「大島のボレロ」レポート
また寺越から連絡があり伊豆大島行きのフェリーにのっていた。断ろうと思っていたが仕事のパフォーマンスが上がらず何かを期待して、そして何より伊豆大島という場所に興味を覚えて気づいたら行き方を調べていた。私は何をやっているのだ。
急遽日程が空いたインタビュアーのゴン田中(通称ゴン)と共にいくことに。ゴンは世界一小さな芸術祭の時に寺越に一度インタビューしたことがあるらしく興味深げにこの話しにのってきた。こういう旅は一人もいいが二人の方が弾むものだ。フェリーの中でゴンと近況を話しながらも気づいたら世界一小さな芸術祭について話していた。
私は寺越に頼まれ世界一小さな芸術祭のレポートを書いたがこれといった反応もなく周りにこれを体験したものがいないため共有したかったのかもしれない。ゴンは「寺越さんは恐らく四畳半の風呂なしトイレ共同の小さな小さな空間に人と交流する事の大きな意義を表現したかったんだと思います」と言っていた。ゴンよ、それは考え過ぎだ。
盛り上がっているとあっという間に時間がたち、もう目と鼻の先に伊豆大島が見えてきた。
私は始めての伊豆大島に胸を高鳴らせデッキに出た。青々とした自然に囲まれた豊かな島が私達を迎えいれてくれているようだ。ゴンも興奮して島を見つめていた。徐々に近づいてくる島に匂いさえも届いてくるようだ。フェリーが港につき橋がかけられ私達はゆっくり降り立った。
時計をみたら11時半、本当はゆっくり島を見て回りたいところだが寺越のパフォーマンスの時間は14時で場所も港から随分離れている。夕方にはその日の最終便で帰らなければならない。私は少し残念な気持ちになっていたが、ゴンは目を輝かせて既にレンタカーを借りに行っていた、好奇心旺盛で羨ましい。
小腹が空いたのでとりあえず近くの喫茶店に入り注文する。ふと壁を見たら寺越のパフォーマンスのチラシが張ってあったので店長らしき人に聞いてみると、どうやら寺越達は近くに泊まっていてここに足繁く通っているらしい。ゴンは店長にいろいろ聞いていた。インタビュアーの血が騒ぐのだろうか。店長曰く前日はここを拠点にお客さんに片っ端から声をかけていたらしい、なんて協力的な店なんだ。ゴンが自分達はパフォーマンスを見るために来た事を店長に告げると驚きと困惑が混ざった顔をしていた。そりゃそうだ。
喫茶店を後にしてパフォーマンスの場所である野田浜に向かった。事前に調べた絶景の露天風呂や椿いっぱいの道路や緑豊かな山などを横目で捉えながら車は進んでいく。「どんなパフォーマンスやるんですかね」と少し興奮してるゴンがハンドルをきる。寺越のSNSを読んでいる限りでは伊豆大島在住の舞踏家青木健さんを中心に据えて「大島のボレロ」をやるとのこと、ただその肝心な青木健さんは忙しくて参加できないらしい。「多分野田浜でやるってところが一つの鍵だと思ってて海の中でやるんじゃないかと睨んでます」ゴンよ、それは無理だろう、流されてしまうぞ。
野田浜の看板と共に開けた駐車場に停めると何台か車が既に停まっていて人がまばらに集まっており、そこに寺越もいた。子供が寺越に抱きついている。外国の方もいる。私達もそこに向かう。
「お〜来てくれたんですね!ありがとうございます!嬉しい〜!!パフォーマンスはこの下でやるんですが時間までもう少々お待ち下さい」と寺越。下の浜の方を見下ろすと黒い服と白い服の二人がそれぞれ何かやっているがここからは何をしているかは分からない。うん?真ん中に何かある、何だあれは?
ゴンはもち前の社交性を十分に発揮し既に周りの人達と溶け込んでいろいろ話しこんでいた。私は周りをゆっくりみまわす。車から出てこない人もいる中で軽自動車の中に一際異彩を放っていた人物を発見。恐らくあれが青木健さんだろう。
「時間ですかねぇ〜全員きてるのかな?じゃあ始めますかぁ〜ついてきて下さい」寺越のあとにみながついていく。どんどん近くなっていく海。海の音が心地よい。海を背景にパフォーマンスするもんだと思っていたが目の前には山。勿体ない。
真ん中にあったのは流木を組み合わせたもの、そしてその近くに黒い服の女性(以後クロ)と周りをウロウロしている白い服の女性(以後シロ)がいた。
「来てくれてありがとうございます〇〇〇〇だから僕らは〇〇〇〇そんでパフォーマンスという形に〇〇〇〇」
寺越が皆を前にして喋り出すが海の音が大き過ぎてあまり聞き取れない。特にこの日は風が強く海が荒れていて生き物のような音を出している。置いてある流木や石に座ったり立ったままの人もいてそれぞれの見やすい方法をとり始める。ゴンを見たら砂の上に座って凝視している。私は少し離れて立つことにした。
寺越がスピーカーに手を触れたらそこからボレロの音が鳴り始めた。クロは流木に色を塗ったり装飾をしている。寺越は何か喋っているのか?シロはウロウロしたり時折とまっていたりと自由だ。
なんだこれは‥
進むにつれて寺越とクロは談笑したり、シロはコップらしきものをもってきて中から椿を出している。
なんなんだこれは‥
寺越が流木を中心に円を描きはじめ、シロも円を描いている。ひたすら流木を形づくっているクロ。
ボレロの音がどんどん加速していき、三人の動きも同時に躍動していく。荒々しい海の音さえもまるで呼応しているような。クロが流木を形作りきった段階でボレロの音が終わる。
うん?あれは人だ。
”その人”の座っている姿を通して私の位置からは見えたのであれは”その人”にしか見えない。
あれは青木健さんだ。
寺越が前に出てきていいですよ、という仕草をする。子供連れの家族達はどんどんいく。ゴンも前のめりに出ていく。
いつの間にかボレロがまた聞こえてきた。
私も気づいたら前に出ていた。どんどん前に出ていく。ふと気づくと寺越たちがいない。
後ろを振り返ると三人は思い思いの佇まいでコチラに背を向けて海辺のギリギリで海の向こうを見ていた。そしてボレロはとまっていた。
三人が前に出てきて挨拶をする。
海の音を突き破る声だった。
帰りの車中ゴンは興奮気味に
「宇宙人ですね、真ん中のは。あそこは宇宙だったんですよ。寺越さん達三人は宇宙を作っていたんですよ。」この男の想像は果てしない。ここまでくると羨ましくなる。
寺越との会話を思い出す。
「わかってくれたんすか!そうです、青木さんです。おれの中でボレロは波及だと思っていて青木さんから波及したものをおれらが更に見ている人達にも波及させていくというのが大島のボレロっす!」
なぜ青木健さんを形作りながらパフォーマンスを行うのかが私はわからなかったと言うと
「あの空間はおれらの伊豆大島での一週間なんですよ。やっぱりおれらの伊豆大島は青木さんなんですよ!青木さんと交流している時間が経てばたつほど青木さんのことがわかってくる。あくまでおれら視点の青木さんですけどね(笑)あとこの形でやると他の人達とのそれぞれの関係性も必然と出てくるので衝動を大切にしていった感じです」
最後の意図を聞くと
「おれらは伊豆大島から元の場所へ戻る。ここで得たものを抱えて、それを一枚絵でみたいにやりたかったんすよね。だから最後海辺に向かってみんなそれぞれ一つあるものを決めてもらって、持ってるんすよ。いい絵になってました?」
相変わらずよく分からない事をやるもんだと少し笑みがこぼれた。いつの間にかゴンがボレロを流していた。口ずさむゴン、私もつられて口ずさむ。私達にも波及したのだろうか。
文 中谷計
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