#9. 手紙を食べた白ヤギと黒ヤギの「仕方がない」は、究極のストレス対処法 〜人間の器の広げ方〜
どうにもならないとき、ふと口に出る「仕方がない」。ここに、ストレスにうまく付き合っていくためのココロの働きが隠されている、というお話です。
「仕方がない」は、問題解決の近道?
悩みごとを人に相談しても、期待していたアドバイスはなく、「しょうがないよ」と言われてしまったこと、ありませんか? 逆に、誰かの相談相手になって「それは仕方ないよ」と言ったら、相手が気分を害してしまったり。
でも「仕方がない」には、ストレスと付き合っていく一番有効な近道なのです。
「仕方がない」の体験
想像してみましょう。「仕方がない」が出てくる場面は、きっと何か自分でコントロールできない状況ではありませんか?
「背が高くなりたかった」「人生で成功したいが、今の自分ではどうにもならない」「周りの人に嫌われたくないけど、相手の行動が読めない」など。
そう、悩んでも仕方がないのです。物理的に限界があったり、自力では解決できなかったり、他人の感情や行動をコントロールするのも無理です。変えられない過去や、予測不能の未来について考え込んでしまうのも、同じですね。
解決手段は全部試みたけど、うまく行かない。この女性のように、何かに囚われて身動きできないような感覚がありませんか?
では、どうすれば、仕方がなくなっても、囚われた感覚がなくなるのか? ここで「受容する、受け容れる(Acceptance)」という考え方をご紹介します(Hayes et. al., 2012)。
受容すると、ココロに空間ができる
白ヤギさんと黒ヤギさんの童謡🎵 をご存知ですね。手紙をお互いに食べてしまい、内容がわからなくなるという不思議な歌。手紙を食べた後に困って、ヤギたちがとった行動は、「仕方がないから」さっさとお手紙の内容を聞きますね。
そうなんです。ヤギは、「食べた手紙は戻らない」と言ってクヨクヨ悩んだり、手紙の内容を相手に聞くのを諦めたりしていませんよね。単純に「仕方がない」と言って、どうしようもない状況を受け容れて、次の行動をとっています。
この受容という行為は、身動きがとれずに、がんじがらめになっているカラダとココロに、空間を作ってくれるのです。そして、次にとるべき効果的な行動を起こしてくれます。
ココロに空間? そうです。受容することは、決して、受け身の姿勢でもなく、忍耐でも、諦めでも、妥協でもないのです。批判もしないのです。ただ、カラダの感覚やココロにある気持ちに対して、オープンになろうとすることです。
オープンって? その感覚や感情に対して、良し悪しの判断を下さずに、「ああ、私は、今こんな感覚や感情を抱いているんだ」と、瞬間瞬間で変わるカラダやココロの動きに積極的にコンタクトをとることです。
コンタクトってどうやってとるの? やり方は簡単なのです。例えば、「私は仕事ができない」と思っていたとしましょう。これを、「〜と思っている私がいる」を最後につけたり、「まだ〜」を最初につけるだけで、自分を客観的に見られるのです。「『私は仕事ができない』と思っている私がいるなあ」「まだ『私は仕事ができない』」のような感じです。
こうすると、「ひょっとしたら、今はできないだけで、将来はできるかも?」とか「仕事ができないと思い込んでいるだけかも?」と、少し離れた距離で自分を観察できませんか?
空間があると、どんな感覚や感情も置いておける
ココロに空間を作るのと、自分を支配している感覚や感情をありのまま、そこに置いておけるのです。仮に、この部屋にあるおもちゃが、自分のいろんな感情や感覚だったとします。嫌なもの、仕方がないものをこの部屋から出して、きれいに片付けたいかもしれません。
でも、そのおもちゃが気になるのは、部屋が小さいせいかもしれませんよね? 狭い空間だから、追い出そうとして努力して疲れる。そうではなく、部屋自体が大きければ、多少気になるものがあっても、許容して、そこに置いておけますよね。こんなイメージです。
よく、寛容で思慮深い人のことを「器の大きい人だ」といいますよね。ちょっとやそっとのことでは、いちいち騒がずに、遠くを見据えてどんと構えている感じでしょうか? きっと器の大きい人は、ココロの空間も広いのかもしれません。
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--本記事のイラストは、freepikよりライセンスを取得済みのものです--
Hayes, S. C., Strosahl, K., & Wilson, K. G., (2012). Acceptance and Commitment Therapy: The Process and Practice of Mindfulness Change (2nd ed). New York: The Guilford Press.