「寺越になろう」レポート
私は朝がひどく弱い。
基本深夜まで仕事してるというのもあるだろう。
私の知り合いのライターも軒並み夜の方が捗るという。そのためライターは基本夜型になりがちな気がする。まぁ私の周りだけかもしれないが。
重たい頭を動かしスマホをみる。仕事の内容ばかりの中で寺越からLINEがきていたため、うっかり開いてしまった。
重たい頭が一層重くなった気がした。
文章の次にビジュアルが送られてきていた。
デザインは面白いが寺越ばかりは胸焼けしそうだ。
しかし相変わらず意味わからないやつだ。朝から寺越の情報は様々な意味で重い。夜にゴン(ゴン田中)と飯を食べるのでその時に話そうと思いスマホを閉じた。
「ケイさん!寺越になろういきましょうよ!」
お決まりの中華屋でレバニラを食べながらゴンは笑いながら喋っていた。
「寺越さんになるんすよね?相変わらず意味わからないっすけどビジュアルカッコいいっすね!これ誰が作ってるんですかね?寺越さんこんなん作れなそうだし(笑」
俳優兼デザイナーの吉田みずほさんが作っている事を伝えると
「吉田みずほさん!あ、あの人か!すげぇなぁ多才だよなぁ。僕のチラシも作ってくんないかなぁ。ケイさん〜なんだかんだいって気になってるでしょ?いきましょうよ、寺越になっちゃいましょうよ、僕ら二人で(笑」
気になってないと言えば嘘になる。ただその日は予定がよめないため返事は保留にしておいた。
イベント当日、意外にも早く仕事が片付き、少しだけ遅れる形で東中野に着いた。ゴンは意気揚々と時間通りにスタジオに着いたとの連絡があった。
スタジオの1階の扉を恐る恐る開ける。
そこには薄暗い照明の中、寺越含め何人かが歩き回っていた。
「中谷さん〜ありがとうございます〜さぁ寺越になりますか〜!」
寺越が声をかけてくるが気乗りはしない。そもそも私は別に寺越になりたくはない。
「ケイさん早く一緒に寺越になりましょうよ(笑」
笑顔のゴンが少し怖い。
ただ折角きたからには体験しなければと、足を踏み入れて周りと一緒に歩き始める。どうやら寺越の歩行を模倣するようだ。
「さぁどんどん寺越って下さいねぇ〜」
「どうっすか?寺越ははいってきましたか?」
「どんどん寺越いれて下さいねぇ」
ひたすら寺越が寺越を連呼しているのがおかしい。
周りの歩行がどんどん寺越に近づいていく。ゴンに至ってはもう寺越歩行を楽しんでしまっている。私はというと寺越の歩行をみつつ真似をしてみるもあまりうまくいかない。真似するというのは難しいものだ。
「寺越は腰いて〜」「寺越って上みてますね」などなど口走りながら周りの寺越化が加速していく。
「だいぶ寺越ってきましたね。じゃあ今度は呼吸っす。おれの呼吸を想像して歩行としっくりするところを探して下さい〜」
呼吸を想像だと!歩行としっくり?困惑してる私を他所に周りは悩みながら探っている。あのゴンさえも疑問もたず探っているようにみえる。困惑状態の私に気づいたのか寺越がよってきた。
「中谷さん、呼吸ですよ、呼吸。おれの呼吸がどうなんかなぁって予想してみて下さい。今の呼吸より深く?浅く?吸った方がいいのか。呼吸の速度を早くしたり遅くしたりしてみて中谷さんの寺越の歩行としっくりくるところ探してみて下さい。別に正解はないですから(笑)楽しんで寺越って下さい〜」
意味わからない。
でもとりあえずやってみるか…
寺越の歩行を模倣していてなんとなくこういう具合かな、というのを感じ始めた(あくまで私個人の中で)呼吸を試しに浅く吸ってみた、違う気がする。深く吸ったら少しだけしっくりきて速度も遅くなっていく。
寺越の歩行を模倣しながら、私とは違う寺越の呼吸を想像して行っていた。ふと壁一面にある鏡で自分の姿をみた時に全くみたことない自分がそこに映っていた。寺越はこうやって身体で自分とは違う人間を作り上げていくのかもしれない…あ、まずい…周りの景色がボヤけてきた。日頃の運動不足のせいだ。気分が悪くなってきた旨を寺越に伝えて、ここからは見学に。
他の人たちの寺越化は想像以上に進んでいた。私は周りを見渡せる余裕すらもなかったようだ。ゴンは意外と寺越として、いや、ゴン寺越として歩きまわっていた。
「寺越ってますね〜いいっすねぇ〜めちゃくちゃいいっす!じゃあここからは今までで寺越の着目したところをそれぞれデフォルメして独自の寺越でよろしくお願いします!」
独自の寺越?何なんだそれは?
どうやら困惑してるのは私だけらしい。周りの人達は考えながらどんどん独自の寺越になっていく。想像力を体現できるのは凄いことだと感じる。
この部屋中寺越だらけになった。
この雰囲気は「マルコビッチの穴」ではない。照明の暗さもありどこか儀式的なようにもみえる。
あ、「ミッドサマー」だ!
あの奇妙な儀式「ミッドサマー」感がある。
「いや〜いいですねぇ〜じゃあ寺越と寺越で即興やってみましょう」
無茶振りを面白がる寺越と苦戦している寺越たち。
うん?何が起こっているんだ?
頭を抱える寺越の一人が
「自我の発想を寺越で喋るのか?もしくは自我をできるだけ消して寺越の発想で喋るのか?」
ここまで入りこんでるのかと感嘆した。ただ前者はできそうだが後者はできるのか?
こんなに真剣に寺越になろうとしている人達が集っているのはますますミッドサマー感を加速させる。
「確かにそうっすね。これは難しい。じゃあおれが宮崎でやった舞のみにけ〜しょんを寺越全員でやりましょう」
寺越が舞のみにけ〜しょんの説明をして寺越全員で舞のみにけ〜しょんをやり始めた。異様な雰囲気が部屋中を包む。よく考えてみたらここに寺越じゃないのは私だけではないか。急激な疎外感が襲ってくる。舞のみにけ〜しょんで一心不乱に身体を動かす寺越たち。汗だくになりながら寺越している。少し羨ましい気持ちになってくるのは不思議なものだ。
「あ、ヤバい!ヤバい!時間!時間!」
時計をみるとスタジオ終了の21時になりそうだ。
寺越の急な声で寺越からいつもの自分たちへ戻っていく周りの人達。戻ってきたゴンが汗だくで私の近くによってきた。
「大丈夫ですか、ケイさん?寺越ってました、僕?不思議な体験でしたね。しかし寺越さんってあの姿勢首痛くなんねぇのかなぁ(笑)いや〜もう疲れたわ〜」
話しているゴンに寺越化の残り香を感じていると他の人たちが帰り支度しながら
「こんな真面目にやってるのは寺越じゃない気がする」「いや寺越は真面目だよ」など寺越論に花を咲かせていた。
ここまで真剣に寺越になろうとしていたなんて…
これをみたら笑ってしまった。
そういえば「ミッドサマー」も私は最終的には笑っていた気がする。
文 中谷計
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