絵本 de 朔太郎『見しらぬ犬』
作画:茜町春彦
原作:萩原朔太郎
この見もしらぬ犬が私のあとをついてくる、
みすぼらしい、後足でびっこをひいている不具の犬のかげだ.
ああ、わたしはどこへ行くのか知らない、
わたしのゆく道路の方角では、
長屋の屋根がべらべらと風にふかれている、
道ばたの陰気な空地では、
ひからびた草の葉っぱがしなしなとほそくうごいて居る.
ああ、わたしはどこへ行くのか知らない、
おおきな、いきもののような月が、ぼんやりと行手に浮んでいる、
そうして背後のさびしい往来では、
犬のほそながい尻尾の先が地べたの上をひきづって居る.
ああ、どこまでも、どこまでも、
この見もしらぬ犬が私のあとをついてくる、
きたならしい地べたを這いまわって、
わたしの背後で後足をひきずっている病気の犬だ.
とおく、ながく、かなしげにおびえながら、
さびしい空の月に向って遠白く吠えるふしあわせの犬のかげだ.
〈了〉
参考文献:萩原朔太郎詩集(2014年1月15日79刷発行 三好達治選 岩波文庫)
使用画材:ArtRage 3 Studio Pro(アンビエント社)Photoshop Elements 10(アドビシステムズ株式会社)
初出:パブー(2015年7月4日) パブー投稿作品を修正して移植しました.