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クイズプレイヤーの頭の中|読書感想 「君のクイズ」小川哲

プロの視点や考え方を知ることは面白い。

外から見るだけではわからない努力や、選手同士でしかわからない細かな注意点を知ることで、競技を見るのも面白くなる。

そんな風に感じる方へ、おすすめしたい本がある。

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「君のクイズ」 小川哲

  • 出版社 ‏ : ‎ 朝日新聞出版 (2022/10/7)

  • 発売日 ‏ : ‎ 2022/10/7

  • 言語 ‏ : ‎ 日本語

  • 単行本 ‏ : ‎ 192ページ

✒クイズ、トッププレイヤーの思考、テレビ番組、疑惑の優勝、究極の早押し、賞金返還の狙い

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「このミステリーがすごい!2024年版」第7位
「2023年本屋大賞」第6位
「ミステリが読みたい!2024年版」第2位
「第76回日本推理作家協会賞 受賞作」

帯にいくつもの賞が並ぶ。
昨年、話題になったミステリーは、
一貫して、ある1つの問いを追いかけ続けるものだった。

その問いとは、

「クイズの問題文が読み上げられる前に正解を出すことは可能か」

テレビ番組のクイズ大会。
決勝戦の、まさに優勝が決まる問題で
0文字押しをして正解した、本庄絆。

「不可能だ」
「ヤラセなのでは」
「いや、彼の実力だ」

様々な憶測が飛び交う。
この優勝は物議を醸し、番組は次回開催を中止。
本庄は優勝賞金とトロフィーを返還した。

この小説は、決勝戦で彼に敗れた三島玲央が、
「なぜ本庄が0文字押しで正解できたのか」を追うストーリーだ。

正解に行き着くためには、何か糸口があったはず。
本庄を深堀りしていくうちに、三島自身も過去のクイズや、これまでの人生を思い返すことになっていく。

特に面白いと感じたのは、クイズプレーヤーとしての思考だった。
冒頭の文字からどんな問題が推測されるか、そこから1文字進むと、どんな風に答えが絞られていくのか。そんな思考の流れを読むことができる。

知識があっても、それだけでクイズに勝つことは出来ない。
それを何度も思い知るような内容になっていて、もしも「クイズプレイヤーになりたい!」という子がいれば、「まずは、これを」と手渡したくなる。

たくさんの問題が「ベタ問」として登場するけれど、全くわからないものばかりで、そういうところはクイズとして楽しみながら読んだ。

「Q、目黒駅はし…」で「A、港区」と答えられるのは「目黒駅は品川区にありますが、品川駅は何区にあるでしょう?」というベタ問を知っているから。これでは、ただ知識があっても押し負けてしまうのも頷ける。

さらに、震災を経て日本で一番低い山が変わったように、正解は変わっていく、ということも考えたことがなかった。常に情報をアップデートしなければ勝つことは出来ない。思っていたよりもずっと厳しい世界なのだと、はじめて知った。

この小説を紹介する時、私なら「ミステリの賞をたくさん受賞している」と紹介するより「クイズが好きならオススメ。そうでなくても、トップのクイズプレイヤーがどんなことを考えているかわかって面白いよ」と伝えるだろう。



※ここからは結末に関するネタバレを含みます。




本書を手に取った時、たくさんの賞が並ぶ帯に、ミステリらしい大きなどんでん返しや、奇抜なトリックが隠されているのだろう、と期待した。

けれど、個人的には、この作品はそういった満足感には繋がりにくいと思う。読み応えがあったし、最後には驚いたけれど、驚いたのは「0文字解答のからくり」ではなく「本庄が本当に狙っていたものと、彼のその後」だったから。

番組や周囲を巻き込んだ、大きなトリックがあるわけではなく、本当に彼は自分の知識と経験で正解を手繰り寄せただけだった。そんな事が可能なのか!という驚きはある。確かにあるけれど「そっちかぁ…」という期待外れ感を持ってしまう人も少なくないと思う。

逆に、フラットな状態で読めば
「そんな風に導いたのか!面白かった」と思える人も多いだろう。

0文字解答をどうやって可能にしたか(知識と経験のみで)という答えが気になる方は、ぜひ読んでみて欲しい。

そして、私には、この本を今後も手元に置きたい理由がある。

一気に読んでしまえる長さで、なんだか色々な知識が増えるので、時々、読み返して「シェイクスピアの問題劇3作」や「3大学術誌」を覚え直してみようかな。と思っているのだ。

もしかすると、どこかで、そんな問題に出会うかもしれないから。

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