
note創作大賞に触れる│読書感想「私の死体を探してください。」星月渉
「あ、これドラマ化してた話かな?」
そう思って手に取った作品は、note創作大賞2023を受賞していた。
沢山の作品が投稿されているnoteの中で、「この作品がトップです!」と言われるのは、どんな小説なのだろう。
完全なフィクションか、
経験をもとにしたリアリティのあるお話か、
すてきなメッセージを含むのか、
世の中に一石を投じるような鋭い指摘か。
いろいろな興味が湧き、ページを開く。
最初に登場したのは、ある小説家のブログだった。
「ミステリー作家の私から、皆さんに捧げる最後のミステリーです」
「私の死体を探してください」
____________________
note創作大賞W受賞でドラマ化決定のノンストップスリラー。
ベストセラー作家・森林麻美がブログで自死をほのめかし「私の死体を探してください」という文章を残して消息を絶つ。
担当編集者の池上は新作原稿を手に入れるため麻美を探すが、その後も作家のブログは更新を続け、様々な秘密が次々に暴露されていく。
衝撃的なブログの内容に翻弄されていく関係者たち。
果たして麻美の目的は?
そして麻美は本当に死んでいるのか?
「私の死体を探してください。」
著者:星月渉
出版社 : 光文社 (2024/7/24)
発売日 : 2024/7/24
単行本(ソフトカバー) : 236ページ
🏆️note創作大賞2023「光文社文芸編集部賞」「テレビ東京映像化賞」W受賞
✒ミステリ、推理作家の失踪、予約投稿のブログ、不倫、山奥の別荘、東京のマンション、働かない夫、姑の嫌がらせ、投資詐欺、編集者、養護施設、女友達、ヤングケアラー、性的虐待、決められた進路、きょうだい児、集団自殺
____________________
まず、申し上げておきたい。
これは「イヤミス」だ。
人間の怖さや嫌な所が、次々と描かれる。
ストーリーについては、帯に書かれた
「死人に口あり。言いたい放題。好奇心の前では善悪は無力だ」
というフレーズが、絶妙。
まさに、言いたい放題の死人に、生きた人間が翻弄される話なのである。
驚きの展開があるエンタメ作品!
一気読みしてしまうおもしろさ!
という感想が多く寄せられた作品なのだろうな、と思う。
けれど、私には少し辛かった。
イヤミスが全て苦手な訳では無いけれど、この作品は、あっちもこっちも悪意が染み出しているようで、誰も好きになれず「こんなに嫌な人ばかりじゃ、やってけないよ」と序盤からしんどくなってしまう。
「この作家さんを本当に心配する人は近くにいないの?」と思う。
それでも、一般的には
「本当に死んでいるのか」
「死体はどこなのか」
「次は何が明かされるのか」
など、次々と生まれる謎をハラハラして追うのが本筋なので、エンタメとして楽しんでいて、そのあたりは気にならない方も多いだろう。
「気にしすぎかな」と読み進める。
しだいに、物語は現実パートとブログの中に投稿される小説を行き来するようになる。すると、その小説で語られる子供の頃の記憶も、辛かった。
私は子供が「自分の意志で避けることが困難な場所で、苦しみを強いられる」描写が苦手だ。虐待やイジメのシーンは、できることなら読む前に心積もりをしたいと思う。
作品感想を書く時にキーワードを載せているのも、そのためだ。誰かの自衛に役立ってくれたら、と思っている。
話が逸れてしまったけれど、
とにかく、この作品は苦手なもののパレードだった。
それでも、全体が短く、展開が早いためサクサク読むことが出来る。
テーマが苦手だと思っても、読み切らせる文章。先が気になるプロット。
グイグイ読ませる力強さが大賞受賞作のパワーなのかもしれない。
読み終わったとき、これまでのドロリとしたイヤミスの中から、胸がすくような開放感があるかと言えば、そうではなかった。
ただ、重たいものが心に残る。
こうして多くの人が結末まで「読みきった」。
それが、この作品の力なのだろう。
どんな人でも最後まで読める文章を書くことは、本当に難しい。
そして、note創作大賞はそんな文章を書ける人を選んだのでは。
そんな気がした。
ふと、帯の文を思い出す。
「好奇心の前では善悪は無力だ」
作中でブログを炎上させ、話題に群がる人々に向けられた言葉が、自分に返ってくる。私は、好奇心で読んでいたのだろうか。
最後まで読ませる。
言い換えれば、ブラウザバックさせないこと。
これは、全ジャンルの作品に当てはまる
現代ならではの指標かもしれない。
※Amazonアソシエイト・プログラムに参加しています。