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ピアノじまい

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#実家じまい

突如現れたもうひとやま(ピアノじまい⑫)

突如現れたもうひとやま(ピアノじまい⑫)

実家から戻った翌々日の朝。
夫のただならぬ雰囲気に起こされた。
風邪のような症状と熱っぽさを感じた夫が、早朝から動き始めていた。
検査の結果、やはり陽性だった。
濃厚接触者となった私も、その日のうちに頭痛、翌日の夜に発熱、その翌日に陽性判定が出た。

家の中を隔離生活仕様に整えると、自宅療養がいつ終わるのかが気になり始めた。
もしかしてピアノの搬出日に間に合わないのでは…

誰も住んでいない実家で

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祭りの夜の報せ(ピアノじまい⑪)

祭りの夜の報せ(ピアノじまい⑪)

その晩は市内のホテルに一泊することにしていた。
浴衣を着た若者たちが行き交っているのを見て、その日が、馴染み深い街の神社のお祭りの日だったと気づいた。
母が亡くなる前の日も、同じように賑わう若者たちを眺めながら歩いたなと思い出しながら、弟家族との食事に向かった。

久しぶりに会う弟家族。変わらずみんな元気で良かった。
暫くした頃、弟に電話が入った。
音楽教室の方からだった。
見に来てくださったご家

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対面と試弾と空気感(ピアノじまい⑩)

私は実家の隣県に住んでいる。
実家に残したままの自分の荷物、父母の遺品、家族の写真などを引き取りに、今月中に一度実家を訪れなければいけなかった。
夫の予定とも合わせて決めたその日が、ピアノ引き取り希望の方が見に来られる日と重なり、そして母の命日とも重なり、なんとなく特別なものを感じていた。

荷物を積み込むため車で行く予定を立てていたのだが、当日、急遽夫が仕事で都合が悪くなったため、私は先に新幹線

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第2回目査定(ピアノじまい⑨)

第2回目査定(ピアノじまい⑨)

その日がやってきた。
約束の時間から30分が経った頃、弟から連絡があった。

「終わったよ。なんか思ってたより使えそうだったみたい。」

ああ、よかった!

音が出るか確かめて、内部も細かく確認。外側も磨けばきれいになりますね、とのこと。
フェルトを替えなきゃならないところがあり、随分昔に廃業してるピアノメーカーだったから、部品が調達できるか、その音楽教室の先生が良く知っている調律師さんに確認して

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しかし粛々と(ピアノじまい⑧)

しかし粛々と(ピアノじまい⑧)

お世話になっているピアニストさんにご紹介いただいた、音楽教室の先生。
先日電話で話した時には結構良い感触だったけれど、あれから少し時間が経ってしまったし、変わられてなければ良いなと思いながら、メールを送った。

ぜひ見させてくださいとのお返事。
前と同じ感触でほっとした。

電話で話しただけだったけれど、なんとなく、この方に見てもらって、やっぱり使うのは無理そうだと判断されたなら、きっぱりと気持ち

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第1回目査定(ピアノじまい⑦)

第1回目査定(ピアノじまい⑦)

日にちが決まり、いよいよ調律師さんに見てもらうこととなった。
実際、調律師さんに見ていただいたらどういう風に判断されるのだろうか。
長く放置してしまっていたピアノをちゃんとした人に見てもらうことに、少しの恥ずかしさと妙な緊張感があった。

当日、約束の時間から10分経った頃、弟からメッセージが入った。何か聞きたいことでもあったかなと見てみると、すぐ終わったよ、と。
こちらの緊張とは裏腹に、気が抜け

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