【読書】阿部智里/追憶の烏
前作から第2部が始まり、第1部から実に20年も時が経っていたことに驚かされたのですが、その間何が起きていたのかを教えてくれるお話です。
素直な感想
ほぼ一気読みしてしまいました。面白かったです。そして、いつものことですが、読み終えて、また第一作から読み直したくなりました。最初から延々とつづく人間関係、丁寧に積み上げられた伏線、あの時のあの事件、あの人かぁ、と思うようなことが次々出てきます。
第一作、第二作、第三作、そして前作をまずは丁寧に読んでおきましょう。あと短編で出ていたちはやのだんまり、きんかんをにる、はるのとこやみ、なつのゆうばえ。んー、結構なボリュームかもしれませんねぇ。じゃあいっそのこと全部読み直してもいいくらいです(笑)
前作では20年経過した所で金烏がなぜ違っていたのか、なぜ千早はあんなところにいたのか、雪哉に何があったのか、山内に何が起きたのか、わからないことがたくさんありました。でもこれを読めばなるほど、と思うのです。一つずつ話を進めるのではなく、少し先の話をして、何があったのかわからないところを残しつつ、その説明をする話を次に持ってくることでなるほどと思わせるなんてほんとずるいなぁ〜、うまいな〜と思います。
第一作と第二作では同じストーリーを違う人の視点、裏表から描くなど、映像的な表現を感じました。上にも過去のさくひんを読んだ方が良いと書いた通り、過去の作品に出てきた話がベースになって今作でも話が進むので、過去の作品をまた読み直したくなります。この人どんな絡みをしたんだっけ?とか、あるあるです。作品が進んでも以前の作品との関連で構築していく「技」を魅せつけられっぱなしです。それに加えていつもながら先を読ませないストーリー展開にはやられます。今回もやられました。
展開がうまいんですね。それを進めていくロジック、構成力にはいつもながら舌を巻きます。ほんと脱帽。
以下ネタバレするからまだ読んでない人は気をつけてね
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誰が主役?
今まで烏シリーズを読んできて僕が作者に聞きたいのはこの話の主人公は誰なのか、なんです。これまでは金烏が主役になるとばかり思っていて、その活躍を期待していました。相方とも言える雪哉を中心に話を回しているところが大きいのはあくまでも物語の語りべ的な存在として扱っているのだろうと思っていたのです。
でも金烏である奈月彦はろくに出てこず、活躍もしないまま死んじゃいました(あ、書いちゃった)。それが原因で千早が山内を出たということもわかりました。
各作品では中心となる人物は入れ替わります。お嫁さん候補の四家のお姫様たち、山内衆、金烏、いろいろなパターンがありました。でも最後は雪哉が出てきて締めくくります。烏シリーズは雪哉を通した山内のストーリーだと思えば良いのですが、今作において烏の主役は雪哉になったと思いました。
誰が殺したクックロビン
今回のテーマはズバリこれです。金烏を殺したのは誰か。大きな戦争でもあったのか、と思って読み進めましたがそうではなかったですね。南家出身大紫さんの陰謀でことは進んだ、うまく進みすぎたのですが、それだけにとどまらなかったのです。
お世継ぎ、次の金烏を選ばないといけないのに、奈月彦には娘(紫苑)しかいない。挙句には娘に継がせると言い出す始末。
奈月彦の次を誰にするか、兄長束彦が暫定的に継いで娘を養女にして継がせるだろうという大方の予想を裏切って急に現れたのはあせびちゃんとその子供凪彦ちゃん。しかもパパは先代金烏という。なんちゅう親父、なんちゅう親父キラー。あせびは金烏の嫁になれなかったものの見事座を仕留めたってわけですね。
まああせび一人でこんなことができるわけでもなく、四家が結託していたからできたことなんでしょうが、なんて恐ろしいことなんでしょう。
真の金烏は?
あれだけ力があると描いていた金烏奈月彦をあっさりと暗殺されるストーリーにしちゃって阿部先生この先どうするの?
ということで、最後に出てきた澄尾の娘茜の双子という葵、奈月彦の若い頃を思わせる風貌、物言い、頭の回転、でも女性、という謎の(?)キャラクター、第二部は世代交代しつつ話が進んでいくのでしょう。
今の凪ちゃんは真の金烏パワーを持っているとは思えないので、彼女がどう絡んでいくのか、また次が早くも読みたくなりました。烏シリーズは本当に中毒性が高いです。
オススメ度:★★★★★(一気読みさせる面白さ!)