”出会い系カレー屋”に通ったら、ビジネスのヒントだらけだった話
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1.ラブストーリーは突然に!?
ある駅近のカレー屋さんに、一時期通い詰めたことがある。
ちなみに食べログ評価は3.59と、高得点で、味も間違いないお店だ。
お店の情報は最後にまとめるが、場所は駅から徒歩0分の好立地であるものの、ものすごく狭い。おそらく5-6畳くらいしかないスペースだ。
カウンターだけのその店は、一見すると単なる狭いカレー屋さんだが、店内はチェキなどのインスタントカメラで撮られた写真で埋め尽くされ、中に入ると、写真に覆われるような感覚に襲われる。
そして、その雰囲気以上に明らかにタダモノではないオーラを発している人物が厨房にいる。それがこの店のオーナーだ。
50代くらいの女性なのだが、明らかに妖気を感じる・・・と思いながら、席につく。メニューは際立って珍しいこともなく、おいしそうなカレーが並んでいる。
「じゃあ、このベーコンのやつ、お願いします。」
注文を伝えたところ、オーナーから「はい、ありがとうございます!」と元気の良い返事が返ってきた。
なんだ、普通に感じいい人じゃん・・・と思ったのも束の間、いきなり質問が返ってきた。
「お兄さん、いくつ?彼女いるの?」
ふらっと立ち寄ったカレー屋での、いきなりの予想外の質問に虚を突かれたが、「え!?いないですけど・・・」と答えると、
他の席に座っていた女性を指さし、「この子カワイイと思わない?アンタたち、ちょっとウーロン茶とティッシュ足りなくなってきたから二人で買ってきてよ!」と言い、一万円札を僕の右手に押し付けてきた。
「え!?どういうこと!?」と思いながら、指をさされた女性を見ると、相手も驚いた表情でこちらを見ている。
「このお兄さん、良い感じじゃん。ほら、早くアンタ行きなさいよ!あーあと、なんか甘いもの買ってきて!」
カレーを食べ終わろうかというタイミングだったその女性は半ば強引に席を立たされ、見知らぬ男とのおつかいを命じられたのだった。
どういうこと?と、思わず半笑いになってしまったが、オーナーの勢いと、ハプニングが好きなもともとの自分の性格と、女性が正直可愛かったこともあって、乗っかってみることにした。向かうは駅近のショッピングセンター地下にあるスーパーだ。
道中、自己紹介をしあう。
「あ、はじめまして。ゆうきと言います。」
「こちらこそ、はじめまして。はるな、です。」
「てか、マジびっくりしましたよね!?僕、カレー注文しただけなんですけど笑」
「いや、ホントですよね?私もまだ食べ終わってなかったんですけど苦笑」
「あんなにガーッって言われて、いきなりお札握らされたら、なんか断れないですよね笑」
「いや、そうですよね。私もまだ食べ終わってないのに早く!早く!とかって席を立たされたの初めてです笑」
全くの初対面かつ、店内で同じ時間を共有したのは2分も無かったと思う。
しかし、あまりにも強烈な展開を共有した結果、「いやーあれはあり得ない!びっくりした!」といった類の、大して意味の無い会話ながら、短い道中に話題が詰まることはない。お互い軽い興奮状態で、ポンポンリズム良く話が弾んでいく。
そうこうしているうちにスーパーに着き、ウーロン茶とティッシュを選んでいく。
「これって、どのウーロン茶がいいんだろ?」
「特に何も言ってなかったですよね」
「黒ウーロンの方がいいのかな?」
「ティッシュも安いやつでいいのかなあ」
「この鼻セレブって使ったことあります?値段高いですけど、すごいんですよ、本当に」
「甘いものって何がいいんだろ?え、ケーキ?」
「厨房の中に置くと思うので日持ちして、常温でも大丈夫なやつの方がいいんじゃないですかねえ」
「これ、センス問われますねー笑」
・・・・・大した会話でもないのだが、色々と自由度の高いおつかいなので、話がどんどん弾んでいく。
2.ビジネスモデルはカレー屋?スナック?立ち飲み屋?お見合いパーティー?
おつかいを終え、店に戻り、買ってきたものとお釣りを手渡した。お店は繁盛していて、席は埋まっている。
「はい、ありがとう!あのね、このお釣りで横のマクドナルドでソフトクリーム買ってきてくれない?お客さんの人数分。いい?はい、みなさーん、デザートサービスしますねー!」
他のお客さんは盛り上がっている。あの、僕、まだカレー食べてないんですけど・・・と思いながら、はるなさんと二人でマクドナルドのレジに並んだ。
「すんごい店ですね、ここ。前にも来たことあるんですか?」
「結構来てますよ。オーナーに彼氏いない、って言ったら、厨房からノートを出されて。中に、色んな人の名前と電話番号が書いてあったんですけど、アンタの名前と連絡先書きなさい、いい人いたら連絡するから、って言われて、いきなり個人情報書かされたりしましたね笑」
「そんなことまでやってるんですか!?笑」
はるなさんと、すっかり打ち解け、連絡先を交換した。なお、まだ、カレーは食べていない。
お店に戻り、席にいた他のお客さんにソフトクリームを配った。まだカレーを食べ終えていない人もいたが、溶けてしまうので中断して全員がソフトクリームを食べ始めた。
「じゃあ、アタシ、そろそろ失礼しますね。じゃ、ゆうきさん、また。」
そう言って、はるなさんは、何故か出口とは反対側にしゃがみ込んだ。
目線を下に送ると、人がしゃがみこんで、やっと通ることの出来る高さの小さなドアがついている。
オーナー曰く、このドアを通って出ることで願いごとが叶うそうで、ほとんどのお客さんがこのドアを通って出ていくそうだ(女性はほぼ100%、このドアから出るらしい)。名物的な場所になっていて、SNSに良くアップされているらしい。
はるなさんに手を振り、オーナーの方に目を向けると、
「あの子いい子でしょ?で、注文何だったっけ?」
無茶苦茶なのだが、すがすがしささえ感じてしまう。入店から1時間弱経って、ようやくカレーを食べ始めることが出来た。
食べている間も、オーナーはお客さんと常に話し続けている。
「え!?婚約したの?おめでとう。」
オーナーと話していたのは、30代後半くらいのカップルだった。聞くと、このお店で偶然お互い食事をしていたら、「アンタたち、あそこで飲んできなさいよ」と言われ、強引に二人で飲みに行かされたことがきっかけで知り合い、交際を始めた、とのことだった。
良く見ると、店内にはりめぐらされた写真はカップルのものが多い。ほとんどがこのお店で知り合って付き合い始めたカップルの写真だと言う。そのまま結婚するカップルも少なくなく、夫婦となって、定期的に来ているそうだ。
なんか凄い店に入ったな・・・と思っていると、オーナーが客の一人に話しかけた。
「ちょっとアタシ、あそこのカフェでお見合いさせないといけない人いるから、ちょっと店番していてくれない?」
「わかりましたー」
え?どういうこと?と思ってみると、食後にサービスされたレモングラスティーを飲んでいた大学生くらいの女性は慣れた様子で厨房に移動し始めた。聞くと、常連になると店番を任されることもあるという。
「あ、お兄さん、アタシ出ちゃうから、ここに名前と電話番号書いて!早くして!」
はるなさんから聞いたノートを渡された。ぎっしりと名前が書かれている。言われるがままに記入した。
オーナーは、バタバタと出かけていってしまった。
単に駅近くのカレー屋さんで夕食を食べようと思って、入っただけだったのだが、ソフトクリームを配った他のお客さん達と食後のレモングラスティーを飲みながら、2時間近く話しこんでしまった。
入店待ちの人が出始めたので、大きめの自分の身体を縮めながら、はるなさんが通った小さなドアを開けた。
翌日、会社の同期達とランチをした時には、このカレー屋の話題で盛り上がり、同期達もけっこうな人数が後日カレー屋に行くことになった。
3.ビジネス観点から学ぶべきポイント
カレーも美味しいし、楽しい時間を過ごすことが出来たのだが、ビジネスパーソンとしても、とても学ぶ点の多い体験だったので、このお店から学ぶべきポイントを簡潔にまとめてみたいと思う。
1.思わず語りたくなる要素が多い(集客①)
強制的に、客同士で飲みに行かせる、おつかいに行かせる、厨房に立たせる、など日常では絶対に体験しない(少なくともカレー屋では絶対にない)要素が盛りだくさんで、知り合いに語りたくなってしまう。ある人は「出会い系カレー屋」と言い、ある人は「カレー屋兼スナック兼立ち飲み屋兼お見合いパーティー会場」と言い、ある人は「とにかく強烈なオーナーがいる店」と言うだろう。結果、「何それ?」と興味を持つ人を惹きつけ、集客することが出来ている。
2.SNSにアップしたくなる要素がある(集客②)
願いが叶う、小さな出口や写真が張り巡らされた店内など、特徴的な仕掛けが多くセットされている。
3.リピーター・ファンを生む構造を作り上げている(顧客の拡大再生産)
客同士をカップルにすることで、カップルとなった客にとって、店舗を特別な思い出の場所とすることが出来ている。また、噂を聞きつけて、パートナーを求める客が通いつめるケースも多く、単純なカレーの商品力以外にも、リピーターを生む構造を作ることが出来ている。
また、上記に当てはまらなくても、ノートに名前と連絡先を書いた結果、不定期に連絡を受けることになるので、店と客が繋がりを持ち続けるし、他の人と話しながら食事がしたくて来店する方もいるだろう。体験を重ねることで店舗のファンとなり、ファンとなった客が周囲の人を誘い始める構造を作ることが出来ている。
4.不利になりかねない制約条件を強みに変換している(特徴を強化する、リフレーミング)
店内は狭く、エスカレーターのスロープの下に屋根裏部屋のように作られているため、普通に考えれば、快適な空間とすることが難しく、とても長居したいとは思えない条件。
しかし、「狭い」という一見弱みと思える特徴を、「場の一体感を生みやすい」という強みに捉え直すことが出来ており、友達の家でだらだらと食べたり飲んだりしているような感覚を味わえる。
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新型コロナウイルスの感染が拡大しており、今すぐに、というわけにはいかないですが、落ち着き次第、気になる方はぜひ、以下の店舗に足を運ばれてはいかがでしょうか。
カレー&ハーブ チェリーブロッサム 新百合ヶ丘店
食べログURL : https://tabelog.com/kanagawa/A1405/A140508/14000777/