成長期のスポーツ選手に知って欲しい身体ケアの話02【身体の調整】
身体自体の調整
筋肉は収縮して力を生み出し、その力を骨に伝えます。骨が関節を介して運動方向が決まり、一つの動作として実行します。
この一連の動きを思い通りに行うには、筋肉があるべき長さまで伸び縮みすること
それと同時に、骨が剛性を保ちながら、関節が必要な可動範囲で滑らかに動かせることが必要です。
しかし、疲労を重ねた筋肉組織は、組織の短縮や過緊張を示しています。ここに筋力低下も相まって、関節の可動性が低下した不良な動きを生み出します。
ここで、私が提唱している合言葉は、
ほぐす
伸ばす
鍛える
の3ワードです。
ほぐす
「ほぐす」とは、その名の通り、過緊張をしている筋肉組織や皮膚、皮下組織、関節周囲の強張りなどを、徒手や関連アイテムを用いながら摩り、転がしつつ緩めていくことを指します。
「マッサージ」と表現するのも分かりやすいのですが、これは本来は、専門家が行う役割の名称です。
選手や親御さん達が取り組める方法の表現としては、特定の技術を示さない「ほぐす」というイメージを持っていただくのがよろしいかと思います。
皮下組織は、それぞれが単体で機能を持つ部分と、何層にも重ねられた膜(ファシア)で覆われて、お互いが連結した力の伝達によって動く部分があります。
疲労によって短縮した組織は、こうした筋肉を含めた連結組織がお互いに上手く滑走できなくなった状態(癒着状態)だと言われています。
この状態は、循環の不良や神経伝達物質の滞りが起きやすく、典型的な疲労症状として不具合を感じるようになります。触れてみると固さを感じたり、箇所によっては痛みのように感じるかもしれません。
触れる際は、強く押すのではなく、「転がすように、皮膚と皮下組織をズラすように」捏ねていくような触れ方をしていくことで、固くなった組織にゆとりが生まれてきます。
深部を改善したい場合は、やや深くまで押圧をして捏ねていく事もありますが、その際にも強さを求めるのではなく、組織同士の引っ掛かりを「はがす・ずらす」ようなイメージで、転がすような操作が良いでしょう。
伸ばす
次に、「伸ばす」手順が大切になります。「ほぐす」ことで筋肉を中心とした皮下組織にゆとりが生まれ、関節運動のしやすい環境が整ったら、ゆっくりと伸ばしていきましょう。
これは「ストレッチ」と同義で考えていただいて構いません。
関節をゆっくり広げながら、筋肉や皮下組織の伸長する感覚を探っていきます。不具合を感じる部位を伸ばすのであれば、勢いはつけず、痛みの出ない範囲で伸長感覚を感じていきましょう。
・固定してじっくり伸ばす(静的ストレッチ)
筋肉を伸ばしていく際には、自分の感じる「伸び感」が大切になります。関節の構造は部位によって異なるため、多方向に動く関節もあれば、曲げる・伸ばすだけの1面的な動きしかできない関節もあります。そのため、ゆっくりと関節を開いて、筋肉や軟部組織から得られる「伸び感」が最適と感じられる方向や角度を探しましょう。
この際に大切になるのは、伸び感を心地よく感じられる姿勢が見つかったら、その姿勢(関節位置)を固定する事です。
筋肉や軟部組織の緊張をコントロールする神経組織(センサー)は、筋肉が骨に付着する部位に多く分布しています。関節が一定の強さで、一定時間、伸張された姿勢を固定(保って)する事で筋肉の緊張を緩和する働きが得られます。
伸ばす時間は、文献により異なるのですが、スポーツ現場の使い勝手を考慮すると、1部位につき10秒程度を固定し、急がず2〜3セット程度を行いながら状態の変化を確認するのが使いやすいところです。
・動かしながら伸ばす(動的ストレッチ)
伸ばす方法にはもう一つあります。それは「動かしながら伸ばしていく(動的ストレッチ)」という考え方です。これは、筋肉に力を入れて実際に関節運動をしていくため、「動き作り」と考えて活用することが多くあります。
関節が運動をする際に、主として力を発揮する筋肉(主動筋)と、それを補佐して働く共同筋とがあります。また、関節が動きを加速する際にそれを逆の動きでブレーキをかける筋肉(拮抗筋)も働きます。これらの筋肉が相互に力を調整する事で、滑らかな動きが実現します。
動的ストレッチは、神経が運んでくる運動信号がこうした複数の役割分担されてる筋肉に正しく伝わるよう実際の関節運動をさせつつ、筋肉に伸張する刺激を与えていくのです。
この時の動かす速度は、目的よって変わってきます。
A)関節の可動範囲を広げる事が優先・「動き作り」を実施したい時
:動作をゆっくり
:関節の動く範囲をできるだけ大きく動かす
B)筋肉の収縮タイミングや反応性を高める事を優先したい時
:反動をともなった関節運動をさせて、筋肉、腱、骨から得られる跳ね返りの感覚を感じながら、関節を大きく動かす
鍛える
ほぐす⇆伸ばす の手順を相互に繰り返しながら、筋肉を中心とした運動範囲の回復、過緊張の解放が進むと運動のための準備が整います。
疲労回復は「体を動かさない」ことだけでは進みません。スポーツ活動のための疲労回復(リカバリー)は、スポーツ活動自体が効果的で、効率よく進む事をねらいとしています。だとすると、筋肉を中心とした体の準備ができたのであれば、自身の強みを伸ばすために、また弱点を克服するために「鍛える」を始めましょう。
筋力トレーニングの効果
トレーニング理論は、さまざまに提唱されていて、また日々進化もしています。原則や原理についての詳細は、別の回で記載していきますが、筋力トレーニングを中心とした「鍛える」手順では、偏った視点にならないよう注意しながら、鍛えた先のスポーツ活動での姿を具体的にイメージして計画を立てましょう。
取り組むべき要素と進むべき段階(局面)の2つの視点が大切になります。強い強度の運動をする前には、準備としての筋力や持久力が必要になる、という事です。自分が主とするスポーツ活動において必要な強化要素の分析が大切です。
(参考文献)
・公認アスレティックトレーナー 専門科目テキスト 3コンディショニング /公益財団法人日本スポーツ協会
・リカバリーの科学・スポーツパフォーマンス向上のための最新情報/編集:Christophe Hausswirth, Iñigo Mujika 監訳:長谷川 博(広島大学大学院総合科学研究科)山本 利春(国際武道大学体育学部)
・日本トレーニング指導者協会トレーニング指導者テキスト(実践編・理論編)大修館書店
・NASM Essentials of Corrective Exercise Training: First Edition .2013
・NASM Essentials of Sports Performance Training .2018/1/22
・スポーツ医療従事者のための本格フロッシング/スヴェン・クルーゼ, 高平 尚伸他 | 2020/7/20
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