フラットスタンリー・プロジェクト〜紙人形になった自分が、封筒に入って世界へ飛ぶ〜
「フラット・スタンリー」は1964年にアメリカで出版された絵本のタイトルです。作者はJeff Brown、原書は英語ですが日本語を始め色々な言語でも訳されています。
日本語の本ではスタンレーと書かれていますが、英語の発音に近いのはスタンリーです。どちらでもいいと思いますが、私はスタンリーと言っています。
この絵本の主人公スタンリーは自宅の部屋で掲示板が落ちてきて「ぺったんこ」になってしまいました。体がペラペラの紙みたいになってしまって、人生が変わります。しかし「人を見かけだけで差別などしてはダメ」という家庭で育った彼は、自分の体の変化を楽しむようになりました。
ある時、スタンリーはカリフォルニアの友達を訪ねようと思いましたが、飛行機のチケット代が高い。そこで、家族はぺったんこになったスタンリーを折りたたんで封筒に入れて、郵便で送ることにしました。こうしてスタンリーは封筒に入って簡単に旅することができるようになりました。
この本の作者Jeffはスタンリーの第一作を書いた後、20年近く続きを書かなかったのですが、1983年から続きを発表し始めます。そしてこの本が世界的に有名になったのは、あるカナダの先生のプロジェクトがきっかけでした。
カナダの小学校の先生が始めたプロジェクト
「Flat Stanley Project フラットスタンリー・プロジェクト」は1994年にカナダのDale Hubert先生のアイデアから始まりました。もともと国語の授業で使われていたこの物語を発展させて、自分たちが主人公のフラットスタンリーになって、封筒に入っていろいろな地域へ出かけちゃおう、というプロジェクト。
当時はインターネットの黎明期で、ソーシャルネットワークや共同作業、プロジェクトベースの学習などは(今でこそ一般的になっていますが)当時は新しくて革新的なアイデアでした。
元々が国語の題材なので、子どもの読解力と書く力の向上が目的ですが、それとともに世界の国や地域、人々への興味・関心を育てることも目指すのが、このプロジェクトの素晴らしい点だと思います。このDale先生はカナダでも優秀な先生として表彰されています。
子どもたちが自分で作った紙人形のスタンリーを世界各地の友人や知人に送って、その旅の記録を楽しみます。自分の代わりに見知らぬ土地を紙人形が旅行するといった擬似的体験を楽しみ、その国の文化、暮らしに興味・関心を抱くきっかけにつながります。
このプロジェクトを知ったきっかけ
2012年にアメリカ人の同僚がスタンリーを知人のお子さんから受け取ったのがきっかけでした。彼女が「Flat Stanley、知ってる?」と私に紙人形を紹介してくれました。なんと、アメリカから紙人形が留学に来た!大人の私でも、すごくワクワクしました。
調べてみると立派なホームページがありました。すごく楽しそうだ!ということで、早速個人的に登録をして、受け入れてみることにしました(下の写真をクリックするとウェブサイトへ飛びます)。
どうも、アメリカでは2年生で取り組む人気のプロジェクトのようです。国外の小学校はこういうプロジェクトに参加するのも担任の先生の決断で可能。日本のように一人の担任の先生だけが行うのが難しい地域ではなかなか学校として取り組むのは難しい。
私もまずは自分がやってみないとよくわからないので、個人的に登録をして「受け入れ可能」というポジションで参加しました。2012年当時、このプロジェクトには「送りたい」と「受け入れたい」の2種類の参加スタイルが可能でした(今は相互交換が基本になっているようです)。
すぐに日本に送りたいという子どもがいるアメリカの先生からコンタクトをもらいました。私も学校の教員だと伝えると相手は大喜びで、何人まで送っていいか聞かれて、「来たい子は何人でもいいよ」と伝えました。こちらの連絡先を伝えて待つこと2週間くらい。
本当にやってきた!
届いたのはA4版の大きな封筒。その中には4人のスタンリーたちがいました。一人一人、自己紹介の手紙付き。自分たちはどんなところに住んでいて、日本で何をしたいのか、何を見たいのか、リクエストもしっかり書いてありました。
初めて来たスタンリーたち。私も大興奮です。スタンリーのテンプレートはありますが、一人一人色使いやアレンジがあって、どの子もみんな違う。この子達をカバンに入れて、希望する物や場所の写真をせっせと撮って歩きました。
今は懐かしい渋谷の東急。
街中で紙人形を抱えて写真を撮っている姿はなかなか面白い(変)かもしれませんが、当時、撮影をしていると外国の方が「スタンリー!」と言って話しかけてくることもありました。聞くと、その方のお子さんが小さい頃にやったとか。アメリカでは結構皆さん経験者なんですかね。
学校のプロジェクトの定番になる
それ以来、もっぱら「受け入れたい」という参加スタイルで、夢中でせっせと受け入れておりました。登録していると世界中からコンタクトがありました。当時(今もそうですが)日本でこのプロジェクトに参加している人や団体が少なかったからだと思います。
続々とやってくるスタンリーたちを学校で持ち歩いていたら、やはり子どもたちも気になるようです。「先生、この子たち、誰?」「どこから来たの?」「なんでみんな同じなの?」という会話から、スタンリープロジェクトについて色々と話していました。
そのうちに子どもたちから「先生、私たちもお世話していいよ!」という声が。希望者を募ってスタンリーのレポート作りをしてもらいましたが、その人数が増えてきて、2年後には高学年で全員で取り組むことになりました。
毎年、夏休みや冬休みの長期休暇中に国外から来たスタンリーを一人ずつ連れて帰って、レポートを作っています。長期休暇が明けたら子どもたちのレポートをそのまま学校の玄関で飾ります。
飾った後はレポートを相手に送り返しています。2012年から今日(2021年現在)までに、アメリカ、カナダ、ブラジル、アルゼンチン、チリ、中国、台湾、韓国、インド、インドネシア、マレーシア、シンガポール、ハワイ、マウイ、グアム、イングランド、スコットランド、アイルランド、ドイツ、フランス、イタリア(ヴェネツィア)、スペイン(カタルーニャ)、オランダ、スウェーデン、フィンランド、ポーランド、ルーマニア、ウクライナ、ロシア、スイス、ルクセンブルグ、トルコ、モロッコ、エジプト、南アフリカ、タンザニア、思い出せるだけでこれらの地域から、スタンリーがやってきました。
最初、小学生には活動が少々高度かな、と感じていました。というのも、届いたスタンリーたちはもれなく自己紹介の手紙やレポートを持ってきますが、もちろん日本語で書かれているわけではないので、小学生が自力で解読するのは困難。
そして、相手に伝えるレポートも、日本の小学生が自力で作文できるわけではないので難易度は高い。そう思っていました。
しかし、本物のパワーは違う。子どもたちは相手から届いた手紙を真剣に読もうとします。相手に伝わるようにレポートの言語も工夫をします。大人が考えていたよりも子どもたちは熱心に取り組んでいました。その姿を見て、大人が勝手に難易度を決めていたことを深く反省しました。
本物の相手が書いたものを、子どもたちは読みたい、知りたいと思う。そして、本物の相手に対して、自分たちのことを伝えたい、正しく知ってほしいと頑張る。まさにここに、外国語を通した取り組みの大切な部分があるような気がしていています。
そして、今は機会翻訳という強い味方がいます。自力で相手が書いてきた内容を理解することが、以前よりもしやすくなりました。これって、クラス単位の大勢で活動する時には非常にありがたいです。
以前は「先生、どういう意味?」「先生、読んで!」という子どもたちの声に振り回されておりましたが、今は一人一人が粛々と手紙を読んで、子どもたちだけでその先の活動に進むことができるようになりました。
以上、カナダの小学校の先生のひらめきから始まった、世界的な国際交流活動の一つ、フラットスタンリー・プロジェクトのご紹介でした。
プロジェクトの詳しい流れや注意点などは、また機会があったら書こうと思いますが、ご質問などコメントいただければ、お答えします😊