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遠時代恋愛
『未来への別れ話』
俺は彼女に別れようと言った。
彼女は驚いた顔をした。「なんで?」と聞いた。
「2200年に行こうと思うんだ。だから…」
彼女は涙をこらえた。
「じゃあ、私も行く」と言った。
「君はダメだ。この時代に残って大学に行って先生になるのが夢なんだろ?」
彼女は首を振った。「…だったら遠時代恋愛で」
「いや、遠時代恋愛なんてきっとうまくいかない」
俺は知っていた。
時代が遠くなるほど恋愛はダメになる。そんなグラフを見たことがあった。
少しの沈黙が流れた。
「2200年にはいつ行くの?」彼女は寂しそうに聞いた。
「あさっての朝9時のタイムマシンで」と俺は言った。
「そんなに早く?」彼女の声は大きくなった。
「ごめん、2200年行きの便はあさっての朝9時にしかないんだ」
「…176年後に行けばいいじゃない?」
それはただの時の経過だ。それにそんな生きていれるわけはない。
しかし俺はそれを口にできなかった。言ったところで彼女が怒るだけだから。俺は何も言わなかった。
「なんで2200年行きたいの?」彼女は聞いた。
俺はそれには正直に答えた。
「この世代に閉じこもってちゃダメだと思うんだ。俺は時代に出たい。自分がどこまでできるのか知りたいんだ」と言った。
「でもなんで2200年なの?もっと近場の2025年とかじゃダメなの?」
「それじゃダメなんだ」
「なんで?2025年だったら私はまだいるはず」
「福引は2200年行きなんだ」
「福引の景品なの?私より福引の景品の方が大事なの?」
俺は勢いで福引のことを言ってしまった。
「そういうことじゃないんだ」慌てて弁解しようしたがもう遅かった。
「もういい!最低!2021年に帰らせていただきます」
彼女は怒って立ち上がった。
彼は彼女の手を掴もうとしたが、間に合わなかった。
「待ってくれ」と俺は言った。
しかし彼女には届かなかった。
彼女は最後に言葉を残した。
「あなたとラブラブだったあの時代へ帰る」
彼女は泣いているように見えた。
俺は自分の愚かさに気づいた。
俺は彼女を失って初めて、彼女の大切さをわかった。
出発当日の朝9時ちょっと前。
タイムマシン改札口横、銀河の窓口。
俺は2200年のチケットを2021年行きに変えられるか聞いた。
彼女にもう一度会いたかった。
俺は彼女に言いたかった。
「君が俺の未来だ」と。
2月3日17時半~ APOCシアターにて
一人舞台「十人百色」
配信もあります。
よろしくお願いいたします。