【小説】ケータイを変換で軽体(鬱) 第9話
成美はわざと過激な発言をして父が動揺するのを期待したが、予想外に反応は薄く拍子抜けした。
父の意外な理解力の深さに感心しそうになった時、単に成美が返事をしている瞬間に父はテレビに夢中になっているだけだった事が分かり、脱力感が去来してまだ帰りが遅くて咎められた方が張り合いがあるなと感じた。
昔から父はそうなのだ。
全ての行動に悪意は無く根っからの家族思いであるのであるが、こまかい事への配慮に掛けていて、きっと思春期に多感な感情を経験してないんじゃないかと思えるくらいに勘が鈍いのだ。
世間で言われる善意有る小市民の代表を選ぶとしたえら、成美は自分の父が真っ先に候補になるのではないかと確信を持っている。
成美は呆れ気味の表情で食卓に着こうとしたその横で、尚人はそのやり取りを傍から見て鼻で笑っていた。
「何よ」
肘で尚人を小突くが口を尖らせるだけで反応は無い。
今年で中学2年生の尚人は成美より2歳だけ年下で、小学生の頃は良く一緒に遊んでいた。
少し中性的な雰囲気を持った尚人は成美の同級生からも人気があり、少女漫画に出てくる理想の弟像に近いものがあった為、多数の女の子から羨ましがられて成美もそれが誇らしかった。
だからどこに行くのも無理矢理尚人を連れまわしたし、尚人目当てに近付いてくる女の子にはまるで尚人のマネージャーのように振舞って威張り散らしていたのも事実である。
小学生の成美は自分が尚人の価値観を高めていくのに貢献していると思い込んでいたが、実は全然逆で尚人が男の子から苛められていたのを知ったのは後年の事だった。
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