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小説の書き方|心に響く7つの秘訣

✍️生きた証を、文字に刻む✍️

小説を読む中で、私たちは自分自身の物語を見つめ直す機会を得る。愛、正義、平和、孤独……テーマを通して、さまざまな人生の物語が私たちに影響を与える。

『汝、星のごとく』と『エヴァーグリーン・ゲーム』という小説に出会ったとき、その衝撃に圧倒された。人生の複雑さや葛藤を描いたこれらの作品は、私の心を揺さぶり、自分の境遇について考えるきっかけとなったのである。

前回の記事では、二つの作品を比較しながら、人生の描き方の違いについて触れた。その結果を受けて、「共感を生む創作論」としてまとめたのが今回の記事である。

少しでも創作のヒントになれば幸いです。

【紀伊國屋書店 特装版】『汝、星のごとく』凪良ゆう
『エヴァーグリーン・ゲーム』石井仁蔵

✴︎はじめに

人生をテーマにした小説は、読者の心を掴み、記憶に残る作品となる可能性を秘めている。しかし、その執筆には独自の視点と技術が求められる。ここでは、人生小説を書くための重要な要素と技法について探ってみたいと思う。

✴︎普遍性と独自性の融合

小説の核となるのは、普遍的なテーマの設定だ。成長、挫折、愛、喪失、自己発見など、多くの人々が共感できるテーマを選ぶことが重要となる。しかし、それだけでは平凡な作品になってしまう恐れがある。ここで重要になるのが、独自性の追求だ。

例えば、『植物図鑑』(有川浩著)では、恋愛という普遍的なテーマ「植物オタク」という独特の要素を加えることで、新鮮な物語を生み出している。つまり、掛け算だ。この掛け算を少なくとも3つ意識することで独自性に結びつく。

『植物図鑑』の場合は、料理要素というも独自性の一つだ。ふきのとうの天ぷらなど、植物を使った料理の美味しそうな描写が作品に味わいをもたらしている。味だけに。

自身の経験や興味、専門知識を活かし、ありふれたテーマに新しい切り口を掛け合わせてみてほしい。

✴︎魅力的なキャラクター創造

小説の成功は、登場人物の魅力に大きく左右される。そのため、主人公を含む登場人物たちに、多面的な性格を与えることが重要である。完璧な人物ではなく、欠点や弱点を持つリアルな人間を描くことで、キャラクターへの親近感や愛着に繋がる。

人間とは二面性を持つものだ。Aという強みの裏にはA'という弱みが存在する。完璧な人物として描かれるだけでは、近寄りがたいだけになってしまう。読者との適切な距離感を考えた人物造形が必要となる。

キャラクターの設定に関わる要素として、下記の項目を考慮するとよいだろう。

・外見や性格
・生い立ちや背景
・価値観や信念
・人間関係
・特技や趣味
・欠点や弱点

これらの要素を考慮することは、立体的で魅力的なキャラクターを生み出す必要条件となる。魅力的なキャラクターがいるか、いないかで読み手の反応はまるで違うものになってくる。

また、キャラクターの設定は物語に大きく関与するため、書き始める前にできるだけ詳細を決めておくと、書き進めていく中でキャラクターや物語がブレずに済む。

例えば、本屋大賞に輝いた『成瀬は天下を取りに行く』の主人公、成瀬あかりは、2024年の魅力的なキャラクターの象徴と言えるだろう。

滋賀県大津市出身の中高生である成瀬は、戦国武将のような独特の口調で話す「変わった子」として描かれている。彼女は自分の興味のままに行動し、全力でチャレンジすることをモットーとしており、M-1出場やけん玉チャンピオンなど、さまざまな活動に取り組む。その一方で、成瀬の突飛な行動は友人の島崎を含め、周囲を困惑させることもある。

一見すると型破りで変わった人物に見える成瀬だが、その行動の根底にある純粋さや、失敗を恐れずに挑戦する姿勢が読者の心を掴んでいると考えられる。

✴︎時間の流れと人生の転機

小説では、時間の経過とその影響を巧みに表現することも重要である。短期間の出来事に焦点を当てるか、長い年月を描くかを決め、それに合わせた構成を考える必要がある。構成を考える際には登場人物の人生グラフを描いてみることもおすすめだ。例えば、横軸に時間、縦軸に感情の起伏などを取ると良い。縦軸の設定は自由度が高く、物語によって工夫するべきポイントの一つである。

物語に深みと説得力を与えるためには、人生の転機となる重要な瞬間を効果的に作ることが大切である。主人公が大きな決断を迫られる場面や、予期せぬ出来事に直面する瞬間などを丁寧に描写することで、時間による強調効果を生み出す。

技術的には、「説明」「会話」「描写」という3つの要素を適切に使い分けると、時間の流れを表現するのに効果的だ。「説明」は時間を加速させ、「会話」は等速で時間を進め、「描写」は時間を引き延ばす役割を果たす。これらを巧みに組み合わせることで、メリハリのある時間の流れを表現していく。

✴︎内省と成長の描写

映画やドラマといった映像媒体と小説の大きな違いは、主人公の内面的な変化や成長を追体験できることにある。小説では主人公の心の動きや思考の変化を丁寧に描写することで、読者に深い洞察を与えることができるのである。

キャラクターの成長を描く際には、以下のプロセスを意識するとよいだろう。

1. 原因:主人公が持つ弱み、思い込み、トラウマなど
2. 困難:原因から生じる問題や挑戦
3. 解決:困難を乗り越え、成長する過程

このプロセスを通じて、主人公の葛藤や成長を描くことで物語にメリハリもたらす効果がある。

✴︎社会や時代背景の反映

人生は常に社会や時代の影響を受けている。これらの要素を巧みに織り込むことで、物語にリアリティ奥行きを与えられる。歴史的な出来事社会の変化が、主人公の人生にどのような影響を与えるかを描くことで、より立体的な物語を構築できるのだ。

例えば、フィッツジェラルドの『グレート・ギャツビー』は、1920年代のアメリカ社会を鮮やかに描き出している。禁酒法時代の華やかさと退廃、急速な経済成長がもたらした価値観の変化など、時代の空気感が主人公ギャツビーの人生と密接に結びついていると言える。

✴︎人生の複雑さの表現

人生は単純な直線ではない。成功と失敗、喜びと悲しみが交錯する複雑な旅路なのである。この複雑さを表現することで、より現実味のある物語になり得る。主人公が思わぬ挫折を経験したり、予期せぬ幸運に恵まれたりする場面を描くことで、人生の予測不可能性と多様性を表現していくことが可能なのだ。

例えば、『汝、星のごとく』は人生の複雑さを巧みに描いた作品と言える。主人公の暁海あきみの人生は、高校時代の純粋な恋愛から始まり、予期せぬ挫折幸運を経験する。漫画家として成功した元恋人・かいとの対比、島での自立の苦労、意外な人物からの支援など、様々な要素が絡み合う人生を描く。32歳までの軌跡を通じて、成功と挫折、出会いと別れ、多くの人の支えと励ましが描かれ、人生の予測不可能性と多様性が表現されている。このような緻密な構成により、『汝、星のごとく』は多くの読者の心を掴んだ物語となっているのだと思う。

✴︎読者への問いかけ

最後に、読者自身の人生について考えさせるような問いかけや示唆を含めることで、物語の余韻を長く残すことができる。直接的な問いかけではなく、主人公の経験や選択を通じて、読者に自身の人生を振り返る機会を提供することが効果的だ。

✴︎まとめ

人生をテーマにした小説を書くことは挑戦的ですが非常にやりがいがあります。普遍的なテーマに独自の視点を加え、魅力的なキャラクターを創造しましょう。人生の転機を工夫することも重要です。

また、成長の過程や社会背景、人生の複雑さを丁寧に表現することで説得力が増します。特に、読者自身の人生について考えさせる問いかけがあると、読者の心に響く作品になるでしょう。

これらの要素を意識しつつ自身の経験や観察を織り交ぜてください。この記事が魅力的な小説を書くきっかけになれたら嬉しいです。

✴︎小説『エヴァーグリーン・ゲーム』の感想はこちら👇

✴︎おすすめ本

◆『SAVE THE CATの法則 本当に売れる脚本術』ブレイク・スナイダー
物書きとしては手元に置いておきたい古典的な名著。書き手の心理、細かな注意点などが詳細に語られる。初めて小説や脚本を書く方におすすめしたい1冊。

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