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「好き」って言葉は、居なくなってから言ってやるなよ。

 スマートフォンの画面に映るニュース速報で、とある著名人の突然の訃報を知る。
 Twitterを開けば、溢れるほどのお悔やみの言葉。思い出のエピソードを述べてみたり、感謝を述べたり。

「凄く好きだったのに」「悲しい」「ショック」
「なんで」「どうして」「ずっと大好き」

 そんな言葉の数々を目にするたびに思う。

 大好きって言葉は、しんでから言ってあげんなよって。
 生きてる時に、いつもいつでも言ってやれって。

 思ってしまう。



 私は、言わない、言えない。そう思ってた。

 例えば、彼のお芝居を好きだと感じたことが過去に何度もあっても、サブスクリプションのランダム再生から流れる彼女の歌をよく聴いていた時期があったとしても、

 いまの日常の中で、いつもいつでもその存在があったわけではないから。
 日常から、消えてなくなってしまったとしても、私は今日も明日も変わらずに生きるし、来週には、仕事の締め切りに追われて、すぐに思考の外へ行ってしまうくらいの——

「命」が何よりも大きな、かけがえのない存在だと思うのに、それは紛うことなき真実だと思うのに。

 簡単に忘れてしまう。
 ふとした時に思い出すけど、常々想っているわけじゃない。

 それなのに、一丁前に「悲しい」なんて「大好きだった」なんて、白々しくて言えない。そう思ってた。

 それが正しいとか間違いとか、そういうんじゃなくて。



 世界から自分の知る人が次々に居なくなっても、その度に私たちは1ミリたりとも変わらずに進んでいく。
 自身の日常をまた一歩、当然に生きる。

 でも、それでいい。
 ひとは生きていく為に忘れるんだから。

 忘れる瞬間があることに罪悪感を感じる必要なんて微塵もない。
 お腹が空いたり眠たくなったり、それと同じ生理現象。

 あなたは笑って生きていい。

 私は、笑って、生きていていい。



 世の中どうしようもないことの方が多かったりする。

 目の前の、自分の生活を守るだけで、精一杯。
 自分の命を無駄にしないよう、あーでもないこーでもないって、悩んだり喜んだりしながら、生きるだけで精一杯。
 自分の周りの大切なひとたちを、愛するだけで精一杯。

 でも「あなたが好き」というその言葉一つの積み重ねで、救えたものもあるかもしれないと、どうしたって思ってしまうなら。

 これからは、今よりもっと、伝えよう。
 心の内側にしまっておかずに、差し出そう。




 この情勢で、大好きだった思い出のライブハウスが幾つも閉店を余儀なくされた。

「どうして」
「助けてって言ってよ」
「そしたら何かできたかもしれないじゃん」

 ううん、「助けて」って言ってもらえるほど、その厳しい状況に気が付けるほど、察せるほど、最近は行けてなかったじゃない。



 大好きだなあと思っていたバンドが、解散だってさ。

「どうして」
「こんな良い曲たくさん作るバンドが」
「こんな最高なバンドがどうして」

 ううん、そんなこと言えるほど、バンドの良さを周りに、誰かに、一生懸命伝えたかな。大勢のファンが待っているから解散ではなく活動休止にしようと考えてもらえるくらい、彼らに愛を伝えていたかな。


 終わってから「大好き」なんて。
 もう会えなくなってしまってから「会いたい」なんて。

 今なら声を大にして色んな場所で「大好きなバンドなんです」って言えるのに。今さら遅い。
 今さら「こんなに大好きだ」って気付いてしまった。

 曲を聴くたびに、胸がギュッとなる。
 どの曲を聴いても、愛しいと思う。
 笑顔がこぼれて、目の奥がジーンとして切なくなって、
 本当に好きだったなあ、と思う。


 来世で会えたら、
 こんなに好きだって思えるひとに会えたら、

 声の届くうちに、言葉にしよう。
 足りない言葉でも、伝えよう。
 何度だって「大好き」と言おう。


 それでも、どうしようもない時はもちろんある。
 でもその時は、きっと思える。

「私が伝えてきた、たくさんの大好きは、これからを生きる彼らの中に絶対に残っている。これからの人生の中で必ず糧になる」

 烏滸がましくたって、そう思えるくらい伝えられたら、
 後悔になんかならない。



 そう思えた、心に決めた今日の日に、君はもう居なくて。
 なんだよ、私、ひとのこと言えないじゃんって、

 大好きって言葉は、居なくなってから言ってあげんなよって。
 赤青黄緑に光ってる時に、何度だって言ってやれって。

 今さらすぎる私の「今さら」

 後悔や透明を糧にして、進むしかないんだなあ。

 拡がる空は今日も青い。







何か月も前に書いていたもの。
何度読み返しても混沌としていて、出すに出せなかったけれど、
まあ、その混沌さも含めて今しか出せない味かなということで。


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