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子供のウエイトリフティング選手における障害予防の考え方:05-2[膝痛対策]

膝関節の障害予防のポイントについて考えていきます。
使いすぎ症状につながる関節の特徴を理解しましょう。




使い過ぎ症状の特徴

使い過ぎ(オーバーユース)症状は、さまざまな競技で聞かれる問題です。これは、ウエイトリフティング競技も例外ではありません。

同じ関節、同じ筋肉組織を繰り返し使う事で、短縮(拘縮)や摩耗が発生するのが特徴です。

ウエイトリフティング競技の場合も関節での障害が多く、対応に苦慮するものばかりです。

しかし、球技系の種目と異なり、発生箇所と症状には、やや特徴が絞られてきます。


ここでは、3つの視点から考えていきます。

・膝蓋骨(お皿の骨)周囲組織の短縮と筋力低下

・股関節に関わる筋肉群の短縮と筋力低下

・膝関節内への圧縮とズレ




膝蓋骨(お皿の骨)周囲組織の短縮と筋力低下

これは初心者の選手だけでなく、大人にも多くみられる症状です。
主な原因は、大腿四頭筋と呼ばれる太もも前面の筋肉と、その下層にある滑液包というクッション組織の癒着や機能不全によるものです。


4種類の筋肉がまとめられて大腿四頭筋と呼ばれる

大腿四頭筋は、膝の伸展にはたらく筋肉の総称です。

大腿部前面にある4種類の筋肉が、お互いに共同して力を発揮します。正常に動いている時は良いのですが、いずれかの筋肉に疲労や怪我、筋力低下などの機能不全がおこると協調性に欠けた動きになります。

そして4種類の全てが「膝蓋骨(お皿の骨)」を経由してスネの骨(脛骨)についていることもあり、この大腿四頭筋と滑液包の機能不全は、膝蓋骨周囲に痛みや硬さを発生させるのです。

膝蓋骨周囲に痛みが発生するには、大腿四頭筋のバランスが関わる


大腿四頭筋の柔軟性を確認する

この大腿四頭筋の柔軟性が適切に保たれているかどうか?について簡単に確認できる方法をご紹介します。 

ストレッチを応用した確認方法です。
ここでは、2つのレベルで確認するのがおすすめです。

Lv1 :うつ伏せ・片脚(逆側)を伸ばした姿勢から評価する
・カカトとお尻の距離を近づけて太ももの前面がどの程度伸びるか?を評価します。この時に、カカト-お尻間の距離が、0(お尻にカカトが着く)のが理想です。

Lv1:大腿部前面の柔軟性評価


Lv2:うつ伏せ・片側(逆側)の股関節を屈曲させて評価する
・Lv1が問題なく行えた人(0)は、骨盤の固定をより正確に行えるLv2の方法を試してみましょう。ここでは、逆側の膝を骨盤位置まで引き上げることで、代償動作(ごまかし動作)を最小限にして詳しく評価することが可能です。Lv2まで問題なくクリア(0)することを目指しましょう。

Lv2:大腿部前面の柔軟性評価


大腿四頭筋の短縮や、膝蓋骨周囲にある滑液包の癒着が発生する原因として多いのは、

跳ね上げ動作とキャッチ動作までの過程で、大きな影響を受けることです。

高重量を瞬間的に跳ね上げる動作は、大腿部の筋肉に強い短縮の動きを促し、直後のキャッチ動作には膝蓋骨周囲へ伸長負荷が加わります。

単純ですが、高負荷・切り返しの連続運動によって、徐々に筋肉組織が疲弊していき、疲労が抜けないままだと筋肉同士の動き(滑走)にバラツキが発生します。

〈使いすぎ症状確認のポイント〉

膝蓋骨周囲の痛みが、

グレード1 動き始めに痛むが、練習に問題ない状態
グレード2 練習後に痛みを感じるが、翌日には消失している状態
グレード3 日常的に痛みを感じる事があるが、練習時は問題ない状態
グレード4 練習時も痛みを感じている状態
グレード5 練習を中断する事があるほどの痛みレベル

の5段階で確認するのが良いでしょう。

特に、グレード3に該当する選手が多く存在するものの放置されているのが見受けられます。

グレード4に進むと、回復にとても時間のかかる病態でもあるため、できる限り早期にグレードを下げるよう、休息とともに患部の「ほぐす・伸ばす」ケアを進めていきたいところです。



股関節に関わる筋肉群の短縮と筋力低下

膝の動きは、曲げる・伸ばすが基本の動きですが、膝自体の安定性を支えている組織が内・外側に存在します。

そして、同部位を走行する筋肉群は股関節まで伸びているため、跳ね上げ、キャッチ動作共に股関節の運動に連動して膝が影響を受けます。

内側面は
・縫工筋(ほうこうきん)
・薄筋(はっきん)
・半腱様筋(はんけんようきん)

が内側を支える役割を果たします。キャッチ動作や、スクワットでの沈み込み動作時に膝が崩れないよう内側を支えてくれます。

外側面では
・腸脛靭帯(ちょうけいじんたい)

が安定性に役立ちます。この組織もキャッチ動作や、スクワットでの沈み込み動作時に膝の崩れを防止するように働きます。

腸脛靭帯は、大臀筋(だいでんきん)の線維と、大腿筋膜張筋(だいたいきんまくちょうきん)の繊維につながります。

内・外側ともに筋肉群の役割は、荷重時に膝関節が捻られて崩れないようブレーキをかけることです。

これらの筋肉群に過度な疲労や短縮が起こると、荷重時(キャッチ局面、下降局面)に関節を保護する動きができなくなり、膝の内外側に不要な伸張刺激や関節内には圧縮刺激が加わります。

実際にこれらの筋肉群に触れてみると、自分でも気づかない内に張り感覚や圧痛を感じる事があります。そうしたサインは、疲労の目安になりますので徒手で「ほぐす・伸ばす」ように改善を試みてください。

筋肉には、特に緊張感を強く感じる箇所(軽く触っても強く刺激を感じるところ)があります。

こうした部分を中心に「筋肉をほぐす」ように動かしてみてください。

〈筋肉をほぐすポイント〉


関節内の動き

これまでは動きを司る筋肉群について話をしてきましたが、膝の怪我でより重症に捉えるべきは、関節内の怪我です。

経験を積み高重量を扱える様になると、左右脚の荷重バランスにズレが生じたり、深い屈曲をした際の関節内圧縮が高まる事で関節軟骨・半月板・靭帯などを傷をつけてしまう事が心配になります。

膝関節は、伸展動作の最後の部分で下腿(スネ)がやや外旋(外を向く)動きをする一方、曲がる時は、大腿骨が曲がる動きと共に、わずかに後方へ移動する(滑る)動きをする特徴があります。

関節内のクッション性と安定性を保つ重要な働きをする「半月板」は、膝の屈伸動作に伴いわずかに動きます。

深い屈曲時に起こる大腿骨の後方移動は、正常な動きではあるものの、前述の筋肉が正しく働かないと、隙間にある半月板や軟部組織を傷つける恐れが出てきます。

そのため、膝の正しい関節運動は特に注意して行う必要があります。
〈詳しくは以前の記事から〉


〈注意したいポイント〉

キャッチやスクワットの下降動作では、股関節の屈曲を伴いながら、膝を曲げる(膝だけを前に出さない)

同じく、下降動作で膝が内に入らないよう注意する(股関節は外旋の動きをする)

股関節は、膝の開き(股関節外旋運動)を伴うと骨盤の前傾を促しやすい特徴があります。

よく、足幅を広げることばかりを強調して、骨盤が前傾しないまま深くしゃがもうとする人を見かけますが、あまり良くありません。

苦手意識があるならば、まずは椅子に座った姿勢で動きの練習をしてみるのが良いでしょう。

【座位での動作確認】


ウエイトリフティングでは、脚が挙上の主な力を発揮します。膝関節は地面からの反力を上に伝える役割を持ちますが、普段は自動的に動く関節です。

そう考えると、違和感や不具合を感じた場合には、放置せず、原因となった練習や試技、疲労脳回復具合を見直して、フォーム・タイミングの修正と共に早期の回復を目指しましょう。


(参考文献)
・公社)日本ウエイトリフティング協会指導教本2022
・日本トレーニング指導者協会トレーニング指導者テキスト(実践編・理論編)大修館書店
Olympic Weightlifting: A Complete Guide for Athletes & Coaches (English Edition):英語版/Greg Everett
・NASM ESSENTIALS OF SPORTS PERFORMANCE TRAINING 2nd edition
・NASM Essentials of Corrective Exercise Training: First Edition .2013
・ゆ~っくり座って健康に! 60歳からはじめるエキセントリック体操 2022 :
野坂 和則 (著), 稲見 崇孝 (著), 桂 良寛 (著), 野坂和則 (監修)
・エキセントリック運動の理論と実践:エキセントリック運動の特徴と効果:JATI東北支部WS野坂氏提供資料:2023
・運動器疾患の「なぜ?」がわかる臨床解剖学 2012/5/18 工藤慎太郎 (著)


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