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#10. 「ちょっと不満な世の中」くらいがちょうどいい!? 〜進化論が教える繁栄と滅びのルール〜

個人的には不満が残るけど、みんなのためにはなる。ここには、地球上の生命体が、滅びないようにするための秘訣が隠されている、というお話です。

競争に強い個人の集まりは、社会を豊かにできない

世の中には、器用な人もいれば、そうでない人もいます。勉強やスポーツが得意な人もいれば、そうでない人もいます。能力の高い人に憧れるかもしれません。でも、そういう人たちばかりの集団だったら、なぜかギスギスしますよね。どうして? 

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これをニワトリで試した実験があります(Atkins et al., 2019)。繁殖能力の高いニワトリだけを集めた鶏小屋を作りました。彼らを交配し続ければ、卵の生産量が増えると思ったからです。その結果は、どうでしょう?

交配を始めて5世代目には、なんと生産量はガタ落ち・・その理由は、繁殖能力の高いニワトリは、攻撃性が強く、他のニワトリをイジメるからだそうです。クチバシでお互いのカラダをつつき合って、羽はボロボロ。卵を安心して産むどころではない。

強い個人だけの集団は、どうして滅ぶのでしょう? ここで登場するのが、マトリョーシカ(え?)

マトリョーシカの宇宙観

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玉ねぎの皮のように、一つ剥がせば、また同じような人形が出てくるマトリョーシカ。不思議な人形ですね。

この入れ小細工を例に、進化論の研究者(Willson & Sober, 1994)が、次のように話しています。「地球の生命体は、マトリョーシカのようなもの。一番小さい人形が遺伝子だとすると、次に大きな人形は細胞。次の人形は、細胞からなる有機物(ヒトなら、人間のカラダ全体)。次の人形は、有機物の集合からなる集団(ヒトなら、人間社会)」。

地球の生命体は、ヒトでも動物でも植物でも、遺伝子レベルから地球規模の集団まで、小さな組織の集合体が大きな組織を形成しているということですね。

それが、強い個人だけだと滅びるのに、何か関係が? もう少し、具体的な例でみてみましょう。

「個人の満足は、集団の利益にならない」「集団の利益は、個人を満足させない」という進化のルール

ヒトのカラダとがん細胞の関係を見てみましょう。がん細胞は、正常な細胞と違って、異質な自分を主張していますね。変異してできた細胞なので。

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このがん細胞にとっての自己満足は、周りの正常な細胞を食い尽くして、どんどん拡大することです。これは、がん細胞にとっては、嬉しいことです。

でも、増殖し続けたら、最後は、宿主のカラダを滅ぼし、一人の人間を死に追いやります。自分(がん細胞)も死んでしまいます。

個人の利益(がん細胞の増殖)だけ追求しても、集団の利益(カラダの健康維持)にならないのです。この個体と集合体の関係は、ヒトでもハチでもアリでも同じだそうです。

社会を豊かにしてる瞬間

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進化論のルールを裏返すと、個人の欲求が100%実現できなくても、これは種の保存・集団の生存のために必要。みんなが強い個人である必要はないし、自己満足できないことがあるのは当然、ということでしょうか。

「どうせ自分は組織の歯車だ」、「私なんて何をやっても役たたず」、「周りの人ためにはなるけど、自分としては不満」と、がっかりするとき。

実は、これは、あなたの属する集団や、世の中の誰かを豊かにしている瞬間かもしれません。


PS. 記事に関連する個人的なエピソード、ご意見・ご感想をお待ちしています。

--本記事のイラストは、freepikよりライセンスを取得済みのものです--

Atkins, P. W. B, Wilson, D. S., & Hayes, S. C. (2019). Prosocial: Using evolutionary science to build productive, equitable and collaborative groups. Oakland, CA: Context Press.

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