広報が身につけてよかった10個の編集者視点
広報の仕事をしていると、よく「編集」の仕事が舞い込んでくる。
学生時代からライターを経験し、数えきれないほど記事を書いてきたので、あがってきた原稿を読んで、言葉の誤用に気づいたり、読みやすい表現に言い換えたりすることはそこまで難しいことではない。
そうして、なんとなく編集という仕事を続けてきたのだが、最近わたしのやっていることは、「記事を少し読みやすくする」程度で、「コンテンツの価値をグンと高める」ような編集はできていないのではないかと思い始めた。
そんな時に、人気漫画『ドラゴン桜』や『宇宙兄弟』の担当編集者として知られる株式会社コルク代表の佐渡島さん、編集の力で企業の価値を伝える株式会社コルクラボギルド代表の頼母木さんから学べる「編集の学校」なるものが福岡で開催されることを知った。
ちょうど福岡に引っ越すことを決めたタイミングと重なり、これは…!と思い、昨年末に申し込んだ。
それから毎月第3金曜日は、「編集の学校」に行き、そのままみんなで飲み会に行くまでがセットになった。
講座は全4回。文章のみならず、企画や広報PR、ビジネスの全体像から対人関係に及ぶまで広義の”編集力”を学ぶことができた。
毎回「格言」が飛び出してきたけれど、その中でも印象に残り、早速仕事に活きている「編集者視点」を厳選してまとめたいと思う。
視点①いい企画とは、関係がずっと続くもの
いざ担当者になると、即効性があり、話題になる「打ち上げ花火」的な企画に目を向けがちだが、佐渡島さんいわく「いい企画とは、関係がずっと続くもの」。
クライアントと企画者、サービスとユーザー、ユーザー同士…。それらの関係性が続くこと=いい企画とは、これまでの仕事を思い返してみると、非常に説得力がある。
ステークホルダーとのいい関係性をデザインできているか。企画をする際には、真っ先に考えたい。
視点②いい企画とは、なめらかである
企画とは、特別なアイデアを生み出すことではない。特別だと感じる”なめらかな流れ”をつくること。
なめらかとは、統一された世界観、スムーズなコミュニケーションなど、その作品や企画に没入できるような導線設計のことを指す。
反対に、企画の中に一つでもひっかかりがあると、一気に冷めてしまうということはよくある。
人は違和感には気が付きやすいが、違和感のない状態を意図的に生み出すことはたやすいことではない。でもそれが、企画の真髄なのだ。
▼「編集の学校」同期の方が書いた記事
視点③いい企画書には、"If"がない
いい企画書には、"If(もしも)"がない。この言葉も、企画書をよく書く身としては、ハッとさせられた。
「もし◯◯さんをキャスティングできたら」「もし◯◯という素敵な会場を押さえられたら」「もし◯◯万円まで予算が確保できたら」と、想像の範疇で"If"をふんだんに盛り込んで企画書を書いてしまうことは少なくない。
けれど、いい企画書とは、最大限"If"を排除したものだと佐渡島さんは言う。例えば、キャスティングや会場は裏どりを行い、見積もりを正確に出し、事前に予算交渉をする。
チャレンジングな"If"をひとつ盛り込む程度であればOK。それ以外は、もしもを封印して、実現の可能性を高めていくことがいい企画だと学んだ。
視点④企画の基本はプラスを探すのではなく、マイナスを無くすこと
企画において、トレンドや人気のタレント・コンテンツに便乗するのは、よくある手法である。
しかし、そういった既にプラスの状態のものは、一定の人気がある一方で、真新しさがない。ハッと驚くような発見を生み出すことは難しいのである。
そこで、今マイナスとされているモノ・ヒトに目を向ける。企画によって、マイナスに光を当てることで、新たな価値が生まれるのだ。
さらに、マイナスの状態にある人は、協力者を求めている。だからこそ、手を組み、一緒にチャレンジしていくことができる。
乗っかるのではなく、生み出す。このマインドも忘れたくないと思った。
視点⑤知を全体的に捉える
編集者視点は、インプットの面でも学びになった。
佐渡島さんは、月に5万円ほど本の購入に充てており、新しいジャンルの漫画・書籍を担当する際には専門書を5〜10冊まとめて購入するという。
片っ端から読まず、まずは「揃える」。そして、最初に「目次」「はじめに」「あとがき」に目を通す。
そうすることで、専門家の共通認識や解釈の差分が浮き彫りになり、知を全体的に捉えることができる。その上で、必要となる情報を読むことで、効率的に学びを深めることができる。
私は本1冊1冊をはじめから最後まで1ページも飛ばすことなく読みたいと思っていたが、それは下調べとしてはあまりに時間がかかるし、「体系的」に情報を得る方法としては適さない。
「揃えるだけでも情報」というのは、目から鱗の視点だった。
視点⑥文脈のスキマを埋めるための事前・事後取材
例えば、経営者へのインタビューの際に、相手が「最近バタバタしていて、寝れてないんです」と話したとする。
「会社が好調の時」か「会社が不調の時」で、意味合いが異なる発言だ。
事前取材ができていないと、思い込みで発言するか、曖昧な返答したりするしかないだろう。
そこで、事前に会社の最新情報やSNS、メールの温度感など、あらゆる情報にアンテナを張り、相手のことを知る努力が必要になる。
このように、事前取材が文脈を読み間違えないために必要だとすると、事後取材はインタビューで語られていない文脈を補うために欠かせない。追加でリサーチを行い、記事をよりわかりやすいものにする。
事前・事後取材の重要性も改めて学びになった。
視点⑦原稿は、読者のスピードで“雑”に記事を読む
編集者として記事と対峙すると、文章にミスがないかチェックするために隅から隅まで読み込んでしまう。
だが、最初に記事を読むときは、ザーッと流し読みをする方がいいらしい。
なぜなら、実際は隅々まで記事を読み込む読者は稀で、多くの読者は日々流れる情報の中で、ものの1分も経たないうちに記事を読み終えてしまうことがほとんどだからだ。
実際の読者のように流し読みをしても、伝えたいことが伝わるか。それを確認するために、新鮮な視点で記事を読む。
作り手になると意外と見落としがちな読者視点を取り戻すことができた。
視点⑧プロモーションではなく、巻き込み方
佐渡島さんは、プロモーションではなく「巻き込み方」という言い方を提唱する。
「一緒に売ってください」と言って協力してくれる人は、いないと言っても過言ではないが、自分が携わっていて、良いと思ったものを広めたい人はいるというのは、昨今のクラウドファンディングブームの中でも感じることである。
そのため佐渡島さんは、売る段階になって人にお願いするのではなく、作っている途中でどれだけの人を巻き込めるかが勝負だと語る。
あらゆるジャンルの作品・商品に活かせる視点だと感じた。
視点⑨広く巻き込むのではなく、一部に熱狂をつくる
最初から広い認知を取る必要はない。むしろ、「いい狭さ」を見つけることがコツだと言う。
まずは10人巻き込むことを考える。時間を使わずに人を巻き込むにはすごいアイデアが必要になるが、最初からコツコツ長くやることを前提にすれば、すごいアイデアがなくても勝ち筋が見えてくる。
小さく熱狂を作り、徐々に広げていく。これはチーム作りも一緒で、私自身も意識しているポイントなので非常に共感した。
視点⑩当たり前のことをどれだけ特別にするか
企画やPRにおいても、すごいアイデアは必須ではない。当たり前とされていることの中で、いかに工夫できるかが肝だと語る。
例えば佐渡島さんは書籍出版に際して行う献本で、送り先に対してそれぞれコメントを変えた帯を巻いて本を送付。すると、その帯を写真に取り、SNSにアップする人が続々と現れ、自然な口コミを生むことができたそう。
献本自体はよくあることでも、そこにひと手間かけることで結果が変わる。
当たり前のことを当たり前のまま終わらせず、特別な体験に昇華できるか常に考えたいと思った。
飲み会でも活きる編集者視点を携えて
初回講義は、飲み会の幹事の話から始まった。
え?と思ったが、飲み会の幹事にも編集者視点は活きる。
「目的」「誰と」「いつ」「お店」「メニュー」「予算」「連絡」「席順」「支払い」「2次会」「お土産」「アクセス」…。
実は、飲み会を構成する要素は、こんなにも多い。これらの要素をなめらかに繋ぎ合わせていくことは、まさに"編集"なのである。
ささいな日常でも、編集者視点は存分に活かされる。
編集の学校で学んだ、編集者のまなざしで仕事と日々の暮らしに向き合っていきたい。
編集の学校は、3期も予定しているとのことなので、「コルクラボギルド」の続報をお楽しみに。