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かなりイッちゃったアブナイ部屋 『ポニイテイル』★19★

「ひぃぃぃ!」

マカムラはかすれた叫び声とともに、しっぽをテーブルの上に投げ出す。

「冗談、冗談。おもちゃよ。あなたが脅すからいけないんでしょ」

「ぷはぁあ! ほ、本当に冗談ですか?」

「もう、ダメだからね。何かこまったときは、相手を脅すんじゃなくて、状況を話して相談しなくちゃ。わかった?」

マカムラは小さく首を縦に振った。

「何がわかった?」

「お、おどさない」

「こまったときは?」

「相談します」

「そう。それなら、はい。こっちが本当の、2人への誕生日プレゼント」

「!」

「な、なに?」

「G5があどちゃんのブース、J1がマカムラくん」

「え?」

黒い名刺サイズのブースカードが2枚、2人の手に渡された。

「エントランスとブースの共通カードだからなくさないでね」

「ど、どういうこと?」

「小学生の利用者、第2号と第3号」

「う、ウチら、この図書館使っていいの?」

「正確には図書館じゃない。ティフォージュ城」

レエはちょっと思い出し笑い気味に言った。

「ふうちゃんね、今朝張り切って学校に行ったよ。1番の友だちと1番好きな子に、そのカードをプレゼントするんだって。なのに置いてっちゃった。プレゼント第1弾の、徹夜クッキーでいっぱいいっぱいだったのね。しかもそれをあどちゃんが……ふふふ」

「1番の友だちと1番好きな子?」

ハムスターが耳をひくひくさせた。

黒唇が「あ」の形に開き、紅い舌がちらりと顔をのぞかせた。

「まあとにかく、それはあたしとふうちゃんから、2人への誕生日プレゼント。受け取ってくれるかな?」

「ダメですって。オレ、お金払えませんよ、50万円なんて。5千円でもムリです」

レエは首をかしげる。

「え? 50万円? 何それ」

「さっき言ってた、月額利用料……」

「50万円は冗談」

レエは笑った。

「ココ、会員制じゃないんですか?」

「会員制は本当。あたしが選んだ人だけが入れる。ただ固定料金みたいなものは存在しない。ここはね、利用者の善意でなりたってるの。出せる範囲で寄付して頂いてる。50万どころじゃない額を毎月さまざまな形で払い続けてくれる人がたくさんいる」

レエは2人をそれぞれまっすぐ見つめた。

「入口の差し込み口は、よーく見ないとムリだから。慣れている人もすぐには見つけられない。明日から好きな時に、自由に使っていいから。じゃあまず、マカムラくんのJ1ブースを案内するね。まだセッティング済んでないからちらっとだけだけど」

「え?」

「ちょ、ちょっと待って下さい!」

管理人室を出て、レエが歩き始めると、行く先々で暗い廊下に自動で明かりがつき、後方は次々消えていく。

「これが幹エレベータ。このビルの背骨にあたる。Gは上から4番目、J1は一番上のフロアにある」

高速のエレベータは、1階から10階までは10秒もかからずたどり着いた。J1ブースへ続く通路にある、宇宙船内のような自動扉は、左右に開くのではなく、斜め方向にシュイーーンと音を立ててスライドした。しかも無駄に3枚連続で扉があった。

シュイーーン、シュイーーン、シュイーーーン!

「うおおお! コレはヤバい。テンションあがる!映画かよ!」

ブースは3メートル×6メートルの長方形のフロアで、壁と天井には全面、宇宙空間が表示されていた。銀の革貼りのシートが中央にあり、宇宙船の運転室のように、そのシートをコの字に取り囲んでモニタやらボタンがたくさんある。アンドロイドロボが3体置いてあったが、まだ命が吹き込まれていないのか、動かない。ロボの小犬もいたが、これもまだ動かない。

「お気に召さなければ、シートも机も変えられるけど」

「ダメ! これでいいです!」

マカムラは銀色のシートに頬ずりをする。

「では、お楽しみは明日以降ということで」

「な、なんだコレ、夢か。気持ち悪っ!」

「次はウチの部屋ね!」

「それが……ごめん、あどちゃんのブースには手が回んなくて。あたしも料理しないからクッキー手伝うの苦戦しちゃって……」

「えーッ!」

「というより、ふうちゃんと話して、どんな部屋が好きなのかわかんないから、聞きながら作った方がいいってことになってさ」

「なんだ、超がっかり」

「明日の放課後までに作っておくから。どんな部屋がいい?」

「それはもう、絵本だらけの部屋がいいです!」

「絵本だらけ?」

「絵本が、部屋中に山積みになってる部屋」

「花園、ここの本は電子書籍だぞ。紙の本なんてないだろ」

「あ、そっか」

「そこは大丈夫。絵本については紙の本じゃなきゃね。今さ、書庫にある世界中の絵本が喜んだはず。やっと出番が来たって!」

「わー! かなりイッちゃったアブナイ部屋でお願いします!」


ポニイテイル★20★へつづく

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ポニイのテイル★19★

塾の子に受けさせた模擬テストの国語に、芭蕉と去来のやりとりをとりあげた宮脇真彦さんの文章がありました。そこで宮脇さんはこのように言っています。引用します。

作品がいったん生まれてしまえば、作者の手を離れて、さまざまな解釈を許容しうる存在となる、といえばまさしくそのとおりなのだが、しかし、作者去来がそれを受け入れるというところには、言葉が作りなす詩の世界を前提にしなくては理解し得ないものがある。はからずも並び得た言葉は、その言葉の続き柄にふさわしい世界を創出する。その世界を前に、作者の意図など実は大した問題ではないのだ。というよりも、一句が作られた時、作者はその句の最初の読者として関わるのであって、その意味で言えば、去来の読みを妨げていたのは、むしろ去来自身の最初の意図(句が読まれる以前の創作意図)にほかならないと言ってもいい。(中略)詩にとって明らかにすべきは、作者の意図ではない。作品の言葉が、いかなる響き合いをもって並び得ているのか。その響き合いに耳を傾けることこそ、句の魅力を解き明かす方法ではないのか。

自分はこんなつもりで書いたではなく、そこにある響き合いに耳を傾ける。最初の読者として。『手を離したあとの最初の読者』=著者に出来るのは、響き合いに呼応して、物語そのものを引き受けて生きる。去来は自分の作った句(岩鼻やここにもひとり月の客)について、芭蕉から切れ味良いアドバイスを受けた後こう反応します。

退いて考ふるに、自称の句となして見れば、狂者のさまも浮かみて、初めの句の趣向に勝れること十倍せり。まことに作者その心を知らざりけり。

なんだか二重の意味で面白いです。自称の句にすると狂者が浮かぶ――こう考えると作者が「自分の作品を見て! こんなにいいよ!」「ほめて!」「ここにも頑張ってる人間がいるよ!」とたとえばnoteで激しく語るのは(※リアル)狂者めいている(=おそらくそれが自然な在り様)。そしてもしそこから抜け出し、秀でた表現に高めたいのなら、自分自身が句の中で描かれている狂者そのものでありながら(※激しく語るメンタリティを今まで通り持ちながら)、一方でそれを世に問い(芭蕉や酒堂と意見を交わし)、退いて考え続けながらも、足を止めずに旅を続ける。旅に死するまで。

幸か不幸か、子どもたちがこの表現に出会うのは、模擬テストなんですけどね。テストを受けた人で、ポニイテイル★17★のマカムラくんのように

「一瞬いきなりスッゲーわかった」

と思った中学生がいるのかな? 私は、ここしばらく連載を続けていたので、引用した宮脇さんの文章と去来の言葉を読んだとき、一瞬いきなりスッゲーわかった感覚がありました。もしこれを中学生のときに読んだらどかな? 半年前に読んだら? それはわからない。中学生でも表現すること、つくることと向き合っていたら、思いっきり響き合うかもしれない。そこには年齢というよりも、表現に対する自問自答度が関係すると思う。

文体が似てしまうのを避けるために、エッセイは読んでも、大好きな作家の小説を読まないで来た。もう大丈夫かもしれない。noteにあふれるたくさんの表現。そこで紹介されているさらなる表現。自分が生み出す表現。誰かの表現に呼応して表現し続ける。全力で影響を受け続ける。

その言葉の続き柄にふさわしい世界を創出したいと、入試直前の模擬テストを受けて力を得たのでした。

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今日もありがとうございました!

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