最高。以上。『シャーロック・ホームズ対伊藤博文』
最高の歴史ミステリに出会ってしまいました。
……いや、そもそもそんなに歴史ミステリ読まないので、これは言い過ぎかもしれません。とにかく先日、タイトル(のみ)に惹かれて手に取ったミステリが最高に面白かったのです。それがこちら。『シャーロック・ホームズ対伊藤博文』です。
この作品、タイトルがタイトルだけに、ふざけてるのかと思いきや、かなり重厚なミステリ作品でした。内容としては幼少期のシャーロック・ホームズと、イギリスに密入国していた維新志士時代の伊藤博文がロンドンで一度出会っていて、数十年後モリアーティ教授と最後の対決を終えたホームズがその縁を頼って日本にやってくる……といったもの。
個人的にこの小説には2つの見所があると思います。1つはホームズシリーズの外伝的な読み方。
原作シリーズでホームズは、モリアーティ教授との対決で一度死んだと思われ、3年間消息を断った後に再び姿を表します。
この3年間のホームズの行動は原作では詳しく触れられておらず、チベットに行ったらしいなど、断片的なことが語られているのみです。また、シリーズ初期にみられた麻薬を、後期のホームズは使用をしなくなるなどの変化も指摘されています。
『シャーロック・ホームズ対伊藤博文』はモリアーティ教授との対決からワトソンとの再会までのホームズ物語の3年間の空白に「伊藤博文に会いに日本に行っていた」というとんでもないパズルのピースをはめ込みつつ、ちゃんと矛盾なくその後の物語に接続させています(自分はシャーロキアンではないので細かい矛盾はあるのかもしれませんが)。つまり、こんなタイトルでしっかり原作を補完するIFの物語となっているのです。
もう1つの見所は、歴史小説としての面白さです。この小説のメインの舞台は日清戦争のさなか、日露戦争勃発以前の日本です。つまり、欧米からはアジアの野蛮な国と思われ、不平等条約を押し付けられつつも、その知識・技術を吸収し、死にものぐるいで国力を付けようとしている時代です。この作品では、そんな歴史的状況をとても巧みにストーリーや登場人物の心情に取り入れています。
アジアを野蛮な後進国扱いしながら武力を背景に野蛮そのもののアジア支配を行うイギリス。そんなイギリス人であるホームズの自意識。かつて「攘夷」を叫んで外国人を殺害していた伊藤博文が法の支配する近代国家を目指す矛盾。かつての伊藤の「攘夷」を野蛮な行為だと嫌悪するものの自分も「正義」のために法を破ってモリアーティを殺害してしまっているホームズの矛盾。などなど。
また、この作品では当時実際に起こった「大津事件」が重要な意味を持ってくるのですが、そちらも実際の歴史に沿って矛盾がないようにストーリーが組み上げられています。あまり詳しくない人は「大津事件」「ニコライ2世」「日露戦争」あたりのWikipediaをざっと読んでおくと、より内容が楽しめるのではないかと思います。
以上、久しぶりにオススメ本の紹介でした。とにかく面白いのでぜひ読んでみてください。それでは、また。