映画日記『アイミタガイ』
定期的に映画館で映画を観る新習慣の第34弾。今回は、11月1日公開の『アイミタガイ』。『八犬伝』などの話題作もあったんですが、エモーショナルな作品を見たい気分だったのと、出演者の一人である中村蒼さんのTBSラジオ『こねくと』における「捨て身」の宣伝ぶりに感心したこともあり。
中條ていさんの連作短編小説が原作で、監督はドラマ『こっち向いてよ向井くん』の草野翔吾さん。脚本は草野さんと『半落ち』の故・佐々部清さん、『箱入り息子の恋』の市井昌秀さん。
主演は黒木華さんで、メインキャストに中村さん、藤間爽子さん、田口トモロヲさん、西田尚美さん、草笛光子さん、安藤玉恵さんといわゆる名優揃い。
ウエディングプランナーの梓(黒木さん)は亡くなった親友・叶海(藤間さん)のスマートフォンにメッセージを送り続けていた。一方、叶海の両親の優作(田口さん)と朋子(西田尚美さん)は養護施設から娘宛てのカードを受け取る。そして、娘のスマートフォンにメッセージが届いていることに気づく(シネマトゥデイから引用)。
以下、ネタバレあります。
第一印象としては、大好きな映画でもある『阪急電車 片道15分の奇跡』のような手触り感。電車や駅が多用されることや、群像劇である点、主要人物に悪人は出てこない、人の善意に浸れる作風が似ているなと。
原作では舞台は特定されていないようですが、佐々部監督が生前シナリオハンティングで三重県桑名を訪れ、脚本にも地名を具体的に書き込んでいたので、撮影は同地を中心に行われました。『阪急電車』と同じくローカルが舞台というところも一種の魅力。製作委員会には中日新聞社も参加。
梓と叶海が親友という設定は映画オリジナルで、恐らくは連作短編を絶妙につなげて、「アイミタガイ(=相身互い)…誰かを想ってしたことは、巡り巡って見知らぬ誰かをも救う」、人と人とのつながりが起こす小さな奇跡を描いた作品となっています。
名優揃いなので演技はいずれの方も素晴らしいのですが、タイミングが悪い梓の恋人を演じた中村さんが「当て書き」のようにピッタリで(笑)。また、叶海の中学時代を演じた天才子役の白鳥玉季さんと、藤間さんとのシンクロ具合が後半効いてましたね。
偶然が重なる物語というと、下手するとわざとらしく感じられたりしますが、脚本がよく練られているのと、演者たちの説得力で、自分は「今度はそう来たか!」とちょっとした驚きと共に最後まで楽しめました。
図書館で働く叶海の父(田口さん)が終盤、「善人しか出ない話は嘘っぽいと思っていたが、今はそれを信じたい」というようなセリフを言うんですが、まさにそんな印象。
現実世界は欺瞞に満ちていて、搾取や悪意や暴力がそこら中にありますし、自分自身を振り返っても、汚れ切った心と数々の罪で、地獄行きは確実でしょうが、それでもたまに人の善意を信じたくなることもあり。重い「荷物」で潰れそうな心が一瞬だけ軽くなる、そんな映画でした。