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太宰治『富嶽百景』読書感想
この本は、富士山の近くで過ごした日々の一部を切り取った小説です。
太宰治は『人間失格』など、自意識を前面に出した暗い思考を書いた作品が多いですが、どちらかというと明るい雰囲気の小説です。
浮世絵に描かれる富士や、他の山から見た鈍い富士の印象を書きながら、茶屋の娘さんや青年たちとの交流を描きつつ、話は進んでいきます。この小説は、太宰治がじっさいに山梨県に滞在していたときのことを元にして書いたと言われています。山梨にいたとき、太宰は二度目の縁談を控えており、その上向いた気持ちそのままに、明るく朗らかな小説になったのだと思います。
太宰ははじめの結婚のとき、浮気されるという苦い経験をしています。そのときのことなのか、この小説には「東京のアパートの窓から見る富士は、くるしい。…三年前の冬、私はある人から意外の事実を読み上げられ、途方にくれた」と悲しみ、一睡もせず酒を飲んだことが書かれています。
そして思いをあらたにする覚悟で、師匠とする作家の井伏鱒二がいる山梨へ旅に出てきたことが書かれ、山へ井伏氏と登ったり、地元の人と交流し、人の温かさに触れる太宰が描かれていきます。
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はじめは銭湯に描かれるような出来すぎた富士山をいやな目で見ていましたが、井伏氏から紹介された女性の家に飾ってある富士の睡蓮のような写真を見たり、部屋から富士を眺めたりするうち「富士もわるくない」という思いが強くなります。
知り合いになった青年と仲良くなり、その後泊まった宿で「富士が、よかった。月光を受けて、青く透きとおるようで、狐に化かされているような感じだった。」と富士の良い印象を描いています。ここで自然だけの描写があまり入らず「狐に化かされているような感じ」と自分のことを注視しているところに、小説に自意識を入れ込んでいく太宰らしさを感じました。
あるとき太宰が下宿していた茶屋の娘さんに起こされ外に出てみると、富士には雪が降り、山頂が白く輝いていました。そこで太宰は、月見草が富士にはよく似合うと思っていたため「来年また来て見る」のだと言い、月見草の種をとってきて、あたりにまきます。
月見草という花がどういう花なのか不明なため、調べてみたところ、7月上旬から8月下旬までが見ごろで、富士河口湖の夏を彩る代表的な花だそうです。
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こういった月見草などの風景を、心理描写と絡めて描かず、自分の心理は自分の心理として独立させ描いていくのも、太宰の特徴だと思います。一度結婚に失敗しているためか、実家からの援助はなかったものの、なんとか縁談はよい方向に向かい、寒くなった頃に太宰は山を下ります。
「朝に夕に、富士を見ながら、陰鬱な日々を送っていた」と書かれますが、富士山を見る目を通し、太宰の気持ちが明るくなっていくのが感じられる小説だと思いました。
今回はネットで無料で読める、青空文庫の作品を読んでみました。
また昨日図書館で本を借りたので、その作品のこともあとで書いてみたいとおもいます。
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