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息をするように本を読む23 〜新聞連載小説のススメ〜
新聞に、連載小説が掲載されているのをご存知の方はどのくらいおられるだろう。(え、知ってる? 失礼しました)
新聞によって違いはあるかもと思うが、だいたいは朝刊と夕刊に別々の作家の小説が毎日連載されている。
今は新聞を購読する人が減っているそうだ。
ネットを使えば新しい情報やニュースが手軽に手に入る時代、月に数千円払って、1日遅れのニュースなど別に必要ない、ということかもしれない。それもあり、だと思う。
ただ、私自身はテレビもネットのニュースもほとんど見ないので、情報源は新聞しかない。(あとは台所で終日ついているラジオ)
毎朝、ルーティンがひと段落すると、コーヒーを入れて朝刊を開く。
もちろん経済欄とか、難しくてわからないところもたくさんあるので、そこは流し読みである(見栄ははりません)。
真っ先に読むのは連載小説だ。
新聞の連載小説を読むようになったのは社会人になった頃だと思う。
それまでもあるのは知っていたが、あまり気に留めていなかった。
新聞に掲載されている小説はオジさんが読むものと、当時なぜか思い込んでいて、いつもはざっと眺めるだけだったのだ。
ある日、前の作家さんの連載が終了し、次からは連城三紀彦氏の小説が朝刊で連載されるという記事を見た。
連城三紀彦。
作品は読んだことはなかったが、気になっていた作家さんだった。
連城三紀彦氏は、その頃、恋愛小説で直木賞を受賞しておられたが、連載が始まった新聞小説はサスペンスだった。
タイトルは「飾り火」と言う。
後に単行本、文庫にもなり、ドラマ化もされた。
幸せな家庭で何不自由ない生活をしている中年の男が、旅先で出会った運命の女にどんどん人生を狂わされていくのだが、その展開の早さと巧みさに夢中になり、毎朝、朝刊を開くのが待ち切れなかった。
新聞小説。いいじゃないか。
3分くらいで読めてしまう、忙しい朝にもちょうどいい長さだし、続きが気になるから早起きするモチベーションにもなる。
すっかり新聞小説のファンになり、毎朝、そして、どうせならということで夕刊の小説も合わせて、毎日読むようになった。
それ以来、購読誌が全国誌から地方誌に代わってからも、ずっと読んでいる。
ちょっと調べてみたのだが、新聞小説の歴史は古い。
日本で新聞小説が最初に登場したのは、明治の初めの頃だそうだ。
新聞の創成期、庶民向けの小新聞に社会ネタ記事を脚色して挿絵入りで連載したのが人気を博したのに始まり、次は知識人向けの大新聞が政治小説や翻訳小説を載せ始めた。
やがて、新聞が広く読まれるようになると、万人受けするように、通俗小説とか家庭小説とか呼ばれる大衆向けの小説が載るようになったらしい。
当時、新聞小説を書いていたのは、夏目漱石、幸田露伴、森鴎外、島崎藤村、谷崎潤一郎、等等。
日本史の教科書で必ず見る名前がずらりと並ぶ。
その後も、吉川英治、松本清張、山﨑豊子、宮尾登美子、など、そうそうたる大御所が新聞に小説を連載している。
私が新聞小説を読むようになってから私が読んだだけでも、安部龍太郎、西村京太郎、内田康夫、重松清、石田衣良、湊かなえ、伊集院静…とても数えきれない。
新聞小説は一回の掲載で、だいたい1000文字前後。
その枠内で毎回、見せ場を作り、続きが読みたくなるように引きも作り、しかも全体としてまとまりを持たせなければならない。
独特の工夫がされているのだ。
連載が終了すると、大体の場合、単行本で刊行される。その際はまた、単行本に合うように加筆されたり削られたり、改編が行われるらしい。
新聞小説の醍醐味は何と言っても、まだ本になっていない小説をただで(新聞代は払っているけど)読めること、毎日少しずつ読む楽しみがあること、単行本には無い挿絵がついていること、だと思う。
それから、今まで自分から手に取ったことのない作家さんに出会えることも。
現在、私が読んでいる新聞小説は、朝刊は宮部みゆきさんの「三島屋変調百物語 よって件のごとし」、夕刊は薬丸岳さんの「罪の境界」だ。
どちらも佳境に入りつつあり、毎日読むのをとても楽しみにしている。
新聞小説、ずっと続いて欲しいと思う。
本を読むことは私には特別のことではない。生活の一部であり、呼吸することと同じことだ。
他の数多くの情報媒体に押されつつも新聞が発行されていること、毎朝毎夕、新聞を我が家のポストに配達して下さる方々がいることに深く感謝する。
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#新聞配達の皆さん 、ありがとうございます