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「線は、僕を描く」を見て、「一線の湖」を読んだ

 砥上裕將著「一線の湖」(発行所:㈱講談社)を読んだ。

 久しぶりに、若者向けの小説を堪能。こういう瑞々しい話はイイ。何より前向きでエネルギーに満ちている。

 本書を読んだきっかけは、小泉徳宏監督の映画、「線は、僕を描く」(配給:東宝)を見たこと。 映画の原作は本書の著者である砥上裕將氏。

映画「線は僕を描く」

 何となく見始めた水墨画の映画「線は僕を描く」。
冒頭の方で、水墨画の巨匠(篠山湖山)が、障子大の巨大な和紙に、即興で水墨画を描き切る揮毫会のシーン。最初は、誰が演じているのか分からなかったけど、三浦友和さんだった。 
筆をシュッシュッと走らせ、次第に水墨画として浮かび上がってくる様を切り取った映像は見事。ホントは水墨画家が書いてるのだろうけど、三浦さんの凛として暖かな佇まいが絵になる。 
何だか興味が湧いて全編を見た。

 映画が終わっても、「終わってない」感じがした。
何となく、ここで終わっていいの、と。 あれもこれも謎だらけ。
この渇望感は、監督の技なんだろうか。そういう原作なんだろうか。

 本屋に行くのも面倒なので、電子版のマンガを見ることにした。
生まれて初めて電子版を扱った。 
私の本の読み方は、気になった所を折り込んでみたり、途中でずっと積読になったり、何度も読み返したりする癖がある。これは譲れない慣習。なので、電子書籍は苦手だと思っている。
もちろん、イマドキだから、タグとかメッセージの書き込みとか出来るらしい。
けど、なんか違うんだよなぁ。現物と電子では。って使ってもいないのに。
何より視力が良くないので、電子画面を凝視し続けることに抵抗があった。
(単なるイイワケか)

 「線は、僕を描く」のマンガ版を読んだ。絵が中心だから、電子版でもスイスイ読めるし、直ぐに読み返せる。あっという間に全巻。便利でイイ。

 だけど・・・マンガ「線は、僕を描く」と、映画では、エンディングが違う。 どっちが?と思ってしまった・・・ 
 結局、後日、本屋に行き、文庫本を買った。
帰宅する間もなく、帰り道で結末を読む。・・・ムムム・・そうだったか。

小説「一線の湖」

 五感を文字で示すのも難しいけど、絵画を文字で伝えるのは、並大抵のことではない。 図柄もそうだけど、絵に注がれる光や影、色彩の豊かさは、文字で表せない部分が多々あるはず。 

 本書著者は、水墨画家でもある文芸作家。
類まれな技量を持って感性的に描いた水墨画の世界を、見事に言葉にしたためている。さすが、としか言いようがない。

 白と黒だけの水墨画。 線は、点となり、面となって、画仙紙を縦横に動き回る。浮き上がって来る絵は、黒だけじゃない。描かれない白もまた、余白として絵になる。
いいなぁ。ササっと、スーッと、こんな絵を描いてみたいものだ。

 前作「線は、僕を描く」で、はっきりしていなかった主人公の青山霜介の進路は、本書「一線の湖」で明らかになる。
 ようやく、道が定まったか。 けど、そうきたか。 
著者らしさが、滲み出た結末。それがいい。 
読者としての私は満足。 霜介を応援したい気持ちで一杯だ。

 本書のサブストーリー(だろう)巨匠の引退も、身に染みた。
どんなに優れた人だって、歳を重ねれば、老いさらばえてゆく。
 巨匠になったとて、いつか、道を譲らねばならない。
分かっていても、それは今日じゃないと思いたいのが人の心情。
なかなか覚悟出来ない。一歩を踏み出す勇気がでない。
ひょっとすると、
 巨匠の、老人の引退を決めるのは、若者たちの躍動感なのかも。 

本書は、前作とともに面白い読み方をした。こんなのもイイ。

                          (敬称略)

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