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里山との繋がり ~秋田県男鹿市~

男鹿市地域おこし協力隊の吉岡です。
地域おこし協力隊や移住という言葉も知らなかった私が協力隊として着任し、男鹿で暮らし始めて1年を迎えました。
男鹿を満喫し生活していく中で、私が定期的に訪れるところがあります。
それは月に1度、船川のTOMOSU CAFEで開催されるポップアップストア「ひのめ商店」。

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男鹿市船川にあるTOMOSU CAFE店内(Instagram:@tomosu_cafe
月に1度「ひのめ商店」が開催される(Instagram:@hinome_ichi

パンや焼き菓子が並ぶ中、レジの横で自家焙煎したコーヒーを販売しているのが、今回ご紹介する『合同会社 秋田里山デザイン』のお二人、大西克直おおにし かつきさんと保坂君夏ほさか きみかさん。

大西さんは東京都出身で大学への進学を機に秋田へ。その後都内でコーヒーの勉強をされました。
保坂さんは秋田県出身で、県内の大学で農業を勉強。その後、自分の手で農業をしたいという思いから男鹿市の耕地を借り、自らの手で開墾されました。

2人は焙煎したコーヒーを販売し、売り上げの一部を使って種や土を買い、諦めざるを得なかった農地=耕作放棄地を再生しようとしています。

耕作放棄地こうさくほうきち:以前耕地であったもので、過去1年以上作物を栽培せず、しかもこの数年の間に再び耕作する意思のない土地 (引用:農林水産省HP)

何度もひのめ商店へ足を運ぶうちに、会うごとに挨拶をかわし、たわいもない会話をするようになりました。とある日、知り合いから「2人を知ったきっかけって、いつだったんですか?」と質問され、「あれ?いつだったかな?」と脳内を駆け巡らせました。

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彼らとの出会いは、私が男鹿で初めての冬を迎えた、2020年12月28日。空き家の内覧に立ち会ったことがきっかけでした。
2人は男鹿の農地を耕すために住むところを探していました。県外に出ていく人が多いと言われている秋田県に残り挑戦する彼らの姿に非常に興味をもったのを覚えています。

そして、秋田県の中でも男鹿を拠点に選んだ彼らの話をもっと聞いてみたいと思い、インタビューをさせていただくことにしました。

2人の出会い

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― 2人が知り合ったきっかけは?

保坂:湯沢市でおこなわれているfermentators weekという発酵をテーマとしたイベントがきっかけです。県外からシェフやDJ、フラワーアーティストなどの人を招き、真冬にみんなでグランピングをしていました。でっかいテントの中でみんなでご飯を食べながら話をしたりしていた中で知り合いました。

大西:もともと彼の存在は知っていました。男鹿のどんぐり農場で自分で農地を耕している人がいるって。

保坂:知り合ってから彼が住むシェアハウスによく遊びに行くようになって、みんなでご飯食べたり、いろんな話をして仲良くなりました。

大西:たくさん話をしていく中で、お互いの関心があることについて議論をしたこともありました。
男鹿でめちゃくちゃ景色の良い農地を見つけ、ここでやろう!って決めた時に自分から一緒にやろうと誘いました。間髪入れず速攻で「いいよ」って言われ、「その0秒の思考なに?」ってなりましたね(笑)

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保坂:秋田で何か新しいことを始める人って、県外から来ている人達が多い印象ですが、自分達は県外(東京)出身者とずっと秋田にいた自分がタッグを組んでいて、かなり良いコンビネーションというか刺激し合える仲だなと感じています。

自分は東京に出て他県から秋田県を見つめ直したかったけれど、農業を学びたいから秋田に残って大学で勉強をしていたという経緯があり、でも彼がいることでその視点をカバーしてくれる。
そして、秋田で気になったことがあれば、ずっと住んでいた自分が人を紹介し人を繋いで情報を集め、スピード感を持ってカタチにしたりすることができる。2人いることで別々の視点からいろんなことが学べ、幅が広がっていることを実感しています。

男鹿という場所

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― どうして男鹿だったんですか?

保坂:2人で最初からタッグを組んで男鹿に集まったわけではなくて、それぞれ機会があって個人個人で男鹿に来ていました。
自分の場合は今、大学4年生ですが4年生になる前に1年休学しています。その時の計画として、半年間オランダで施設園芸というハウスの中で野菜など作るものを学びに行き、残り半年間は北海道で大規模農業を勉強しに行こうかなって思っていました。

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保坂:その理由としては、大学で農業政策を勉強するにあたって自分で土を触ったこともなければ、作り方も分からないし大変さも分からないのに、これが良いと農家さんに言うのは無責任だなって感じる部分があり、1度自分で土を触って一次産業を知る事によって今後、自分の仕事に活かせるかもしれないと思い、そういうプログラムを組みました。

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保坂:でもコロナで全部白紙になってしまい、「じゃ~どうしよっか?」って考えた時に、自分自身が農業をやってみた方が早いなって思ったんです。それで農地を探していたところ、人づてに男鹿にあるどんぐり農場さんの農地を使っていいよと言ってもらい通うようになりました。その1年は秋田市から男鹿まで毎日通って農作業をおこなっていました。

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大西:自分は大学生活の中でシンガポールに留学したり、その後休学し実家のある東京でコーヒーの勉強をしていました。

東京で生まれ育ったので、生活する中で見る景色も変わらなければ、東京は地域性もないし、お隣さんでさえ知らない、かといって他の地域に自分はルーツがあるわけでもなかったのでもう少し自分でルーツを持ち合わせたいなと思うようになりました。
大学生活を送る中で唯一縁があったのが秋田県でした。

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大西:秋田にきて間もない時に秋田市のシェアハウスに住んでいて、その仲間たちと『秋田を知ろうツアー』を自分たちで計画しました。

県内のいろんな面白そうな場所を巡り、輪が広がって行く中で、男鹿の珈音焙煎所の佐藤毅さんと出会いました。コントラバスを弾いてくれ、たくさんお話を聴く中で毅さんがやっている事に影響を受けました。

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大西:自分は秋田の景色がすごく好きなのですが、そうやって見ていくうちに捨てられている農地が多いなと思うようになりました。これから10年20年経つと、どんどん人がいなくなり農地や山が手入れされなくなっていくんだろうなと肌で感じました。

その風景を見るたびにそれは絶対に嫌だなと感じ始め、一度、ほつれてしまった里山の暮らしや関係性をいま一度、つむぎ直したいと思うようになりました。

その時に耕せる農地がないか毅さんに相談したところ「一緒に探そう」って言ってくれ男鹿で耕す場所を見つけました。

さとやまコーヒーと里山の繋がり

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自家焙煎しているコーヒーをおもてなししてくれました。
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焙煎されたコーヒーの味をチェック

今回煎れていただいたコーヒーも「また1つ発見に繋がった」と話す2人。

大西:今日飲んでもらったのは、いつも販売しているさとやまコーヒーではないんです。自分たちが飲む用にしているもので、販売はしていません。

保坂:最近、彼からコーヒーの煎れ方や焙煎の仕方を習っているんです。始めたてなのですが、1℃の温度の違いで味の変わり方はそんなにないだろうと思って3℃上げて焙煎してみました。そうすると味が全然違ったんです。

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大西:その3℃の違いでガラッと印象が変わるんです。

保坂:この豆自体は、もしかすると深煎りの方が豆のポテンシャルが引き出されている可能性もある、自分たちが売っているさとやまコーヒーに適している豆がもっと他にあるかもしれないという発見にも繋がりました。

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大西:通常のさとやまコーヒーは中煎りです。自分たちが目指しているさとやまコーヒーの味としてはコクと華やかさっていうのがあって、コクもあるけれどワッと驚くというよりかは、そんなに驚きすぎない、嫌になったり飽きたりしない、酸味とかフルーティーさみたいなのを出すようにしています。

そもそも焙煎と抽出というのは、生産者さんが作った珈琲豆のポテンシャルをどこまで引き出すかという話なので、もしかしたら、さとやまコーヒーが目指している方向性の味にもうちょっと適している豆があるのかもしれないと考えています。

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― 今後はもしかするとさとやまコーヒーで販売する豆も他のバリエーションが増えるかもしれないですね。

大西:僕自身以前コーヒーを勉強していた経緯がありますが、その理由としてコーヒーにも里山らしさがあって、そこで、ひとつの作物が連鎖的に他の環境に影響を与えているんだと気付いたんです。

育て方によっては、水質汚濁に繋がる栽培方法や森林破壊に繋がる栽培方法もあるけれど、バナナの木や他の木と育てたりすることで、売り上げやコミュニティに還元して地域がより強くなっていく鍵になる作物もあるんですよね。

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大西:最近では外国の生産者さんと繋がって買い付けに行けたらいいねって話しています。

たとえば、今提供しているさとやまコーヒーは、エチオピアとグアテマラのブレンドコーヒーなんですが、タイにも里山を意識した研究の対象になっている地域があって、そこから買い付けた時には、タイのコーヒーにはタイのコーヒーのポテンシャルがあってそれに見合った価格帯が出てきます。そういう時に地域によってポテンシャルの異なるコーヒーを全部まとめて「さとやまコーヒー」とするよりは、また別の種類を作っていく必要があるという風に思っていて、今後、「さとやまコーヒー」とは別の商品が出てくる可能性もあります。

今回みたいに深煎りの方が美味しいかもとなった時にオフィシャルで深煎りみたいなのを作るのもありかなと。

耕作放棄地と向き合う

私自信、協力隊になってから初めて耳にした単語、耕作放棄地。
お恥ずかしながら2人に出会ってから知った問題でした。

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― 耕作放棄地って授業で勉強していたんですか?

保坂:秋田県の農業の課題でずっと言われています。農家さんが減り、余っている農地が増え耕作放棄地が増加していると。農家さんが増えない限り同じ耕作面積というのを保てないので耕作放棄地はどんどん増加していくと言われています。

でもこういう問題を知っているのは、地域に住んでいる農家さんだけで、普通に一般の仕事をしている人であれば単に離農されたんだなって終わってしまいます。問題視されず、その場所に住んでいる人達の課題認識というのはされていかないままなんです。

農業を勉強していると言っても、何で耕作放棄地が増えているのかといった落とし込んだ授業ってあまりなくて、そこを知りたくて自分で農業をやりたいなって思った部分もあります。

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保坂:学校で教えてくれないということではないのですが、実体感を持っている人が授業で教えるわけではないので、ただデータを集めて知っている知識を話しているような感じなので、実際に農業をやってリタイアした人が教えた方がなんでこうなるんだっていう部分を学べるんじゃないかと思います。

自分の大学は休学する人があまりいないのですが、耕作放棄地を開墾するという経験を伝えることで、学びの幅が学生の中で広がると思ったこと、また経験することに価値があると思い休学したというところはあります。

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― 私自身も耕作放棄地を調べた時に、作付けしていない場所があったとしても、そこは耕作放棄地に該当しないっていうことを知り唖然としました。

保坂:そうなんです。ここ数年間で耕作の意欲があるかどうかで耕作放棄地になるので、実際にやってるかどうかではないんです。

大西:耕作放棄地の解消自体がものすごく難しい問題で大変なので単純にキャパオーバーですよね。

―大きな流れが変わらない限り数人が動いたところでは、何も変わらないってことですね。

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里山とは「人の手が入ることによって生態系のつりあいが保たれる地域」のことです。つまり、人間と自然が、上手に共存している。
そうやって、現代だからこその温故知新な地域のあり方が、あり得るんじゃないか。

法人化する前、任意団体「reweave」として活動していた2人。
里山に対する考え方を大西さんが執筆されています。

彼らと出会い私自身多くのことを学ばせていただきました。
個人的には、温故知新の考え方でいろんなことが少しづずつ変化していくことを期待しつつ、今後も引き続き2人の活動を応援していきたいと思います。

そして彼らは、2021年8月大学在学中に任意団体から法人に。
理由を聞いたところ、「ここでやっていくという覚悟です。やっていることは変わらないし自分たちの方針も変わらない。」とお話しをしてくれました。

男鹿市移住・定住ポータルサイト「おが住」でもお二人の活動を紹介しています。起業や今後の想いについてのエピソードもご紹介していますのでぜひご覧ください!

男鹿市移住・定住ポータルサイト「おが住」はこちらから!

さとやまコーヒー 200g
エチオピアとグアテマラのブレンドコーヒーです。
中煎りで、コクと華やかさがあるコーヒーに仕上げました。
豆、粉からお選びいただけます。
ご購入はこちら

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写真提供:合同会社秋田里山デザイン
Instagram:@reweave_satoyama
Facebook:@reweave.satoyama
bace:https://reweave.thebase.in/

著:男鹿市地域おこし協力隊 吉岡 利那(Twitter:@Oga_Akita_Life


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