【短編小説】お昼休み
ドスン!
午前中で疲れた体を勢いよく椅子の上へ持たれかけると
4本の脚がキィと悲鳴を上げる
眩しい昼間の太陽が
社員食堂のいくつかの窓から降り注ぎ
机に光と影の境界線を作っていた
日陰の席でスマホを取り出し
イヤホンでお気に入りの歌手のライブを聴きながら
少し遅いランチタイムを過ごす
そして、いつものように投稿サイトで自分の作品の評判を確認する
才能がない
誰にも認めてもらえない
生きているだけで精一杯…
「あはははは!」
「マジありえないって!」
「ウケる!」
テラス席では正社員の若者たちが週末の話で盛り上がっていた
私とは実に対照的だ
私は25年間、派遣会社に振り回され、搾取され続け、使い捨てられて
一人ゴミ箱に中にいるような心境だった
ライフプラン、資産形成、情報収集、健康管理…できなかったことはすべて自業自得らしい
結果、私の手元にはいつも何も残っていない…
報われなかった過去
故に蓄えられずに迎える将来への不安
週末はおろか、現在でさえ…
それでも、箸を持つ手は口に栄養を運び
反対の手は理想とする世界を妄想しながらタップダンスを踊っている
作ってくれと、誰かに求められているものではない
お金になる訳でもない
ほとんど誰にも見られていないのもわかっている
自己満足としか言いようがない習慣
でも、この時間が楽しい
作ったものは、自分の分身のように愛おしい
だから報われてほしい
せめて作品だけでも誰かの心に残ってほしいと願う
耳から入る歌声は力強いサビの部分に差し掛かる
同い年の彼は才能溢れるシンガーソングライターだった
私はまだ生きている
使える時間があるのだと、彼の曲を聴く度に思う
…酷い人間なのかもしれない
歌声はサビを繰り返す
私の指もノリノリだ
今日はライブ内の歓声がまるで自分に向けられているように感じられた
「 頑張ろ」
そう心の中で力強く言って、席を立つ
荷重から開放された脚たちがまたキィと鳴る
声は一日中頭の中で鳴り響き、耳から脳を通って体全体へ熱を伝え続けた