美は一応門限を七時半と決められてはいたが、母が何故か必要以上に理解力があるせいでそんなに父親からも怒られた事がない。  或る日はついつい話に盛り上がって帰宅したのが9時前になってしまったのであるが、恐る恐る家に帰ると誰からも何も言われずに拍子抜けした。  小さい頃に遊び過ぎて遅れて帰ってきた時は、まるで誘拐された後に解放されたかのように母親に大袈裟に泣かれ、父親からは

          【小説】ケータイを変換で軽体(鬱) 第4話

          【小説】ケータイを変換で軽体(鬱) 第3話

           既にファーストフード店に入って2時間は経過していたが、成美と澤口達の会話はまだまだ終わりそうな雰囲気ではなく、むしろやっとエンジンが掛かってきた様子を呈し始めていた。  「結局アノ人は、私と他人だから何も理解できないのよ」  澤口はいつもの決め台詞を呟き、窓の外の遠くを眺めるような仕草をした。  そのポーズを取られると、その場に残っている二人は暗黙の了解で重々しく頷くのが習慣になっており、さながら時代劇並のワンパターンでの締めくくりにも似ていた。  澤口の両親は再婚

          【小説】ケータイを変換で軽体(鬱) 第3話

          【小説】ケータイを変換で軽体(鬱) 第2話

           授業が終わると澤口と高嶺の3人でいつもつるんで帰るのが日常になっている。  仲間内でその他の2人はそれぞれテニスと陸上の部活の為、授業が終われば健全な高校生活を絵に描いて更に額に入れたような青春を送っているのだ。  彼女達に取って成美達の仲間に加わる事は、きっと番組の間に入るコマーシャルみたいなもので、決して世間一般が認める価値観から逸脱した生活を送りたい訳では無く、なんとなくちょっとだけ斜に構えた世界観をスパイス的に取り入れたいのであろう。  とりあえず成美達は学校

          【小説】ケータイを変換で軽体(鬱) 第2話

          【小説】ケータイを変換で軽体(鬱) 第1話

           「それでね、安田先輩と美香が誰もいない時間帯の部室から、こそこそ出てくるところを見ちゃったのよ」  仲間内では一番の情報網を誇る澤口は、周囲の注意を充分に惹いた後で勿体振りながら取っておきの情報をみんなの前で披露していた。  すると連鎖反応のように、みんな口に手を当てたかと思うと一様に「エ――ッ」と落胆を示す反応をし、ついつい早瀬成美もそんな事には微塵も興味は無かったが同じポーズを取って連帯感を維持した。  安田先輩は仲間内のみならずちょっとした学校の有名人で、フラン

          【小説】ケータイを変換で軽体(鬱) 第1話

          【短編小説】デジャヴ

           心地よい振動に揺られてウトウトしていたところ、急な車線割込みをしてきた車を回避する為に路面バスは急ブレーキを掛け、彩菜はその衝撃で熟睡の一歩手前で我に返った。  自分の席のすぐ後ろに違和感があったのでさりげなく振り返ると、20代半ばの男がスマホを片手に車内の撮影をしているのが分かり、その様子からバス好きのYOUTUBERか何かだと思い、あまり他の人の存在に気を遣っていない様子に少し嫌悪を感じた。  彩菜が2週間前に社内の新規事業立上げの部門に配属されてから、予想以上に残

          【短編小説】デジャヴ

          【小説】カレイドスコープ 第14話 恭平

           前回    監禁された最初の3日間は生きた心地はしなかったが、神崎とその部下の行動パターンを一通り理解すると、この生活に絶望した振りさえしておけば、特に何かされる事が無い事が分かり、口数も減らし従順に見せた振りを続ける事にした。  スマホの電源はトイレの電気洗浄機のコンセントを時々抜いて充電し、本体は便器の裏側に一見分からないように隠しておき、女性とやり取りを続けて具体的な作戦を刻々と立てていった。  日々のルーティーンとしては、昼前11時と夜の20時頃に食事が部屋に

          【小説】カレイドスコープ 第14話 恭平

          【小説】カレイドスコープ 第13話 泰人

           前回  早朝の波止場の風は思ったよりも寒かったので、早起きしてまだ働いていない脳を刺激し、泰人の意識もすぐに通常の状態へと戻す事が出来た。  神崎が上手く恭平の代わりに業者へねじ込んでくれたお蔭で、難なく乗船出来るように事を運んでくれたが、恭平が1週間かけて覚えたことを、3日間ほとんど寝ずに詰め込んで身に着けてきた。  ただ急な交代のせいで、相手側には泰人の必要書類を作成する事が出来なかったため、あくまで恭平として乗船しなければならず、そのために髪を切って髭を剃り、書

          【小説】カレイドスコープ 第13話 泰人

          【小説】カレイドスコープ 第12話 恭平

           前回  ずっと好転する気配が無かった自分を取り巻く環境が、少しずつ上向きになっているのを感じていたせいか、恭平は少し浮き足立っていた自分の行動を後悔し始めていた。  現在閉じ込められている部屋は内側から開ける事は出来ず、大声を出しても外に音が漏れない防音仕様になっている他、外界と連絡出来ないようにする為に妨害電波さえも張り巡らされているのだ。  事務所のドアを叩いた時に出てきたのは、神崎の部下の一人で横澤と呼ばれていた人物で、神崎が戻るまでに同ビルにある別部屋へと案内

          【小説】カレイドスコープ 第12話 恭平

          【短編小説】 浮気疑惑

           100円ショップで買った伊達眼鏡は幅が狭いせいか克弘のこめかみを圧迫し、軽い頭痛に似た痛みが先程からの緊張感を更に増幅させていた。  握った掌を開けば久しく見たことのない量の汗をかいており、慣れない事を必死にこなそうとしている健気な自分が間抜けではないかと思える度に、くじけそうな心をなんとか立て直して身体に力を入れた。  普段穿かないジーンズは妙に太股に張り付く違和感がずっと気になり、上に羽織っているユニクロで買ったマウンテンパーカは、どちらかと言うと克弘が卑下している

          【短編小説】 浮気疑惑