ケロブラスターのレベルデザイン
個人でゲームを開発しています。2Dアクションゲーム「ケロブラスター」ではレベルデザインを担当していました。
しかし「ケロブラスターでレベルデザインをやりたい」と思って開発に参加したわけではなく「やっていたことが(海外では)レベルデザインと呼ばれるもの(と同僚のA氏が教えてくれた)」で結果的にそうなりました。また私はゲーム業界で働いたことはなく、ケロブラスターが初めて関わったアクションゲームでした。
そんな雑な経緯もあって私は今だに「レベルデザイン」というものが何なのかよく分かっておらず、noteやTwitterでたまに「レベルデザインとは?!」みたいな物議が醸されているのを見かけても正直あまりピンと来ません。特に広義の解説だと、各自の作っているゲームに当てはめられないんじゃないかなと……少なくとも私はそうです。
というわけで本稿はタイトルでレベルデザインを謳っていますが、詳しそうな人が論じる「レベルデザインとは?」といったことではなく、「ケロブラスターというゲームにおいて、マップとか敵の置き方を自分はこうしています/いました」という限定的な経験に基づく内容です。
どうもこの辺がレベルデザインと呼ばれている……らしい
私は元々グラフィックデザインを生業にしていたため「ゲーム制作ではUIを担当しているんですか」と聞かれがちですが、実際に絵やデザインまわりをケロブラスターで担当していたのは同僚のA氏でした。
私が担当していたのは以下のような項目です。
・マップチップを使ってステージを作る
・どこにどんな敵を置くかを決めて繰り返しテスト
・敵の特性や動き、絵をA氏に依頼
・A氏から難易度などの希望を聞いてマップや敵に反映
・テストプレイの結果を見てマップや敵の位置を修正
私はゲーム作りではどっちかというとシナリオや絵寄りのことが好きなんですが、上記の作業が楽しかったのも事実です。その昔「RPGツクール」で最初に作った城下町から出られなくなってしまった(容量制限を理解できなかった)ため自分にはゲームが作れないんだと諦めたり、大人になってからはMacでスクリプトを打つと文字化けしてしまうエディタで不便を感じながら作っては止めを繰り返していた私にとって、A氏自作のエディタは使いやすく、わからないことがあれば聞いたり修正してもらえる夢のような環境だったからです。
ゲームを完成させる/させられないは本人の技量によるところが大半ですが、上述のようにツクールの容量不足で心折れてしまったり、私が使っていた「文字化けしてしまうエディタ」では掲示板で「こうしたい」と質問しても「これはそういうツールではない」という答えで挫折してしまった記憶があります。かたやA氏はそういうこと言わない(「できるけど大変だよ」とかは言ってくれます)ので、ゲーム制作は環境や人に左右、あるいは決定づけられる部分も大きいと感じます。
さてケロブラスターを夢中で作って、ほぼ作り終わって、ところでエンドロール(クレジット)どうする? となったとき、「海外では、その作業はレベルデザインって呼ばれるらしいよ」とA氏が教えてくれました。
当時(2014年ごろ)この言葉は日本ではあまりメジャーではなく、例えばゲーム会社の求人を見ても「レベルデザイナー募集」といった項目はほぼなかったと思います。というか今もあんまり見かけない。当然私も知りませんでしたし、「何それ? マップデザインじゃないの?」と疑問には思ったものの、まあA氏がそういうんなら正しいんだろうし、よくわからんので任せます、みたいな経緯で決まったのでした。
同じところから100回飛ぶお仕事
レベルデザインってどういうことするんですか? と聞かれたとき私は「同じ場所から100回飛ぶ仕事です」と答えています。
なんで100回も飛ぶことになるのか? というと、
A氏と相談、「このマップでやりたいこと」を聞き出す
↓
ざっくりマップを書いて実践してみる(何十回か飛ぶ)
↓
A氏に遊んでもらう。意図してないことが見つかる。直す(また飛ぶ)
↓
他の人にテストしてもらう。もっと良くなりそう。直す(さらに飛ぶ)
……という繰り返しのため結果的にたくさん飛ぶことになります。
これだけだと単なる動作確認ですが、歩き、飛びながら「ここにいる時、お客さんはどう思っているか」を想像し、その心理を読み解きながら細かいデザインをまとめると完成します。完成、というのは、大体こんな感じかな〜といったふわっとしたものではなく「このブロックの位置はここで、この敵の位置はここ、よし、もう全部1マスも動かせない」というくらい確固とした状態です。
プレイヤー不在で双方向性を成立させる
これはケロブラスター1面で初めて宝箱が出てくる場所のマップです。右側にハシゴがあります。ここに立ったユーザーの心理を紐解くと、
→「宝箱がある! でも取れない……はしごがあるから戻ればいいのか」
→「宝箱のまわりにはトゲトゲがある……飛んでも大丈夫かな?」
→「引き返して、こんなに長くジャンプして宝箱取った!(達成感)」
発売前のゲームなので、もちろん(外部テストプレイまでは)お客さん不在で開発を進めるわけなんですが「このゲームでこの状況でこんなものがあった時お客さんはどう感じているか?」を予想し、「どうですかね? そこ怖いですか? うんじゃあこれを置きますので飛んでみられます? だめ? じゃあこれなら?」と脳内で延々イマジナリープレイヤーにヒアリングしながらブロックや敵、アイテムを置いては直します。真ん中っ子だった私は一人遊びが上手でしたので得意ジャンルかも知れません。
「みんなそうしている」からするレベルデザイン
私がレベルデザイン論がよくわからんというのは、チーム制作とか広い知見の共有には必要なのかも知れませんが、文字にされるとよくわからんけどゲーム遊んだらよく分かるのに、逆に文字にする必要がよくわからんからです。と言ったところでこの長〜い記事の価値がなくなるだけなんですけれども「みんな(面白いゲームを作った人達)がやってるから、その通りに真似すればいいのでは?」と思っています。
というと感覚的な印象ですが、ロジックで説明がつくことも多いです。
私がおそらくレベルデザインっぽい何かを初めてなんとなく理解したのは「ロックマン」だったと思います。なんか強い火を吐くでかい犬っぽい何かが出てくるステージで、1回目〜3回目で敵が同じなのにマップの形が違うことで「くっそwww」と思いながら遊びました。この「くっそwww」を、面白いとか悔しいで終わればユーザーだし「こうすれば『くっそwww』が生めるのか」と理解して実装できればそれが多分レベルデザインではないでしょうか。
同様にロックマンでは他の敵でも「なんか硬いやつ」とか「変な動きをする敵」とかは、まず大抵平地で出てきて動きを見せ、次に段差、次はジャンプした向こう側……と、同じ敵でも置き方で難易度が変わるんだと知りました。
だからレベルデザインとは? と語る前に、まずこういう素敵なやつをそのままパク……リスペクトをもってオマージュすればできるんでは? と思いますし、実際私もそうしてきました。
私はロックマンのレベルデザインを丸パクリしたのですが、これがロックマンぽいと言われたことはほとんどなかったです。レベルデザインはゲームのドレスコードや時代によって変わりますので、何かひとつ神がかったマニュアルがあるわけではないし存在しえないので、仮に、ケロブラスターのレベルデザインを全て誰かに伝授しきったとしても、その人が作れるものはケロブラスターあるいはケロブラスターに似た何かであり、他のゲームにどのように当てはめられるかはまた別の話だと思います。
とはいえ、セオリーが全くないかというとそんなこともありません。「特効薬はないけど予防法はある」みたいな感じです。
ロジックで置く定石からのエウレカ
上述のように「ケロブラスターはこういうゲームで、ユーザーにして欲しい行動はこれだから、自ずとマップ/敵の置き場所が決まる」という定石の基準はいくつもあります。
・密&散の緩急をつける(延々敵が出ているより、全く出ていないところとウワーってなるところの差があると緊張感の緩急が出てゲームを続けてもらいやすい)※レベルデザインとは直接関係ありませんが星や草なども粗密差をつけるようA氏から要望を受けていました
・安心→緊張を置くと効果的(宝箱や回復アイテムなどお客さんに見せてほっとさせておいてから襲いかかる何か)
・説明されない思い込みを利用する(例:尖ってる=痛そう、きらきら=よさそう。と見せかけて実は逆でした〜もできるし世界観に抵触する)
・「初見」をどう扱うかでゲームのドレスコードが決まる(平地で距離を置いて丁寧に紹介すれば優しいゲーム、物陰から襲えば理不尽で恐ろしいゲームの印象。これはこういうゲームです、という言外のエクスキューズになる)
・静止/動作しているものを並べた場合、仮にデザインが同じでもユーザーの目線は動く方を追う(人間の本能なのだと思います)
・無意識の動線で誘導する(水や泥など動きが遅くなるところは嫌がって避けられがち、回避する先が自然と動線になる)
・ユーザーの気をどう引くか? 気を散らす要素をどう使うか?(効果的に使う場合を除き、見間違いや勘違いを招く要素は徹底的に排除する)
上記のようなことを丁寧に積み重ねた暁には「このゲームではA→A→ときたら次もAかな!」「やっぱりAがきた! 」という、プレイヤーのちからで自ら発見してもらう瞬間を呼び覚ますことができます。
遊んでいて面白い、疲れにくいゲームはこれらのことをだいたい丁寧にやっていて、かつ、ロジックがお客さんにバレにくい場合「なんかわからんがとにかく楽しい」となるようです。
ケロブラスターではロジックが外部に見えやすい形になってしまい、もうちょっと上手に世界観に埋もれさせる方法があったのではないかと思うこともありますが、あれが当時の私の精一杯でした。
知性と狂気の狭間に足場を置いて
定石、とは囲碁用語だったと記憶しています。囲碁には確か「検討」や「感想戦」といったものがあり「対局が終わった後、最初から全部手を並べ直し、お互いに意見を述べ合う」もので、最初それを知ったとき私は「こんなにたくさんあるのに全部覚えてるっておかしくない?!」と、プロの凄さよりも先に狂気を感じました。
翻って、ケロブラスターのレベルデザインを終えて10年経った今、マップを最初からなぞらえてみてと言われれば、寸分違わぬものは無理でも原型に近いものが再現できるかも知れません。しかしそれには、ただ置くだけでは多分ダメで「同じところから100回飛んで」初めて、当時の自分の意図を汲むことができる気がします。おそらく、囲碁や将棋のプロもただ置いているんじゃなくてそこに思いや意図があるから、どこに何を置いたか覚えているのでしょう。どこか1手でも違えば対局の結果は当然変わります。それはレベルデザインも同じです。
ただ私のやり方は個人制作だから許された乱暴な方法であり、業界でこんなことをしていたならば会社は潰れてしまうでしょう。もし私が第三者で、私のやり方を客観的に目にしたなら、きっと正気を疑います。
試しに10年前に作った1面の要項を覚えているかぎり書き出してみます。
さて、本記事は9千文字を超えていますが、1面の解説だけでこんだけかかるということは、つまり果てしないということです。
思いつく限り文字や図解を用いても、私の力量と認識でレベルデザインなど到底語り切れるものではないですね。ここまで読んでいただいて何ですが(ありがとうございます)、やはり実際にゲームで体験して見つけてもらう方がおすすめです。別にケロブラスターじゃなくてもいいんです、いいんですが、千円しないしいろんなハードで出てるので、よろしければぜひ。