農業とお金の話②身の丈に合った初期投資
「新規就農するにはお金がかかる」という、前回記事の続き。
農業研修でスマート農業の一端に触れた。
リモコン草刈り機
農薬散布用ドローン
気温や湿度、二酸化炭素濃度、土壌水分をセンサーで感知してハウス内の環境を自動制御するシステム
人工衛星が撮影した画像を基に収穫適期を感知できるアプリなど。
「欲しい」と思ってしまうものがいくらでも湧いてくる。
現状でそんな投資ができるだろうか。
無理、無理…
資金を潤沢に持つ企業や、高収益を得ている農家なら、話は違うだろうが。第一、そんな多額な投資、うちの社長(妻)が許してくれるはずがない。かといって、露地栽培を続けていても、労働時間だけ長く、収益が上がらない状態が続くだろう。
ハウスか露地か シミュレーション
前回も紹介した愛媛県のサイト「まるかじり~えひめ農林水産就業支援サイト~」。キュウリ栽培をハウスの促成栽培と、露地栽培で、シミュレーションしてみた。
ハウス栽培は「ハイリスク・ハイリターン」。露地栽培は「ローリスク・ローリターン」。どちらを選ぶか、ということになる。
「経営計画」は農業経営にも必須
農機具の購入、ビニールハウスの建設などへの「投資」によって、どれだけの収益が見込めるのか、何年で回収できるか。そして、再投資、規模拡大の計画は…。農業でも「経営計画」が重要となる。それは一般的な会社経営と同じこと。研修や先進農家の話を聞いて、ひしひしと感じる。
収益の「柱」を決める
少量多品種で、産直販売。現状のスタイルでは、手間がかかる割に、売り上げ「年間100万円の壁」が超えられない、と感じてきた。やはり、収益の「柱」が必要だ。
公益財団法人えひめ農林漁業振興機構(えひめ機構)が出している「農業START BOOK-新規就農の手引-」がある。
そこに、愛媛県の有名ブランド柑橘「紅まどんな(愛媛果試28号)」の一般的な初期投資額が示されている。
収益に関しては、先の「まるかじり~えひめ農林水産就業支援サイト~」でシミュレーションしてみた。
この結果を、自分の条件に当てはめてみる。面積は当面、10aだから、所得、費用ともに半分。倉庫、軽トラックは既に持っているので、差し引く。散水設備が必要なのでコストに上積み。ハウスは簡易ではなく、通常のハウスにする予定なので、こちらも増額。11月下旬から12月に収穫できるこの品種は、気候的にも合っている。ということで、「柱」はこの品種に決めた。
栽培技術がなければ「絵に描いた餅」
ただ、この数字、前提となるのは、「商品」を質・量ともに生産できること。いくら投資をしても、栽培技術が伴っていなければ、収益は上がらない。シミュレーションは「絵に描いた餅」になってしまう。
市農業指導センターで1年間、研修を受けた。来春からは苗木を植えて、栽培スタート。教わったことをちゃんと覚えているか。少し心もとない。講師だった先生から「いつでも電話しておいで。指導に行くよ」と言ってもらえた。なんとも、心強い。
苗木の育成期間は約4年。その間、サブの収益の柱も探さなければ、と思っている。その一つがトマト。同時進行で設備投資してしまうと、首も手も回らなくなるだろう、と、最初はスモールスタートすることに。6坪のハウスをDIYし、試験栽培を通じて、技術力を高めようと考える。
ハウス建設は収穫開始年に
もうひとつ、細かいことではあるが、柑橘類の場合、いつ、ハウスを建設するか。苗木がない所にハウスを建てた方が、建てやすい、と思っていた。先の講師の先生曰く「苗木が育ち、収穫できる年にハウスを作ればいい」と。
苗木を植え付ける前にハウスを建設すると、収穫できるようになるまでの4年間、収益がないまま、減価償却することになる。税務上、減価償却は、収入から差し引くことができて初めて意味がある。青色申告ならば、赤字を3年間繰り越せる制度もありはする。それでも、投資のタイミングは、収益が上がり始めるときに合わせるのが得策のようだ。
いま、どの段階にいるのか
えひめ機構の「農業START BOOK」の2ページ目に「就農までのみちすじ」というチャートがある。
「農業をやりたい」
↓
「学ぶ 農業についての学習・就農相談」
↓
「目標を立てる 自分の経営目標の明確化」
↓
「スキルアップ 技術の習得」
↓
「資金の活用」「施設・機械の確保」「農地の取得」
↓
「就農」
自分はいま、どこにいるのか、と考えてみる。「目標を立てる」「スキルアップ」あたりだろうか。頭の中に描いているこの「目標」を「経営5か年計画」として明文化しよう。その上で社長決裁を経て、いよいよ本格始動。
設備投資⇒収益アップ⇒再投資⇒規模拡大
という好循環が生み出せれば、経営は軌道に乗るだろう。逆に
過大投資⇒手が回らなくて品質・収量低下⇒想定以下の収入で赤字⇒再投資できない
という悪循環もあり得る。そうならないために、資金、労働力を考慮した「身の丈に合った農業」でスタートを切ろうと思う。好循環のスパイラルを経て、「第2期・経営5か年計画」には「スマート農業」を盛り込みたい、と夢見ながら。
(あぐりげんき)