この闇と光|服部まゆみ
解説・皆川博子!
ここでお目にかかるとは光栄です。
幼い盲目のレイアは、自分と父とダフネしか知らない。父から与えられた世界しか知らない。父との世界が全て。
ミステリーばかり読んできた私は騙されませんよ。信頼できない書き手が要注意なのは基本中の基本。
レイアに父が読み聞かせしてあげる作品は、子供には難しくないか?というラインナップばかり。
『嵐が丘』のヒースクリフはわからないが、『罪と罰』の金貸しの老婆の嫌悪感は知ってる。
Kindle Unlimitedで『罪と罰(まんがで読破)』を読んでいてよかった。
そして『デミアン』。
ここにきてまたヘッセだ。
もういいかげん読むかー(白目)。
もし『デミアン』を読んでいたら『罪と罰』のようにもっと解像度高く読めただろうか。もったいないことをした。
試しに『デミアン』の数ページを読んでみた。
するとどうだろう。以前試したときは目が滑っていた文章が、レイアと父のフィルターを通すと読める、読めるぞ…!
逆もいえる。レイアと父の物語が違った色に変わる。どんでん返しとは別の、裏と表だけではない厚みが出てくる。
読んでいなくてもったいないは、正しくないかもしれない。ここからみえる風景がありそうだから。
道尾秀介の『N』のように、自分が選んだ順番が最高!となればいい。
角度が変わると見え方が変わる。
信頼できない書き手。レイアからみた真実。父からみた真実。闇と光。内側と外側。真実と嘘。虚構と現実。
その境はあるようで無く、有耶無耶に混じりあい溶けあう。再会したふたりの境界線が滲み、光に霞み、ヴェールのような闇が……
というところで、現実にいる夫が「これ読み終わったから次のちょうだい」とテーブルにトンと置いた森博嗣。
髪型は違うがまるでレイア姫。
これが答え?という絶妙なタイミング。
森博嗣作品には『それでもデミアンは一人なのか?』というのもある。
こちらのデミアンは知性を持った兵器だが。
ここまでデミアンに囲まれたらもう読みましょう。
読み終わったとき『この闇と光』が変わるのか、変わらないのか、それも楽しみではないか。