自由気ままに暮らしていたあの頃を懐かしむ【わたしの読書道③〜20代・モラトリアム期 〜】
『Web本の雑誌』で連載されている連載『作家の読書道』に影響を受けて、自分の読書遍歴をざっくりとまとめてみたくなりました。
今回は20代に読んだ本について。
思えば20代は、福岡ー東京ー福岡ー東京と住む場所も仕事も目まぐるしく変化し続けた時期でした。好きなことしかやってなかったな。今振り返ると、ですけど。
わたしがスマホを持ち始めたのは30代に入ってから。
もし20代でスマホを持っていて気ままな一人暮らしをしていたら、
きっとほとんど本を読むことはなかったでしょう。
当時はお金もなかったので、もっぱら図書館や古本屋を利用していました。
それも良き想い出です。
『タイコたたきの夢』(ライナー・チムニク 著)
人に薦められた本よりも自分の直感で選んだ本の方が心に残りやすいタイプですが、『タイコたたきの夢』だけは友人の薦めで買って心底よかったと思った本。装丁の素晴らしさといい、大人の寓話としての完成度といい、本当は誰にも教えたくないくらい素敵な本です。
『11分間』(パウロ・コエーリョ 著)
パウロ・コエーリョはもちろん『アルケミスト』から。わたしは断然『ベロニカは死ぬことにした』『ピエドラ川のほとりで私は泣いた』、そしてこの『11分間』が好き。はじめて精神の深い部分が刺激される感覚を味わいました。
『朗読者』(ベルンハルト・シュリンク 著)
地味な印象だけど、当時とても話題になっていたので試しに買って読んでみたら、自分でも驚くくらい泣いてしまいました。時代や社会情勢に翻弄されながらも何とか生き抜いてきた中年女性と青臭い青年の恋は、予想を遥かに超えた結末を迎えます。根底にある「罪」や「恥」の生臭さがリアルに感じられて、「あ、わたしこういうタイプのストーリーが好きなんだな」と気づかされました。新潮クレストブックスシリーズに注目するきっかけになった一冊です。
『ジャイアンツ・ハウス』(エリザベス・マクラッケン 著)
『朗読者』の流れで新潮クレストブックスを読み漁っていたときに出会いました。巨人症の少年と司書の女性が織りなす恋物語というなんとも不思議な設定ながら、少年の純粋さも司書ペギーの気難しさも、すべてが愛おしくてせつない。『吉野朔実は本が大好き』(※過去記事)でも紹介されていました。この本の素晴らしさを誰かと共有したかったので、見つけたときは嬉しさ爆発でした。
『姫君』(山田詠美 著)
20代で読んでもやっぱり面白かった山田詠美。なかでも『姫君』は(わたし的)最高傑作です。摩周ってなんであんなにかわいいの?
『吉祥寺幸荘物語』(花村萬月 著)
刺激強めの作品が多い花村萬月ですが、『吉祥寺幸荘物語』のように軽くてポップな作風もイケるんだな。しかもめちゃめちゃ面白い! この本を読んで吉祥寺に憧れ、実際に吉祥寺パルコブックセンターで働いたり、ギリ中央線沿線に住んだりしました。吉祥寺には良くも悪くも思い出がいっぱい詰まっているのです。そんなことを思い出しました。
『夜啼きの森』(岩井志麻子 著)
この本がきっかけで津山三十人殺しに興味がわき、今でもノンフィクションや関連書籍を追っかけては読むことが習慣づいています(『八つ墓村』はなぜか未読……)。『夜啼きの森』に漂うおぞましさや古い慣習がはびこる陰鬱な空気が、文章からビッシビシに伝わってきて、脳と心にべっとりとこびりついて離れない。そんな一冊です。
『ラジオ・キラー』(セバスチャン・フィツェック 著)
ドイツの人気作家セバスチャン・フィツェックの作品はどれも抜群に面白く、エンタメ要素だけでなく秀逸な表現力や発想力にいつも唸らされます。『治療島』『ラジオ・キラー』『前世療法』『サイコ・ブレイカー』までは訳が赤根洋子さんだったのですが、それ以降の作品は違う人が翻訳しているらしく、なんだかちょっと作風が変わったように感じられます。訳のせいかな? 赤根さんの訳って本当に読みやすくて好き。
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20代で読んで影響を受けた本というのは、自分の価値観がストレートに反映されていて、それは今でも変わらず持ち続けているものなのだと気づきました。40代になった今では、若いころのように激しく心が揺さぶられることもぐんと減りました。でもまたいつか、あのころのように本を読んでぐわっと心をつかまれることを期待しています。