野球をやったら学校の成績が上がった!アフリカの実話 【作戦タイム】No.6
スポーツに取り組むと、学校の成績が上がる…?
日本では、反比例と思われがちなスポーツと学力。
いや、むしろ、スポーツには「人づくり」としての価値もある。
<スポーツ×人間社会>をつなげていくラジオ【作戦タイム】のシェア。日本学術振興会と大阪大学大学院の研究助成により、一般社団法人アスリートデュアルキャリア推進機構(ADCPA)がお届けしています。
MC奥村武博(ADCPA代表理事)×岡田千あき(大阪大学大学院人間科学研究科・准教授)。
ゲストは一般社団法人アフリカ野球・ソフト振興機構(J-ABS)代表理事の友成晋也さん。
JICA職員として赴任したアフリカ(ガーナ、タンザニア、南スーダンなど)で、自らの野球経験を基に野球やソフトボールを通じて若者を育てている。活動の本格化のためにJ-ABS設立し、松井秀喜さんや川上憲伸さんも協力。
日本とは当たり前が異なる人や国だからこそ発見できた価値があった。
プロフィールなど詳細はhttps://www.adcpa.or.jp/sakusen-time
ダイジェスト⇩
「ナイスボール!」「ナイスキャッチ!」が心をひらく
とても野球なんかムリ、野球を知らない、そんな危険な紛争地域への赴任にも、友成さんはいつも個人的にグローブとボールを持ち運んできた。
友成晋也さん
「南スーダンは、紛争が多く3人に一人は難民。子どもたちはトラウマを抱えて感情を抑えてる感があって、大げさでなく笑顔がありません。たまたま私が若者2,3人とキャッチボールを始め、毎週やるようにしたら、子どもたちが集まるようになって」。
「「ナイスボール!」「ナイスキャッチ!」これ言い合うだけで楽しいんでしょうね。笑顔が出てきて、おずおずだったのが、だんだん心を開いてくれるようになりました。感情を引き出し、心を癒すこともできる、まさしくキャッチボールはコミュニケーションだなと思いました。
キャッチボールからゲームもできるようになると、規律尊重も出てくる。そうやって野球が拡がっていきました」
「教育」「文化」を力点にする
友成晋也さん
「日本野球は、みんな勝つことを目指しますが、勝つだけが価値ではなくて目指す過程に価値がある。目指すものがあるから一生懸命やるし、目指すものがないとうまくならない。目指すものがアフリカにはないので、共通目標として『ガーナ甲子園プロジェクト』を始めるために、大使館に予算のお願いをして「日本の野球文化を広めたい」というビジョンにしました」
奥村
「野球・ソフトのただの普及だけでなく、人材育成や教育のツールとして活用する、というところですよね」
「時を守り、場を清め、礼に始まり礼に終わる」
"道"の文化を説明
友成晋也さん
「試合開始で二列に並んでお辞儀するのは日本独特。柔道や剣道、茶道、華道に通ずる道の世界、『時を守り、場を清め、礼に始まり礼に終わる』。
日本では、当たり前すぎて礼をなぜするのか習ったことがない。ところが習慣のないアフリカでは「なぜ礼するのか」説明する必要が出てきた。
これは闘いじゃなくてスポーツ、相手や審判がいなければ試合できないから、「相手をリスペクト、審判をリスペクトするところから始めなきゃいけない。これがスポーツマンシップだ」と説明したら受け入れられました」。
奥村
「なぜ礼をするのか、その意味を知れば、ダラダラやっていたものがリスペクトに変わってきちんとやるようになりますね」
友成晋也さん
「25年間、野球を知らない人に対して全てにおいて「なぜ」の説明を求められ、私も学びました。日本では暗黙知として「ダメ」で終わっちゃうけど、「なぜ」の説明の連続」
友成さんは、多くの「なぜ」をテキストブック『ベースボーラーシップエデュケーション=人づくり野球教本55の柱』としてまとめ、ガーナ、南スーダン、タンザニア、ナイジェリア、ケニアの指導者たちに「人づくり野球」のセミナーも行っている。
時間通りに集まる規則が 予期する力、準備する力を育む
奥村
「野球やソフトのどんなところが人材育成に役立つんでしょう?」
友成晋也さん
「最初の項目は「なぜ時間通りに集まらなければならないのか」です。日本では5分前が当たり前だけど(笑)。
例えばガーナでは、練習のために3時キッカリ!と言っても、3時にはほとんど来なくて3時40分くらいに8割、全員集まるのは4時頃。3時00分から3時59分までが3時で、1時間のバッファがガーナタイムなんです。
その頃のガーナは公共交通もないし、更に雨が降ったから、とか親に用事を言いつけられたから、とか言い訳もある」
「だから「時間を守ること」の説明が必要でした。
足並みそろえた練習の必要性、野球はボールが止まっている間に予期して次の準備をすることの大切さ。雨が降りそうなら早めに出る、用事は予め聞いておくとかできるはず。
つまり予期して準備して時間を守ることが野球の能力につながる、と説明しました。それは、予期する力、準備する力、チームワーク、規律性が育まれるということです。
奥村
「スポーツに取り組むことは、パフォーマンスだけじゃなくて勉強や仕事とか他の領域に通用する力を学んでいるんだ、という私が取り組んでいる「デュアルキャリア」に近しいです」
友成晋也さん
「指導を始めた1年後に10校にヒアリングしたら、全ての学校から「野球やってる子たちは成績が上がる。礼儀正しくなって規律正しくなってリーダーシップを取れる子が多い」と言われました」
野球のニーズではなく、人づくりのニーズに応えるツールとして
友成晋也さん
「私は「成績が上がるスポーツがあります、ベースボールです」とプレゼンしていきました。
野球のニーズではなく人づくりのニーズに応える価値があったから、野球はツールとして結果的に普及していったんだと思います」
奥村
「僕も会計士の合格までの9年のうち最後の2年くらいで、野球の取り組み方や考え方を取り入れて成績が上がり、これは別物ではないと思いました。培ったものは他に転用ができる、同時性のあるデュアルキャリアだと気づいたんです。
でも僕も含めて多くの人は、野球しかできない、と思っていて、日本では野球の経験が人を育てるツールとは思われていない」
友成晋也さん
「私も、アフリカで知らない人に咀嚼して伝えなきゃいけなくなって、これって社会に役立つ価値を伝えてるなと気づきました」
「たとえばカバーリングバックアップ。日本ではエラーに備えてバックアップと教わるけど、私は少しポジティブに説明したくて、もし他の人がカバーに走ってくれるイメージをしたら、自分は安心してプレーできる。その安心感を与えるのがカバーリング。あいつのミスのためではなくて、全力でプレーしやすくするためだと説明しました。
なぜこれをやるのか、を指導者の方は説明してほしいです」
岡田先生
「監督がやれって言うから、サインが出たからやる、ではなくてね」
奥村
「どうカバーして次に良いプレーをするか、当たり前のようにやってきたその思考が能力で、野球やってきたからこその価値でもあるのに、自分では気づいていなくて過小評価してしまう。特に日本の社会では体育会系は根性と体力だけ、考える力は疑問視されて選択肢が狭まれる。それがもったいなくて、僕はそういう価値観を変えていきたいなと思っています」
ノーカット音声はSpotifyで⇩
南スーダン青少年野球チーム初の国際試合参加支援へのチャレンジ #3-1
松井秀喜さんや川上憲伸さんの心を動かした本気度 #3-2
アフリカで受け入れられた野球・ソフトボールの教育的価値 #3-3
アフリカで受け入れられた野球・ソフトボールの教育的価値part2 #3-4
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「なぜ」を問い直すと価値や本質が見えてくる
【アディショナルタイム】 配信考記 byかしわぎ
「予期する力」「準備する力」は、これに尽きる、と言えるほど仕事でも人生においても大切な要素。
野球に限らず、スポーツに取り組むことで育まれる大きな能力の一端だと私も確信している。
「予期」するためには「想像力」も伴い、「準備」には「段取り」や「柔軟性」も関わってくる。
一口に「予期」「準備」と言っても、そのアプローチはその競技によっても異なる。
個人競技と団体競技、対戦競技と採点競技、タイム競技、それぞれ「競技性」が異なり、育まれる思考や特性も文化もそれぞれ異なってくる、と私は感じている。
そこが奥深いところで、「アスリート」とか「スポーツ」という大枠だけでの単一視はできない。
「当たり前」の奥を言語化する「なぜ?」
実は、スルーしてしまう「当たり前」や「暗黙知」の奥に価値が隠れていることが多い。
そこに「なぜ?」を問われると、相手への説明のために「理」と「言語化」が必要になり、自分自身をおのずと深掘りせざるを得ない。
そもそもどうしてコレをやっているのか?
どうして自分はそう思うんだろう?
普段は気にも留めないことを考え、理屈を通してみる。
すると結果として、自分では気づかずにいた本質的な価値や理屈の発見につながることがある。
一方で、考えてみたらその習慣は必要なかった、とか、思い込みだった、のような気づきもある。
「なぜ」は、相手の疑問の解消以上に、自分自身の「価値の見直し」のような役割をしてくれる。
カギは「知りすぎない・詳しくない相手」
「なぜ」の自問自答は難しい。
そもそも自分の「当たり前」には着眼点そのものが見当つかないから。
やはり「詳しくない」「知りすぎない」環境や第三者からの視点が効果的だと思う。
私自身は、アスリートに対して、その競技専門の立場としてではない「なぜ」を意識して永年インタビューしてきた。
専門家だったら、まさに暗黙知としてスルーしてしまうかもしれないポイントが、知らないがゆえ気になり、疑問がわく。
思いもよらぬ角度からの問いによって新たに光が当たり、それまでは見えていなかった意外な本質や自分の価値観、自分なりの哲学が見えてきたり、はたまた思い込みに気づいたり。
自らの気づきにつながる、「なぜ」からの深掘りプロセス。
「知りすぎない人」からの「なぜ」は、「当たり前を価値」に変える。
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