生命式|村田沙耶香
亡くなった人間を食べて交尾相手と受精する。
葬式ではなく「生命式」がスタンダードになった世の中。
だいぶショッキングだが、ここに至るまでに徐々に受け入れたり反発したりの経緯があったのだから、人間って柔軟にできている。
山本をおいしく食べるために、仕込みに四苦八苦する描写も、山本の角煮を煮るのにアルミホイルで落し蓋をするところまでくると、もう麻痺してくる。
人肉とはいえ料理の手順は同じなんだなぁ、とか。
子供を収容するセンターがある。
未婚であっても仕事をもっていても、どんどん産んで、産んだ子をそのまま預けられる施設。
従来の家族として子供を育ててもいいし、産むだけ産んでセンターに届けるのもいい。
センター出産で休暇を取っていた女性が半月ほどで職場復帰すると、「おつかれさま、ありがとう」と、拍手で迎えられる。
センターで育てられた子は、人類の子として大切に育てられる。
森博嗣のWWシリーズでも、これに近い描写がある。
あちらは妊娠自体が希少という違いはあるが、出産をとても軽やかに捉えていることが共通点。
子供を産み育てる人生ではなかった私からみると、こんな選択肢があってもいいと思う。
自分や他人のからだに興味をもつようになる年頃の子が、わきあがってくる衝動や制御できない感情に出会ったならこれを読んでほしい。
恥ずかしいことかもしれないと思う変化を、はっきりと言語化して向き合わせてくれる。
村田沙耶香に徐々に侵食されていくのが、どうやら私は喜ばしく思っている。
素晴らしい短編集であった。