日本建築学会 建築論・建築意匠小委員会による「建築論の問題群」

日本建築学会 建築論・建築意匠小委員会では建築論の活性化のために、2017年に「建築論のテ ーマ」に関するアンケートを実施し、その結果を基に研究会等を重ねてきました。 2021年からはラウンドテーブルと称する討論会を実施し、本noteではその時に獲得した視点を紹介します。

日本建築学会 建築論・建築意匠小委員会による「建築論の問題群」

日本建築学会 建築論・建築意匠小委員会では建築論の活性化のために、2017年に「建築論のテ ーマ」に関するアンケートを実施し、その結果を基に研究会等を重ねてきました。 2021年からはラウンドテーブルと称する討論会を実施し、本noteではその時に獲得した視点を紹介します。

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連続研究会報告/(レビュー)          第4回 形態言語を起点として

日時:2019年9月6日 場所:金沢工業大学23号館23・330室 パネラー:  坂牛卓:他律的な自律建築を目指して  香山壽夫:言語としての建築の衰退  北山恒:脱近代あるいは非都市     加藤耕一:アーキテクトニックな建築論 まとめ:奥山信一 主旨説明 田路貴浩(京都大学) モダニズムおよびポストモダニズムの建築の潮流の中で建築理論や批評が生み出されてきたが、21世紀以降、建築論の共通基盤が解体され、理論より実用が重視されている。そこで現代建築の課題を示すキーワード

    • 連続研究会報告/(レビュー)          第3回 自然

      日時:2019年6月15日 場所:京都大学吉田キャンパス百周年時計台記念館国際交流ホールⅢ パネラー:  入江正之:天空へのいざない、生長する樹木  能作文徳:人新世(Anthropocene) 建築の生態学的転回  杉山真魚:グリーン     田路貴浩:ピュシス まとめ:田路貴浩 基調講演 入江正之「天空へのいざない、生長する樹木」 ■イントロダクション スペイン・カタルーニャの近代建築勃興時に活躍したアントニ・ ガウディ(1852-1926)がどう自然を表現したか、建築

      • 建築論の問題群05〈日常/聖〉 建築家 磯崎新と「聖なるもの」(3)

        西村謙司(日本文理大学教授) 5.「聖デミウルゴス」が制作したもの  そのような宇宙はいかにしてつくられうるのか?  『ティマイオス』は、そのヒントとして、「宇宙は、(略)言論と思慮の働きによって把握され、同一を保つものに目を向けて制作された」(29a)という文章を与えている。宇宙の制作には、「言論と思慮の働き」が大切な要因として機能していることが確認できるが、その「言論」とは、建築作品に照らしてみると「建築論」にあたる。すなわち、デミウルゴスの ように制作を行う<建築家

        • 建築論の問題群05〈日常/聖〉 建築家 磯崎新と「聖なるもの」(2)

          西村謙司(日本文理大学教授) 3 .建築家 磯崎新と「聖なるもの」  2023年10月7日、大分市アートプラザで故磯崎新氏追悼式が行われた。アートプラザは、磯崎の初期作品で日本建築学会賞を受賞した旧大分県立中央図書館(1966年)を改装した複合文化施設である(1998年)。2022年に登録有形文化財に指定された。内部は、ペアウォールに挟まれた垂直空間に上から自然光が差し込み、カスケード状の床面と響き合 って奥行きのある内部空間を形成している。その最奥部に祭壇が設えられて追

          建築論の問題群05〈日常/聖〉 建築家 磯崎新と「聖なるもの」(1)

          西村謙司(日本文理大学教授) 1.建築と聖 2.「聖なるもの」とは何か 3.建築家 磯崎新と「聖なるもの」 4.「聖デミウルゴス」とは何ものか 5.「聖デミウルゴス」が制作したもの 1. 建築と聖  古来、<建築>は「聖なるもの」とともにあった。  エジプトやギリシャの神殿、イタリアやフランスのキリスト教教会堂、日中韓および東南アジアの仏教建築など、日本建築学会から出版されている『建築史図集』(彰国社)を見れば、近世以前の<建築>の多くが「聖なるもの」として建てられ

          建築論の問題群05〈日常/聖〉 建築家 磯崎新と「聖なるもの」(1)

          建築論の問題群04〈自然〉 建築にとって自然とは何か? その2-「四方域」のあな

          田路貴浩(京都大学大学院教授)  自然に外部はない。とはいえ、人間は自然の外部に立ちうると考える傲慢な習性を持っている。同時に、人間は自然から疎外されているという被害者意識にも取り憑かれてきた。  人間が自然の外部に立つことができると考えるには、それなりの理由がある。それは人間が記号能力を持ったことによる。言語や数学といった記号体系を獲得することによって、自然とは別の人間の世界がつくり上げられてきた。しかもそれは自然を写し取り、記述することができ、おまけに操作することさえ

          建築論の問題群04〈自然〉 建築にとって自然とは何か? その2-「四方域」のあな

          建築論の問題群04〈自然〉 建築にとって自然とは何か? その1-大宇宙という「善悪の彼岸」

          田路貴浩(京都大学大学院教授)  自然に外部はない。まずこれを命題としてみる。  人間は自然にあらがい、対抗し、操作し、自然には存在しない世界を創り出そうとしてきた。そうした営みが〈建築〉だと理解することもできる。しかし、はたして人間は自然の外部に飛び出すことができるのだろうか?人間は自然の一部ではないのか。自然の外部に飛び出すことができるという意識自体も、自然の内部でのことではないだろうか。  『西遊記』に登場する孫悟空のひとつのエピソードが思い出される。孫悟空は筋斗

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          建築論の問題群03〈建築の社会性〉 現代建築(における社会性?)の5原則

          小川次郎(日本工業大学 教授) 土佐谷勇太(建築家) 某月某日・都内某所の某設計事務所にて 【introduction】 〈所長〉いやーこの間のプロポ、またダメだったなー……。無念。 〈所員A〉これで去年から足かけ6連敗ですか。さすがにメゲますね。 〈所長〉提出した直後は「控えめに言って最高傑作だな。この案を越えるものはまず無かろう。」くらいの勢いなのに、1次審査に引っ掛からないこともしばしば……。 〈所員A〉応募要項からテーマを読み込んで、審査員の傾向を読み込ん

          建築論の問題群03〈建築の社会性〉 現代建築(における社会性?)の5原則

          建築論の問題群03〈建築の社会性〉 「モノ」と「コト」の往還に見出す建築論の〈社会性〉

          香月 歩(東京工業大学 助教) 建築論・建築意匠小委員会では、2019年3月に〈社会性〉をテーマとしたシンポジウム、および2022年12月に同テーマのラウンドテーブルを実施した。ここではこれらの研究会における議論を承けて考えたことを述べてみたい。 建築の社会性、その射程  各研究会の詳細はレポートを参照いただければと思うが、そこでの論点は、建築家の創造的活動(クリエイティビティ)は社会といかに関係しうるか、ということだったと思う。「社会性」という言葉の意味を辞書でみると、

          建築論の問題群03〈建築の社会性〉 「モノ」と「コト」の往還に見出す建築論の〈社会性〉

          建築論の問題群03〈建築の社会性〉  建築と建築家、そしてタイポロジー

          奥山信一(東京工業大学 教授)  建築学分野で一般的に社会性とはどのような内容で議論されているのであろうか。たとえば日本建築学会の地球環境委員会のHPでは、「建築物の社会性」を、建築が個人の所有対象にとどまらず、社会の財産としての性格を有するとし、安全かつ健康で快適であること、資源を浪費せず持続可能性が高いこと、周囲の環境及び社会インフラと適合していること、人々が大切にしたいと思う魅力を有すること、などが要求項目として列記されている。つまり、ここでの建築の社会性とは、原則と

          建築論の問題群03〈建築の社会性〉  建築と建築家、そしてタイポロジー

          連続研究会報告/(レビュー)            第1回 自律概念と他律概念の整理

          日時:2018年11月4日 場所:東京理科大神楽坂キャンパス1号館3階132教室 パネラー:  坂牛卓:建築の自律性/他律性について  市原出:形と空間の問題  櫻木直美:かたちを生み出すロジックの拡張 まとめ:藤原学  坂牛報告は、建築の自律性と他律性およびそれにまつわる概念の歴史的展開を踏まえ、現在の建築家の課題を浮き彫りにした。  すなわち、自律性は近代美学を基礎として展開し、建築にもそれは移入されてきたという歴史がある。そしてモダニズムはこの自律性を標榜しながら生成

          連続研究会報告/(レビュー)            第1回 自律概念と他律概念の整理

          連続研究会報告/(レビュー)          第2回 建築デザインにおける社会性を巡って

          日時:2019年3月9日 14:30-18:00 会場:法政大学市谷田町校舎5階マルチメディアホール パネラ−:  坂本一成「建築としての住宅における社会性」  妹島和世「建築の地域性と社会性−実作を通して」  ヨコミゾマコト 「文化的地域遺伝子と建築」  青井哲人「能動、受動、中動:通路とその外」 まとめ:奥山信一 司会進行:下吹越武人 担当委員:奥山信一、下吹越武人、宮部浩幸 今回のシンポジウムは、建築論の問題群を探るべく企画された一連の研究会の第2回目にあたるもので、

          連続研究会報告/(レビュー)          第2回 建築デザインにおける社会性を巡って

          建築論の問題群02 〈建築の自律と他律〉  つくる只中で発見する

          能作文徳(能作文徳建築設計事務所・東京都立大学)   2回目のラウンドテーブルのテーマは「建築の自律性と他律性」である。坂牛卓氏のレクチャーを受けて、考えたことを簡単に述べてみたい。まず「自律性と他律性」を目的論的な問いと方法論的な問いに分けて考えてみた。目的論的な問いとは「なぜ自律性を問題にするのか」であり、方法論的な問いとは「なぜ自律と他律に分けるのか」である。  最初の問い、なぜ自律性に着目するのか。それは現代の建築があまりにも社会的政治的存在になっているからだと考

          建築論の問題群02 〈建築の自律と他律〉  つくる只中で発見する

          建築論の問題群02 〈建築の自律性と他律性〉                流れ、その見えざる規則―坂牛卓氏の設計論「〈物〉/〈間〉/〈流れ〉」によせて―

          片桐悠自(東京都市大学) 本稿は、建築学会建築論・意匠小委員会での「建築論の問題群」第3回ラウンドテーブル(2022年5月15日、東京理科大学神楽坂キャンパス)における坂牛卓氏のレクチャーを承けて、過去の建築における理論的作品とともに、氏の建築論を読解するものである。レクチャーの内容については、同氏による前稿(日本語版、英語版[English version])を参照されたい。  坂牛氏はこれまで〈物〉と〈間〉が建築の設計における二つの基本的な構成要素であると論じ、それらに

          建築論の問題群02 〈建築の自律性と他律性〉                流れ、その見えざる規則―坂牛卓氏の設計論「〈物〉/〈間〉/〈流れ〉」によせて―

          建築論の問題群02 〈建築の自律性と他律性〉                 Finding a middle ground between architectural autonomy and heteronomy

          Taku Sakaushi (Architect / Professor of Tokyo University of Science) Introduction At the starting point of modern thinking of architecture lies the issue of architectural autonomy, that’s what I think. Some people say my idea is outdated.

          建築論の問題群02 〈建築の自律性と他律性〉                 Finding a middle ground between architectural autonomy and heteronomy

          建築論の問題群02 〈建築の自律性と他律性〉               建築の自律性と他律性の中庸を見据える

          坂牛卓(東京理科大学教授、O.F.D.A.) はじめに  建築の現代的思考をスタートする出発点に、僕は建築の自律性問題があると思っている。そういうことを言うと時代遅れだと言う人もいるようだ。確かに自律性問題はエミール・カウフマンがルドゥーを分析するあたりから近代建築の背骨のような属性として据えられた概念でありその根は相当古い。それゆえこの概念は批判を浴びて世紀末には建築の舞台から消えかかっていたのである。しかし今世紀に入ってから哲学的にその再考が始まり、生き返りつつあるよ

          建築論の問題群02 〈建築の自律性と他律性〉               建築の自律性と他律性の中庸を見据える