アグニューさん

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最近の記事

本が出る話

「公募文学賞の話①~③」で書いてきたとおり、 『世尊寺殿の猫』という最新作が、 商業出版の形で世に出ることになった。 正直言って、出版に踏み切るべきか見送るべきか、散々迷った。 発売まで二週間を切った今は、 本も完成してしまったので、さすがにもう迷ってはいない。 それでも「本が出る!めでたい!!」という喜びと、 「取り返しのつかない決断をしてしまった…」という後悔、 両者の間をすごい勢いで行ったり来たりしている。 原因は、出版の利点と欠点が、均衡していることにある。

    • つれづれなる話

      『徒然草』第215段が、大好きだ。 最明寺入道(北条時頼=引退した執権=偉い人)が、 夜、北条宣時を呼び出す。 慌てる宣時。 「すぐに行きます!」と答えたものの、 着ていけるようなぱりっとした服がない。 そうして困っていると、使いがまた来て、言う。 「直垂などの候はぬにや。夜なれば、異様なりとも、疾く」 言われたとおり、 アイロンのかかってないよれよれの直垂で 最明寺入道のもとにかけつける宣時。 すると最明寺入道は、お銚子とおちょこを持って登場し、 「一人で飲むのが

      • 歴史創作の話

        自分と同じように、創作をしているけれど まだプロではない人に、訊いてみたいことがある。 「ご自分の、作家としての強みって何だと思いますか?」 そんなこと自分で言うのは恥ずかしいとか おこがましいとか、そういう思いを捨てて、 ぜひぜひ教えてほしい。 創作なんて楽しいばっかりではない。 書き手としての自分を思いきり肯定してやらないと、 やってられないこともある。 そんな中、自分だけが自分を褒めていても虚しいので、 ほかの人にも、「自分の長所」を 思いきりアピールしてほし

        • 名前の話②

          足利直義が、好きである。 好きじゃなかったら、直義を主人公にして 原稿用紙550枚超の作品なんて、書かなかった。 で、好きなところはいろいろあるのだが、 そのなかの一つは、名前だと思う。 異様に良い名前じゃありません? 素直の直、廉直の直に、義ですよ。 ぴったりすぎません?? しかも読み方が、「なおよし」じゃなくて、 「ただよし」なのが最高。 「なお」いいんじゃなくて、「ただ」いい。 音がかっこいい。ただよし。 で、私は、「入間川」と『世尊寺殿の猫』という 直近

          公募文学賞の話③

          で、長編歴史ミステリー『世尊寺殿の猫』を書き上げ、 一通り改稿を終えたのが、2023年の、9月末。 このとき、「どの」文学賞に応募するか、本当に悩んだ。 主な候補はふたつ。 9月末が締め切りの「論創ミステリ大賞」と 10月末が締め切りの「松本清張賞」。 松本清張賞はエンタメ系文学賞の頂点みたいな賞なので あきらかに敷居が高いものの、 ・論創ミステリよりひと月締め切りが遅い分、  原稿にもう少し手を入れられる ・ミステリというより「ミステリ要素の強い作品」  ぐらいの位

          公募文学賞の話③

          公募文学賞の話②

          2021年に埼玉文学賞を受賞したあと、 書き手としての自分のステータスには、 何も変化が訪れなかった。 だから、この受賞の肩書きが薄れないうちに、 次の作品をできるだけ早く完成させようと思った。 それで2022年3月に書き始めたのが、『世尊寺殿の猫』。 執筆の動機は、ごく単純。 鎌倉末期を舞台にした小説を書きたかったものの、 いまひとつメジャーな時代ではない(※はずでした)。 だからまずは、登場人物に馴染んでもらえるような、 楽しいものを書くのが吉だ。 そのためには

          公募文学賞の話②

          公募文学賞の話①

          小説を書いて公募の賞に応募している人は、 少なくないと思う。 それぞれの人に、それぞれのゴールがあるはずだ。 絶対に賞を勝ち取りたい人、とにかく書き続けたい人、 自分の作品がどこまで通用するかを知りたい人、 プロの作家になりたい人、作品を皆に読んでほしい人。 私も、重度の飽き性とサボり症のため、 完成して公募までこぎつけた作品数は決して多くはないが、 20代のころから40代の今まで、細々と文学賞に応募してきた。 全戦歴は、こんな感じ↓ 振り返ってみると、ほぼ、オールオア

          公募文学賞の話①

          名前の話

          『世尊寺殿の猫』は、鎌倉末期を舞台とした 足利家をめぐるほのぼのホームドラマ()なのですが、 書くときに直面したのが、名前に関する問題です。 まず、主人公の足利高国くん十六歳。 彼は後世、足利尊氏の弟「足利直義」になる人です。 尊氏の方は、十八歳。当時は高氏という名前です。 「高国」という名に関する色々はまたいつか触れるとして、 作中に高氏・高国の幼いころの場面があって(ホームドラマなのでw)、 そこで必要なのが、幼名。どうする? この時代、生まれながらにしてかなり高貴

          あえかなる話

          歴史小説を書いていると、 「この言葉、使ってもいいかな」 という問いに、三行ごとぐらいに突き当たります。 そういうときは、みんなの味方、『日本国語大辞典』(小学館)。 詳細・的確な説明とふんだんな用例のおかげで、 調べたい言葉がいつからどのように用いられてきたか、 この辞書を使えばすぐにばっちりわかります。 (しかも私は海外在住で日本の図書館に行けないので、 ジャパンナレッジ様の個人用プランに課金しています。 『新編日本古典文学全集』も入ってて、これがないと生きていけな