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職人が語る「『庵治石』が選ばれてきた理由」

「庵治石」はキズが多いことで有名です。歩留りが悪く、丁場で採れる石の中でお墓さんになる割合は数%とも言われています。挽いてから見つかるキズや、磨いてから見つかるキズもあり、やり直しが必要になることもしばしばで、他の石に比べると加工に手間がかかります。その分、どうしても値段も高くなるにも関わらず、変わらず選ばれてきた歴史があります。

それは、石が美しいことや庵治石のイメージで選んでくださる…ということもありますが、庵治産地の先輩職人に庵治石の良さについての話を聞くと、一番に挙げられるのは、庵治石の「風化に強い」「変化しにくい」という特徴です。先輩の職人は「古い『庵治石』のお墓さんを見ればすぐに分かる。」と口を揃えます。実際に古いお墓を見れば理解できると思いますが、彫ってある文字であったり、加工して作った形であったりが、とてもキレイに残っているのです。

この理由を、庵治石を加工する職人に伺うと、「『庵治石』は ”ねばい” から。」と答えてくださいます。この「ねばさ」は、加工している職人が加工しながら手で感じている感覚です。庵治産地の多くの職人が「『庵治石』は "角が決まる"』」と表現しています。この「角が決まる」というのは細かい加工の時も欠けずにしっかりと角が加工ができるということです。この特徴は、他の石にはないもの…と産地の職人は口を揃えます。

風化に強い理由は、「庵治石」独特の "ねばさ"にある?

では、なぜ「庵治石」は風化に強いのでしょうか?石屋になってから、いろんな方にこのことを質問してきましたが、先輩職人からは「古いお墓を見れば分かる。」という答えが返ってくるばかりでした。実際に、歴史のある屋島神社や建てられている古いお墓を見ると、角が立っていて、形がしっかりと残っていました。そうなんだからそう…そのとおりで当たり前の話ですが、「なぜ風化に強いのか?」ということに答えられずにしばらく悶々としていました。

それから、いろんな方に徹底的に質問を送り続けて、ある花崗岩の専門家の方から教えていただいたのが「靱性(じんせい)」という言葉でした。「靱性」とは、つまり「ねばさ」のこと。この「靱性」という言葉を教わって、やっと風化に強い理由が説明できるようになりました。

「靱性(ねばさ)」は、「硬度」と「吸水率」を超える?

石屋になってから、石の特徴を調べていたら、石を説明するときによく使われる尺度が「硬度」と「吸水率」です。「硬度」は石の硬さを数値で表したもの。そして、「吸水率」はどれくらい水を吸うかを数値で表したものです。先輩のみなさんにこのことを伺ったところ、「硬度」は、やはり硬ければ硬い石の方が丈夫だということ、そして「吸水率」は水をたくさん吸うより水を吸わない方が劣化しないということでした。しかしながら、「靱性」という考え方から見ると、ちょっと違ったことが見えてきます。この2つの尺度を別の視点から見てみたいと思います。

「硬度」が高いと石は丈夫なの?

まず1つ目の「硬度」について、もう少し深く考えていきたいと思います。「硬度」が最も高い鉱物は「ダイヤモンド」です。つまり、石の中で最も丈夫なのが「ダイヤモンド」か…?というと、実はそうではありません。

これは「宝石」を扱うみなさんの中ではよく知られていることですが、「ダイヤモンド」は「硬度」が最も高い鉱石でとても硬いのですが、落ちるとすぐに割れてしまいます。「劈開(へきかい)」と言って、一定方向の力に弱い…という特徴があるからです。実は「硬度」というのは、石の丈夫さを表すものではなく、2つの鉱物を擦り合わせて、どちらに傷がつくか…という実験の結果で決まっています。つまり、「硬度」は、キズに対する強さを表しているものになります。

そして、「硬度」を説明するときに「ダイヤモンド」と対比されるのが「ヒスイ」です。「ヒスイ」は、硬度はそれほど高くないのですが、ハンマーで叩いても割れないそうです。これは、「靱性(じんせい)」、つまり「ねばさ」が高いということです。「硬度」がキズに対する強さである一方、「靱性」は割れや欠けに対する強さ…と言われていて、宝石は、使う用途やシチュエーションによって、選ぶものを考えることが必要になり、「硬度」だけでなく「靱性」についても考慮に入れることが勧められています。おそらく、お墓さんを選ぶときもキズに対する強さである「硬度」だけで考えるのではなく、割れや欠けへの強さである石の「靱性」つまり「ねばさ」についても考慮に入れることが大切になる…ということです。

水を吸うと「風化」が速くなるのか?

もう1つの「吸水率」について考える前に、まずは「風化」について少し整理したいと思います。「風化」は大きく「科学的風化」と「機械的風化」の2つに分けられます。この2つの風化は単独では進行しないことが指摘されています。つまり、この2つのうちの1つだけではなく、両方が絡み合って進行していくということです。

ここでは、この2つのうちの「機械的風化」に注目して考えたいと思います。「機械的風化」の主な要因は2つあり、1つが「温度変化による膨張」、もう1つが「凍結による膨張」です。1つ目の「温度変化による膨張」とは、温度が変わることで石自体が膨張・収縮をすることで岩石の組織が壊れ、崩壊していくということです。もう1つの「凍結による膨張」とは、水は凍る体積が大きくなるので、吸収したり、隙間に入った水が凍結したりすることによって、石の組織が壊れ崩壊していくということです。つまり、吸水率が低ければ「機械的風化」のリスクが低く、吸水率が高ければ「機械的風化」のリスクは高くなります。

「機械的風化」と「靱性」の関係を考える!

ここで、先ほどの、石の「靱性」についてもう一度考えてみてください。「靱性」が高ければ、膨張や収縮があったとしてもゴムのように伸び縮みすることで、「機械的風化」には強くなるでしょう。逆に「靱性」が低ければ、ほんの少しの膨張や収縮でも欠けたり、割れたりしてしまうことがあるはずで「機械的風化」に弱くなる…ということになるでしょう。

おそらく、職人が口を揃える庵治石独特の「ねばさ」が、「風化に強い」「変化しにくい」というところに影響しているのではないか?と考えています。専門家に伺うと「靱性」については、要素が複雑で数値化することが難しい…ということでした。なので、今、説明したことが絶対に正しいということでもないし、これが全てではありません。しかしながら、長い歴史が「庵治石」の良さを証明してくれているのは事実です。

よかったら、ぜひ庵治産地に遊びにきていただいて、実際に「庵治石」を見ていただいて、肌で感じていただければ…と思います。

庵治石細目「松原等石材店」三代目 森重裕二


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