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『おいしいかつお節をください』

少し前回から間が空いてしまいましたが、ようやく一つお伝えしたいことがまとまりましたので、書いていきます。

この記事を書く理由について、先にお断りしておきますね。

コロナ禍に陥り、強制的に時間が生まれた料理人さんが、出汁の見直しを計られる機会が増えたためか、ここ半年ほど弊社への新規のお問い合わせが非常に増えております。
お問い合わせをいただいたお客様は、お知り合いの料理人さんにご紹介をいただいた方や、新聞やFacebook、Twitter、Instagram、そしてこのnoteをご覧になられて、興味を持たれてという方も少なくありません。
しかし、いくら出汁を変えようとお考えであっても、そもそもの知識がない方にはお話をさせていただいてもなかなかご理解いただけず、まず弊社のかつお節のことをご説明するだけでも、1時間2時間と時間がかかることも少なくありません。

正直、私は営業職の他に製造や事務も幅広く行っておりますので、時間がかかりすぎると、締め切りが決まっている仕事ができなくなってしまう事もあります。時間を改めて折り返しお電話御差し上げることもありますが、しかしそれでは毎回同じように時間がかかりすぎてしまうのです。

ですので、大変失礼かと存じますが、「まずはかつお節のことについてこちらを読んでいただいて、その上でご質問いただけたら非常に助かります!」という思いから、書かせていただきます。

何卒、ご理解のほどよろしくお願いいたします。

2021.04 小杉湯となり

1. その質問にはこたえられません。

最初に、多くの方、それも料理人さんも一般の方も問わずに、最も多く質問される言葉について書きます。
それが今回のタイトルです。

一番おいしいかつお節をください

はい、なぜこれが困る質問なのでしょうか。
八百屋さん、魚屋さん、果物屋さんなど、色んなお店に行くと、一番美味しいのちょうだい!というと、お店の方が「じゃあこれだね!」と、選んでくれます。
でもそれは、「何を基準にした美味しい」なのか、考えられたことはありますでしょうか。

一例として、トマトを買うとしましょう。
現代のトマトはミニトマトからミディトマト、小玉、中玉、大玉、品種も様々で、生食用や加熱向き、デザートタイプなど色々あります。
あなたはミートソースを作るのに酸味と甘みがバランスよく、加熱すると味も濃くて肉厚な食べごたえのある「おいしいトマト」が欲しいとします。
ところが、お店の方に「おいしいトマトください」とだけ言った場合、それを聞かれた方が「おいしい」と思っているトマトが、皮が薄くてゼリー質が多く、柔らかい甘みの強いデザートタイプだった場合、そこでは食い違いが起こってしまうのです。

これは「答えた方にとってのおいしいトマト」でありますので、間違っていません。
でも、ミートソースを作るのに向いたトマトが欲しいと思っているあなたにとっては、些か納得のいかないものになるかもしれません。

こういった食い違いを生まないために、聞く側も
「今夜はミートソースにしたいから、酸味と甘みがしっかりしていて味も濃くて実も肉厚なものが欲しいんです、それに合ったトマトはありますか?」
という質問をすると、答える側も
「じゃあこのサンマルツァーノやレッドマジックはいかが?」
という具体的なオススメができるんです。

かつお節もただ「おいしいかつお節をください。」と言われましても、「うちでは美味しいかつお節しか扱っていないので、全部です。」と、うっかり答えかねません(いえ、そんなことは冗談でしか言いませんが…)

「おいしい」の基準は、何を基準にしているのか、具体的にどんなものが欲しいのか、それをご自身の中である程度探っておかれないと、「私が考えるおいしいかつお節」を出しても、それが「あなたの欲しいかつお節」かどうかはわかりません。

↓このたくさん並ぶかつお節の中にも、いろいろな味のものがあります。

節の日干

2. あなたの悩みは何ですか?

とはいっても、料理人さんの『おいしいかつお節』というのはとても難しいものです。

お椀でもっと香りの良いものを
煮物の素材を引き立てられるものを
冷たくして出しても、臭みのないものを
うま味が濃いものを
などなど…

皆さんのご要望はあるかと思いますが、家庭料理よりももっとそのストライクゾーンは狭くなりますし、人によって方向性が変わります。

大阪の真昆布主体の出汁を引かれている方がいう「香りの良い」と
東京のかつお節主体の出汁を引かれている方がいう「香りの良い」は
全く方向性が違います。
方向性が違えば、おススメするかつお節は変わってきますし、仕立て方も変わります。

なので、お伺いしたいことはたくさんありますが、一番聞きたいことは

あなたは何に悩んでいて、具体的に何をどうしたいですか?

ということです。
それをご自身の中に固めて、言葉にできるようにしてください。
言葉に表現できるほどきちんと向き合って考えられたら、たとえこちらが提案するかつお節が合わなかったとしても、それが何故なのか自分の中に落とし込めるので次に進みやすいのです。

漠然と、ふわんと、なんとなく違和感がある程度では、お話をしてお試しいただいても、軸や基準がないため定まるのにとても長い時間がかかります。
(これは今までの経験上からです。)

時間やかつお節を無駄に消費するよりも、ある程度きちんと目標をもって進まれる方がお互いにとって良いと思っております。

もちろん完全に言葉に出せるものばかりではありませんし、経験がなければそれ以上のものを知ることもできませんから、完璧にまとめることを要求しているものではありません。
ただ「自分にはこう感じているところがあって、これを減らせたらいいなと考えている」「ここがこうならないか」といった具体的な思いがあれば、そこに応えやすくはなります。

一番最初に、皆さんの中にある悩みを吐き出して、聞かせていただきたいのです。

それが皆さんの求める「おいしいかつお節」への一番の近道です。

カツオの刺身

3. あなたの出汁を飲ませてください。

実際にお店に伺い提案させていただくときに、一番大切にしていることは、お客様の、今実際に引かれているだしを飲ませていただく事です。

情報を丸ごと共有させていただき、私の判断する基準とします。

お客様の悩みの元を知り、そこからこういうものを求めているということがわかれば、その場でいくつか「候補」を上げることはできます。
しかしそれはあくまでも候補です。
味を見て、悩んでいる内容が見えて、そこからより深いお話がはじまるのです。

逆に言うと、本当に欲しいものはそのくらい知り、考えないと、出せないものです。

だから、私はこの一人一人へコーディネートをするときは、ものすごく時間をかけて考えます。
真剣勝負として向き合っています。(勝ち負けではありませんが…)

そのためにも、どうか皆さんもご協力をお願いいたします。

居酒屋てのしまの出汁巻き玉子

最後に

どんなに言っても、私が思う「おいしい」と別の方が思う「おいしい」は違っているのが当たり前で、どんなに選別を重ねても仕立てを変えても、うちのかつお節がその人にとってベストとは限りません。

うちの思うかつお節の出汁味は、雑味がなく、旨味の強いものを求めて作っています。
それはもしかしたら日本酒で言うところの【大吟醸】に近いものかもしれません。クリアで透き通った味。お米を3割くらいに磨いたもののような。

しかし、あえて磨きの少ない8割や9割のお米で作った純米酒の、幅広い味があるものがいい、という方もいらっしゃいます。私もお酒はこちらの方が好きです。
酸味も渋みもあっていい、それも持ち味だ、と。

おいしいの正解は私たちが持っているのではありません。
正解は皆さんの中に、ひとつづつあります。
その正解を探すお手伝いをしていくのが、私の役割です。

正解だと思う味を探すには、自分と向き合い、ご自身が何を求めているのか、何を目指してるのか、それを見定めることで拓けてきます。
出汁を探り、考えることが、その正解への一助になればと思います。

おいしい出汁、おいしいかつお節を探してみたくなった方は、いつでもお問い合わせください。
皆さんとお話しできることを、楽しみにしております。

文章に残して、後の世代に繋いでいきたいと思っています。 サポートいただけると、とても励みになります。 よろしくお願いします。