信じ続けるからこその言葉
退院後、月一回ペースの検診が続きあっという間に9月なった。
その後も数値は良くなく、コレステロール値も1700を超えてしまい、やはり肝臓移植をしなければならない様な状況だ。
しかし、ここで新たな問題がでてきた。前文でも説明した様に、「アラジール症候群」は肝臓だけの病気ではない。心臓のエコー検査で肺動脈狭窄も進行しているということだった。肺動脈狭窄とは心臓から肺に流れている血管が細くなっているという状態。場合によっては、心臓に負担をかけてしまうということで、肝臓移植も出来なくなってしまう可能性がでてきた・・・。
後日、心臓の状況を詳しく知るために心臓の検査カテーテル検査を行う。カテーテル検査とは、太ももなどから心臓まで血管の中に管を通して心臓の造影などをする検査だ。現在ではカテーテル(管)も細くなりリスクは大分少なくはなっているようだが、血管に管を通すので出血の心配や、管を異物とみなし不整脈を起こしたり血管を傷つけてしまったり、検査後血栓ができるなど色々な不安はある。
真翔の場合、止血作用が低下していることと、コレステロール値が異常に高く、血管内部にもコレステロールが付着しカテーテルが通らない可能性があるということで難しい検査となった。カテーテル検査は5時間で終了。検査後医師から簡単な説明を受けた。「思っていたよりかなり心臓の状況が良くない。」という言葉を聞かされた。「詳しくは、細かな数字を見ていかないと移植が出来るかどうかもわからない」と・・・。
数日後、カテーテル検査の詳しい結果を聞くこととなる。やはり以前説明があったように、心臓の状況も悪くなっている・・・。肺動脈狭窄がひどく、心臓から肺へと続く血管が細くなっているため上手く血を送り込めず、心臓に圧がかかり右心室肥大を起こしているとの事だった。また、肺へ送り込まれている血液の量も、普通の子の6分の1程度ということだ。
そして、その後聞かされたことは、今の心臓では肝臓移植に耐えられないという現実だった。
ある程度は覚悟していたが受け入れたくない現実だった・・・。
なぜなら、以前受けた肝臓移植の説明で、「移植をしなければ10歳まではもたないだろう」と言われていたからだ・・・。
考えたくもない我が子への余命宣告・・・。
更に今の心臓の状態ならば今後不整脈や心不全などを起こす可能性があり、心臓のほうも注意深く見ていかなければいけないということだった。
この日の血液検査の結果、コレステロール値は2200にもなっていた。薬は明らかに効いていない。そして、唯一の望み肝臓移植も出来なくなり、医師から「後は日々様子を見ていくだけしかできません。」「家族との時間を大切にしてあげて下さい。」と、伝えられた・・・。
僕は何も考えられず「頭が真っ白」。というより通り越して全ての思考・感覚がなくなり「無」でただその場に座っているのが精一杯だった。医師の言葉も入ってこない・・・
その日の帰り道、30分に1本しか来ない電車を何本も見送り、僕はひとり駅で泣いていた。
ただただ真翔のことが愛おしくて、真翔の顔が、小さな身体で頑張っている姿が頭から離れない・・・
少し日が経って妻が言った。「移植が出来なくなって本当に残念だけど、でも何かホッとした・・・。」と。
実は僕も同じ事を考えていた。
頭でわかっていても、やはりそれだけ移植は勇気がいり、ストレスがかかるものだと実感した。
真翔の場合、移植をしてもその他の部分で色々な不安があったのでなおさらだった。しかも、移植後は長期的に薬に頼わざるをえない生活も待っている。また、ドナー側も必ずしも健康な状態で居れるという保障もない。先がわからない、押しつぶされそうな不安・・・
素直な気持ちだったと思う。
その言葉は、僕も妻にもまだ真翔が自力で良くなってくれるということを信じ続けているからこそ出た言葉だった。