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すこしだけおかしいことは、言葉にするのが難しい【『地球星人』感想】

『地球星人』村田沙耶香 著

おもしろかった!と言っていいのかわからない。けれど、続きが気になって寝る間も惜しんで読み耽ってしまった。最近読んだ中で一番早く読了した。というかそもそも、小説を読み切ること自体、大人になってからは数冊しかない気がする。

読むことになったきっかけは、この本がどこかで話題になっているのを見かけたこと。多分一番有名である同著作の『コンビニ人間』もずっと読んでみたいなと思っていた。だけど、先にこっちを読んだ。話題になっているからと、内容は全く知らずに読み始めたので、まさかこんな話だと思わずに衝撃を受けた。

最初はどこにでもあるような幼少期の話から始まった。嫌な家だなあくらいに思っていた。ある事件から急激に話が展開していく。先生気持ち悪すぎる。

犯罪は本当にいけないことだけど、私は自分の手で復讐し終わらせることができたシーンでスカッとした。これが泣き寝入りだったらもっと嫌な気持ちになっていたと思う。というか、先に犯罪を犯されているのだ。だからやっていい!とは、もちろんならないのは言うまでもないけど。

村田さんのこのインタビューの一部

小学生の時に読んで衝撃を受けたのは、ジュール・ルナールの『にんじん』だ。「母親なら子供を愛しているものだから、何があってもハッピーエンドみたいな、安易な児童文学は嫌いでした。だから、『にんじん』は最後まで絶望的ということにすごく救われました。この作者の方が自分より闇を抱えている。その闇を嘘(うそ)なく書いている。大人の事情からはるかに遠いものを信じて生きている大人が本の向こう側にいる感じがして、小説家を初めて身近に感じました」

何があってもハッピーエンドは嫌い、最後まで絶望的ということにすごく救われた、この部分が本当に共感できて。こういう部分の感性が似ている部分があるから、書かれた小説を読んでもおもしろいんだろうなと思った。

わたしも、映画でハッピーエンドだとがっかりしてしまうことが多かった。なんだ、結局うまくまとまるのか。今までのいろいろも、この結末を引き立たせるための茶番だったんだ、と。かなり捻くれているとは自覚しつつ…。

でもね、現実はそううまくはいかないから。悪いことがあったらいいことがあるわけでもなく、何となく大丈夫になったり、大丈夫なふりをして進んでいかなくてはならないだけ。

だから、バッドエンド、もしくは特別なことは起きずに日常が続きます系が好き。特に、今よりも落ち込んでいた時は、同じくらい落ち込んでいる人の書いた短い文章とかしか読めなかった。ひどい落ち込みには励ましや慰めではなく、同じくらいの暗さ、絶望しか救いにならない。救いというより、命を繋ぐ感じかな。なんとか、大丈夫、同じくらい落ち込んでいる人もいる、1人じゃないと思えることが大事なんだ。

それこそ、急に身近なひとにそんな暗い話はできないから。せめて、匿名だったり物語の中には共感を求めたくなる。同情して欲しいわけでも、慰めてほしいわけでもなく。ただ、感じていることを感じたまま、否定せずにそこにある状態としておきたいだけ。

途中までは、うんうんわかるわかるとなりながら読んでいたんだけど、夫はいきすぎているなと感じた。そこまで“洗脳”されてしまえばむしろ楽だろうなとも思う。そういうことは日常でもよくある。だから私は奈月に1番共感できるかな。

あとは奈月には由宇がいて羨ましい。解決することはなくても、1人でも理解者、心の拠り所があると違うよなと思った。

最後の方はいよいよ非現実みをおびてきて、ラストシーンは恐ろしかった。とことん我が道を極め続けられるのはいいなあとも思ってしまうけど。

本当におもしろい作品だったので、書いている人物のことが気になって、早速エッセイも買った。まだ最初の方しか読んでいないけれど、その感じではかなり一般的な感性だと思う。

コンビニ人間も絶対に読みたい。

ポハピピンポボピア!

気にいった箇所を、引用でメモにとっていたんだけど、多すぎて最後の方は制限がきてとっておけなかった。なので、できた分だけを共有する。

「私は家ではほとんど肯定されたことがないので、褒め言葉に飢えている。たとえヒステリックな先生の気まぐれでも、褒めてもらえると胸の中が熱くなって、なぜか泣きそうになった。」

地球星人

「マイナスにならないように、ゼロでいるのがわたしにできる精いっぱいだった。」

地球星人

「心のスイッチが切れているから、私は何も感じない。息を止めて、時間が過ぎるのを待っている。自分を殻にとじこめて土の中のタイムカプセルのようにじっと堪え、命をかろうじて未来へと運んでいる。」

地球星人

「私はいつまで生き延びればいいのだろう。いつか、生き延びなくても生きていられるようになるのだろうか。」

地球星人

「大人は自分が生きるので精いっぱいだから、子供なんか助けてくれないよ。」

地球星人

「静ちゃんは変わったし、変わらない。大人になったけれど、今も世界を信じ続けている。「女」として優等生であり続ける静ちゃんがまぶしく、また大変で苦しそうでもあった。」

地球星人

「役所に婚姻届を出すと、両親も姉も不気味なくらい喜んだ。夫も私も友人が多いほうではなく、私も親戚にはあまり会いたくないという事情から、式はあげなかった。記念写真だけでもと姉がしつこく勧めたが、それも断った。  夫には兄がいるが、兄弟の関係もあまりよくなさそうだった。そういうところも自分と家庭環境が似ていて、気楽だった。」

地球星人

「子供のころ、漠然と想像していたように自然に「工場」の一部になることはなく、私たちはまさに親戚や友人、近所に住む人間の目をすり抜けていた。  皆、「工場」を信じ、「工場」に洗脳され、従っている。身体の中の臓器を工場のために使い、工場のために労働している。  夫と私は、「ちゃんと洗脳してもらえなかった人」たちだった。洗脳されそびれた人は、「工場」から排除されないように演じ続けるしかない。」

地球星人

「止めようとしたが、夫をこの世界に引き止める理由は特に思いつかなかった。  夫に好きなものや、やりたいことがあればいいのだが、そういうわけではない。それなのに夫も、そして私も生き延びている。」

地球星人

「何のために生き延びているのか、と問われれば、私にもよくわからなかった。」

地球星人

「使者に連れられた私たちは、工場へ引き戻され、夫は労働を、私は出産をするよう、さりげなく、しかし強制的に誘導されるだろう。そのことがどれほど素晴らしいか、皆は私たちに説き続けるだろう。  私はそのときを待っている。今度こそ、皆が完璧に私を洗脳してくれて、そして私の身体は工場の一部になるのだ。」

地球星人

「けれど、私にも、どうすることもできないのだった。「宇宙人の目」は、私にダウンロードされてしまった。その目から見える世界しか見ることができない。私だって、「工場」の一員になってしまったほうがずっと楽だとわかっていた。」

地球星人

「大人は異常を無視するのが仕事でしょう?  いつでもそうじゃない、なんで今だけ善人ぶるの?  由宇は『普通の大人』なんでしょう?  無視すればいいじゃない、『普通の大人』らしく」

地球星人

すり抜け・ドットコムがあったら、覗くだけしたいな。家から逃げる手段、大人なんだからいくらでもあるはずなのに、そういう手段をとらない、とろうとしない、とれないのが病なんだろうな。あくまでも言いつけを守り、『地球星人』として擬態し続けようとする奈月はすごいし、悲しくもあった。

改めて読んで、大人に失望して、人生に絶望して、それでも生き続けてしまう人たちの物語なのだと思った。生まれたら、生きるしかないんだよね。そういう人たちの物語が書かれているのが嬉しいし、出会えてよかった。

奈月も、由宇も、奈月の夫も、世の中に世界に地球に絶望しつつも、生きることだけは諦めていないんだな。なんでなんだろう。なぜ、生きてしまうんだろう。それは生物としての宿命なんだろうか。そこは地球星人と宇宙人の共通点なのかな。

なにがあってもいきのびること。

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