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男鹿の海藻食文化~地元のおかあさんたちの想い~

こんにちは。
秋田県男鹿市地域おこし協力隊の浅井です。

男鹿に来て、気づけば10か月目を迎えました。
時間が経つのは早いものですね。

男鹿半島といえば、何を思い浮かべますか?
なまはげ?石焼料理?オガーレ?ジオパーク?

実は、海藻の食文化があることをご存じでしょうか?

世界では現在、海藻は未来食の1つとして注目されているそうです。
コロナ禍を経て、健康やSDGsの意識がより高まり、健康的な日常生活を心がける人が多くなっています。
SNS上では、”スーパーフード”の1つとしても情報発信が盛んに行われているのを目にしたことがあります。

そして最近、国内外の海藻とその食文化を学び体験できる、第2回国際海藻サミット「Seaweed Summit vol.2」が11月4日、5日に男鹿市で開催されました。

今回は、そんな注目を浴びている海藻。男鹿の海藻食文化について紹介します。


なぜ、男鹿半島には海藻が多い?

約170種類の海藻があるといわれている男鹿半島。

海の環境が良く、ジオパークを構成している地形も関連しているとか。
男鹿半島西海岸はユーラシア大陸時代の激しい火山活動の痕跡が陸地から海底まで続いており、海水の攪乱により海藻などが大きく揺れるため海藻の光合成が効率よくでき、海藻類がよく育つ環境にあるそうです。
海藻と聞いて、私がイメージするのは、ワカメや海苔。
皆さんはどんな海藻を知っていますか?

男鹿半島に来てから知った海藻は、エゴ、テングサ、ギバサ、クロモ、ジバサです。
その中でも、ギバサは男鹿温泉郷での食事や男鹿市内の飲食店でも見かけることが多い印象です。
とても粘り気があり、磯の匂いもキツすぎずスッキリとした味わいです。

【写真提供:男鹿なび】

幻の食品?エゴとは?

男鹿半島に来て、初めて知った海藻料理のうちの1つにエゴというものがあります。
エゴ草という海藻を煮溶かして固めたものです。
地元の方に聞くと、お酒のつまみに最高で酢味噌で食べるのがオススメとのこと。

ただ、海の環境変化に非常に敏感なため、現在は収穫量が減少しており幻の食品になりつつあるそうです。
海が荒れた翌朝や、荒れているときに海岸で拾うことができ、採るとゴミがたくさん付着しているので、綺麗に水で洗い流して、天日で乾燥させる作業を繰り返すと、白いエゴができるようです。

天日干し日数 短い(左)→長い(右)

白いエゴは全国的にも珍しく、男鹿唯一の食文化のようです。
弾力と歯ざわりがある食感で、ミネラルを含む自然食品でもあります。
男鹿市のスーパーで購入できるので、お越しいただいた際は、ぜひ食べてみてください。

海藻の効能

海藻にはたくさんの栄養素が含まれていると聞いたことがあります。
便秘解消や低カロリーなことからダイエットにもおすすめで、健康的な食品なので世代問わず積極的に摂取すると良いそうです。
地元の方々も、小さい頃から食卓にでてくるご家庭もあり、日常的に食べることで、長寿の方も多いとおっしゃっていました。

海藻サミット参加者の声

冒頭でもお伝えしましたが、先日、男鹿市で第2回国際海藻サミット Seaweed Summit vol.2が2日間にわたり開催されました。

第1回目がイタリア・トリノでの開催で、日本では初開催。
世界各国から海藻に可能性を感じている方々が男鹿半島に集結されたそうです。

-参加者の声を聞いてきました-
・男鹿で生まれたが白いエゴは男鹿ならではのものとは知らなかった。
イベント後、気になってオガーレ(道の駅おが)に買いに行き、家で食べたらとても美味しくハマってしまった。

・Seaweed Safari (シーウィードサファリ)が面白そうだった。
目の前で採れた海藻を実際に自分達で料理したり食したりすることで意識が高まる。
自分で体験することは一番価値があり、理解を深めるいいきっかけとなると感じた。

※Seaweed Safari・・・海藻を見に行く、採りに行く、実際にそこへ足を運び触れること。

・宇宙開発に携わっている方の話で、宇宙開発の視点から2050年には5〜10万人が宇宙へ行くという話があった。
宇宙空間で食事をするにあたり、水や空気等が限られているため海藻が重宝されるようで、今後の海藻の可能性をとても強く感じた。

・多方面から海藻を活用していくために、産業や観光としてお金にも変換していくことが必要だと学んだ。
伝統を守っていくことも大事だが、現代にあった海藻活用法を見出だしていくことが必要と知った。

【写真提供:海藻サミット実行委員会】

海藻料理を提供する期間限定の料理人

男鹿半島の西北端に戸賀湾があります。

この漁港で採れた海藻や魚を使った、漁師めしと呼ばれる料理を食堂で提供するおかあさん達がいます。

おかあさん達は、別名”戸賀浜のかあちゃん”とも呼ばれており、県漁協女性部戸賀支部の有志で、漁師のおかみさん3人で食堂を運営しています。

この食堂は、”戸賀網元番屋”と名付けられ、かつて実際に使用されていた番屋を食堂として、約10年前から料理提供をはじめたそうです。

※番屋とは・・・漁師が泊まり込んだり、作業をしたりする小屋のこと

戸賀網元番屋をはじめるきっかけ

以前、男鹿市観光協会の方からハタハタ汁をふるまうイベントを開催するため、番屋を借りたいという依頼があったそうです。

それを聞いた、おかあさん達 (当時の漁協女性部戸賀支部の方々)は、やってみるか!という気持ちで番屋を貸し、ハタハタ汁を提供しました。
その結果、おかあさん達の料理が大好評となり、戸賀網元番屋をOPENさせることとなったそうです。

店内は、ガラスの浮き玉がライトになっていたり、ハタハタ漁の写真や大漁旗、迫力のあるなまはげのお面が飾っていたりと、番屋の趣が残されたとても素敵で面白い空間です。

ガラスの浮き玉ライトが気に入りました。
大迫力のなまはげのお面が飾られています。
男鹿半島の漁業が昔から盛んだった歴史が伺えます。

土日のお昼限定で料理を提供されている番屋のおかあさん達ですが、 平日は、家で過ごすことが多いようです。

テレビを見たり、韓国ドラマをみたり、家の掃除をしたり。
韓国ドラマが好きなおかあさんは、韓国まで行ってロケ地巡りをしたこともあるそうで、皆さん普段から活動的なようです。

【写真提供:男鹿市観光協会】戸賀浜のおかあさんたち

-番屋のやりがいは何ですか?

お客様が料理を食べて笑顔になったり、喜んで帰っていくのをみるととても幸せな気分になる。
この光景をまたみたい!という気持ちにもなり、料理を提供する励ましの力にもなっている。

-大変なことは何ですか?

海藻や魚の調達が年々難しく、望みの魚がないこと。
以前と比較すると、大幅に漁獲量が減少しているので、料理提供に影響を及ぼしている。

海藻料理ができるまで

海藻はそもそもどうやってとることができるのか?
すぐ料理に使えるように処理されている海藻しかみたことがなかったので、
想像がつきませんでした。
実際は、船をだして、潜って手でとったり、網や道具を使ってとることができるそうです。

番屋のメニューは、かあちゃん定食のみです。
その時期に戸賀漁港でとれた魚や海藻を使って、おかあさん達がメニューを考案し決定しています。

かあちゃん定食を頂いた時のメニューを紹介します。

煮物 (メバル)
酢の物 (イカ)
二点もり(サザエ、鮭の中骨)
海藻の天ぷら (わかめ、アラメ)
クロモ、テングサ
漬け物 (わかめの茎)
ざっぱ汁 (あら汁)

海藻がこんなに盛りだくさんの定食は初めてで、魚の煮物も1匹まるごといただけてボリューム満点でした。
ちょうど、新米の時期と重なり、ご飯がとてもすすみました。
男鹿の地元食材を堪能できる贅沢な空間です。

そして、テングサを使ってコーヒーゼリーを作ってくださいました。
海藻が入っているなんて、味の想像がつきませんでしたが、食べてみると、とても美味しく、海藻の臭み等は全く感じられませんでした。
健康的で体に優しいデザートで、商品化してほしいくらいです。

海藻文化と共に生きる、おかあさんたちの想い

おかあさん達は毎度訪問する度、暖かく迎え入れてくれます。
番屋の空間は、もはや私にとっては家と同じくらい落ち着く空間になっていました。

最初、外から男鹿に来た私が、突然取材をしに訪問した際には、男鹿のこと、海藻のこと、おかあさん達の暮らしなど、たくさんの質問をしたにも関わらず、どれも丁寧に答えていただきました。
会う回数が増えるにつれ、名前を呼んでくださったり、困った時には頼ってくださったり、とてもチャーミングで話しやすく、素敵なおかあさん達です。
番屋に行けば、みなさんもきっと感じると思います。

-今後もずっと番屋を続けていきたいですか?

“現状維持”
年齢も年齢なので、これからも健康で元気におかあさん達3人仲良く過ごしていきたい。
番屋は続けられる限り、続けていきたい。

-将来、男鹿(戸賀地区)がどんなまちになっていてほしいですか?

若い人がもっと増えて、漁師になってくれる人がたくさんでてきてほしい。
魚を釣る人、海藻をとる人がもっといれば、地域も変わってくるかもしれない。

高齢化が著しく進行している影響で、ここ(男鹿)にいても働く場所が少ないし、生計を立てるのが難しい。
だから、外に出て行き、自立してほしいと願う親御さんが多いと、おかあさん達はおっしゃっていました。

一度、外へ出ると地元へ戻ってくる人は少ないようですが、人や仕事が増えれば、経済もまわるし、活気が出てくるし、故郷に戻りたいと思っている方々も、戻る場所や環境があれば戻ってこられるのだろうと思います。

人口減少や高齢化の問題は、男鹿市だけの課題ではないですが、国内には事業や文化を継承したくても、継承できない問題が山積みになっているんだろうなと感じました。
都会に住んでいたら全く触れも考えもしない課題に直面するのが、地方ならではなのかもしれません。

取材中でみたどこか寂しそうなおかあさん達の表情の裏には、現実では受け止めきれない地域の大きな課題がみえてきました。

最後に

男鹿半島は、自然の魅力だけでなく食の宝庫でもあると感じました。
海藻がたくさんとれる聖地でもあり、海藻を使った料理を提供できる地元のおかあさん達がいて、番屋の存在価値を理解する方々がたくさんいらっしゃいます。

私が地域おこし協力隊としてできることは限られてしまうかもしれませんが、このような素晴らしい場所、男鹿半島での暮らし、地域の方々との交流を機に、引き続き男鹿の海藻文化や魅力を発信していき、もっと多くの方々に男鹿の良さを知っていただけたらと思います。

最後まで読んでいただきありがとうございます。
男鹿に来た際は、ぜひ、戸賀網元番屋のおかあさん達にも会いに来てください。

今回、取材にご協力くださった皆様、ありがとうございました。

*戸賀網元番屋*
土日の昼のみ営業。
来店時、事前連絡要。

この記事で紹介させていただいた海藻は、道の駅おが オガーレで購入できます。
男鹿市へお越しの際は、ぜひお試しいただけたら嬉しいです。

【著:男鹿市地域おこし協力隊 浅井安奈(Instagram) 】