橘玲 『朝日ぎらい』
★★★☆☆
書名とは裏腹に、朝日新書から今年出版された橘玲の新書です(もっとも、そこにこそ本書の意義があると書いてありますが)。
日本の「リベラル」と世界基準のリベラリズムを比較することで、日本の思想的な問題点や特徴を洗い出しています。
橘玲の著書はどれも基本にあるのが「エビデンス・ベースド」です。主観と客観(事実と意見)をごっちゃにしない、統計的・科学的な根拠を示す、といったシンプルな姿勢が一貫しているので、どのようなテーマであっても非常に納得できます。
脳科学や行動経済学や進化論といった科学が発達した現代では、単なる知見が無効化しているところがあります。
たとえば、哲学や思想といった分野は、学問としてはともかく、実社会では居場所がなくなりつつあります。「人間」を考えるときに、上に挙げた分野を用いる方がより有効だからです。
実験や統計によるデータの裏づけがある主張の方が、より妥当性が高いのは当然でしょう。
加速度的に進んでいく社会情勢を俯瞰するには、どこかで状況をまとめる必要があります。そのためにはより正確な知見を採用するべきでしょう。もはやエビデンス・ベースドは必須条件なのです。
本書を読むと、ダブルスタンダード、非合理的で非効率なシステム、ガラパゴス化した要素など、現代日本社会が抱えている混沌がどうしてこうも蔓延っているのかがよくわかります。
たとえば、ネトウヨの問題を「日本人のアイデンティティ回復運動」というタームで説明するところは実にわかりやすかったですね。
ある集団の性質や時代の傾向などを捉えるには、本書のような科学的なアプローチをとるのが望ましいですね。単なる主観ではなく、事実に基づいた考察からしかリアルでクールな状況把握はできませんから。
本書のような「リベラル」な主張がもっと主流になってほしいと思うばかりです。